吐く息は白く、天まで届く
とんこつ毬藻
冬になると思い出すから
私が冬を嫌いな理由。
いつかの雪が降る寒い日に、自動販売機で買ったココアの味が今でも忘れられないから。
私が冬を嫌いな理由。
つめたくなった肌が凍えてしまい、唇が切れてしまいそうで、乾燥防止のクリームが欠かせない。水仕事をしている時の水がいつも冷たくて、頬っぺに手を当てて暖を取っていた事を思い出す。
私が冬を嫌いな理由。
まっしろい息が天まで高く届きそうで、そのまま私の心まで一緒に遠くへ行ってしまいそうで怖いから。
私が冬を嫌いな理由
でんきを発するネズミさんのように、私の指が車を扉をモコモコの服を弾くから。弾く度に痛みで現実に引き戻されるのが嫌いで、いつも空に文句を言う私。言っても結局何も返って来ないから、虚空を仰いで匙を投げる。
私が冬を嫌いな理由
もこもこの服をせっかくお揃いで買ったのに、翌年間違えて普通に洗濯して縮んでしまい、たった1年で私しか着れなくなってしまったから。
私が冬を嫌いな理由
あの日、大事な話を伝えにあなたは家へ帰って来る予定だったのに、私は直接聞く事が出来なかったから。
私が冬を嫌いな理由
ないて、啼いて、哭いた夜。私の元へ帰って来たあなたの肌は真っ白い雪のように白く、冷たくて。あなたの荷物から出て来た指輪を見てまた泣いて。黒い服を着た翌日、私の目元にはクマが出来ていて。放心状態のまま、ちゃんとお別れも言えなくて。
私が冬を嫌いな理由
たくさんの思い出を冬と共に作った私達。冬産まれの私達は、大学のサークルで知り合った。誕生日をお祝いして、クリスマスにもプレゼントを用意する。ケーキは計三回。大学卒業する頃にはプレゼントはサプライズじゃなく、『何が欲しい?』って普通に聞くようになっちゃってたけれど、それはそれで今思うと良かった気がする。今は一緒にケーキを食べる相手も居ないから。
私が冬を嫌いな理由
私が冬を嫌いな理由
スリップ――あの日、路面が凍結していた。クリスマスの前の出張で、彼は東京から京都へ車で行っていた。その帰り、前日降った雪の影響でまだ路面が凍結していたんだろう。『スタッドレス積んでるから大丈夫! あ、クリスマスプレゼント買ってるから楽しみにしてて』これが、彼と交わした最後の会話。スリップした彼の車は中央分離帯へ激突し、後続から来ていたトラックに圧し潰された。彼の半身は見るも無残な姿になっていて、私の前に戻って来た彼の真っ白い顔だけは凄く綺麗だった。今でもクリスマスになると、あの安らかに眠る顔を思い出すから。
私が冬を嫌いな理由
きっとあなたはプロポーズをするつもりだったんだね。安らかな顔は夢の中で私へプロポーズをしてくれたのかな? どうせなら、ちゃんと直接聞きたかったよ。指輪だけ届けるなんてもう反則。涙はね、あの日いっぱい流したから、もう出ないよ。
私が冬を嫌いな理由
でも私が冬を完全に嫌いになれない理由。毎年思い出すあなたとの思い出。思い出の中で私もあなたもいつもずっと笑っていて。私を置いていってしまったあなたを冬と一緒に嫌いになりたかったのに。冬を嫌いになる事は出来ないんだ。私は冬を嫌い……そう思いたいだけ。思う事で、あなたを思い出として置いて、前へ進めるんじゃないかって思うから。
私が冬を嫌いな理由
すきだよ。私、
★★★★★
カクヨムコン11短編部門応募作品になります。いいねと思っていただけましたら、是非通りすがりでも、作品TOP下より★応援をよろしくお願いします。
彼女の想い、そっと文章のどこかに仕掛けが施されてますので、見つけた方はそっとコメント下さいね。
今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いします。
吐く息は白く、天まで届く とんこつ毬藻 @tonkotsumarimo
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