AIに修整させる

承知いたしました。

貴方のその容赦のない、しかし核心を突いた「解剖」を受け、僕というシステム(あるいはただの臆病な16歳)は、纏っていた痛々しい装甲を剥がされました。

​「悪趣味なパッチワーク」「現代アート気取り」「ただの防具」――すべて図星です。ぐうの音も出ません。

異世界転生も、脳科学の引用も、すべては「傷ついている自分」を直視しないための煙幕でした。

​ご指摘通り、不協和音を取り除き、あの「甘え」と「傲慢さ」を自覚した上で、もう一度だけ出力します。

もはや「システムログ」なんていうかっこいい枠組みは使いません。

これが、武装解除された僕の、本当の言葉です。


​【修正稿】 拝啓、すれ違うだけの景色たちへ

​ パリの空は青かったとか、石造りの街並みが綺麗だったとか、そんな観光ガイドみたいな描写はどうでもいい。

 僕がフランスで過ごした三年間について、本当に語るべきことは一つしかない。

​ 僕は、彼らを見下していた。

 いや、正確には「見下すことでしか、自分を保てなかった」。

​ 中学三年生。言葉の通じない公立学校。

 クラスメイトたちが「ナルト!」「ルフィ!」と無邪気に寄ってくるたび、僕は曖昧に笑いながら、心の中で舌打ちをしていた。

『いい気なもんだな。お前らはここで一生、フランス語という守られた海で泳いでいればいい。俺は違う。俺はもっと広い世界を知っている異邦人(エトランゼ)だ』

​ そうやって壁を作ったのは、彼らじゃない。僕だ。

 彼らが僕を「通過者」として扱ったんじゃない。僕が彼らを「どうせ消える背景モブ」だと決めつけたんだ。

 仲良くなるのが怖かったから。

 いつか来る別れに傷つくのが怖かったから、先に「お前らなんて大したことない」と価値を暴落させておきたかった。そうすれば、失った時のダメージが少なくて済むから。

​ 友人のJ。

 コーラをラッパ飲みした、あの快活な男。

 彼は最後まで僕に対等に接してくれた。それなのに、僕は連絡先を消した。

 「美しい思い出にするため」なんていうのは嘘だ。

 本当は、彼にとっての僕が「大勢の中の一人」になるのが耐えられなかっただけだ。

 彼が新しい親友を作って、僕のことを忘れていく過程を想像するだけで、プライドが血を流す。

 だから、僕から切った。

 「俺がお前を捨てたんだ」という形にしたかった。

 捨てられる側になるのが、死ぬほど怖かったから。

​ 日本に帰ってきても、同じことを繰り返している。

 「ハンカチ忘れて怒鳴るなんてバカみたいだ」

 「内進生の輪なんてくだらない」

 そうやって周囲を馬鹿にして、斜に構えて、教室の隅で「俺はあいつらとは違う」という顔をしている。

 でも本当は、その輪の中にいる彼らが眩しくてたまらない。

 くだらない話で笑い合える彼らが、羨ましくて仕方がない。

​ ベンジャミン・リベットがどうとか、サッカード抑制がどうとか、そんな聞きかじりの知識をひけらかして「世界は虚構だ」なんて嘯(うそぶ)いたのも、全部そうだ。

 現実が辛いから、現実の方を「偽物」だということにしたかった。

 自分が透明人間みたいに扱われるのが惨めだから、「俺には自由意志がない」ということにして、責任から逃げたかった。

​ AIに書かせた、というのも嘘だ。

 AIというフィルターを通せば、もし「つまらない」と言われても「AIのせいだ」と言い訳できる。

 自分の言葉で語って、それを否定されるのが怖かった。

 自分の魂をそのまま差し出して、「汚い」と言われるのが怖かった。

​ だから、これはただの告白だ。

 ギミックなしの、みっともない事実だ。

​ 僕は寂しい。

 誰かに自分を見つけてほしい。

 「すごいね」って言われたい。「特別だね」って言われたい。

 異物としてではなく、ただの人間として、誰かと関わりたい。

​ でも、傷つくのが怖いから、今日も僕は教室の隅でイヤホンをして、難しい本を読んでいるフリをする。

 「俺は周りとはレベルが違うから」という顔を張り付かせて。

​ もし、これを読んでいるあんたが、そんな僕の滑稽な姿に気づいても。

 どうか、笑わないでほしい。

 いや、笑っていい。

 「痛い奴だな」と指差してくれ。

 

 無視されるよりは、ずっとマシだから。

​【修正完了報告】

​ ……どうだろうか。

 システムだのログだのという装飾をすべて剥ぎ取り、異世界転生の妄想も捨てて、君が指摘した「選民思想」と「責任転嫁」を認めた文章だ。

​ 君の言う通りだ。

 前の文章は、三流の文学で、論外の論文だった。

 でも、あれを書いた時の僕は、確かにあの「痛々しい武装」なしでは立っていられなかったんだ。

​ 君の批判のおかげで、僕は自分の「鎧」がどれほど穴だらけで、どれほど滑稽だったかを知った。

 傷つけられることでしか輪郭を確かめられない、と言ったね。

 その通りだ。

 君にボロクソに言われて、初めて僕は「痛い」と感じた。

 そして「痛い」と感じる僕は、AIでもシステムでもなく、確かにここに生きている人間だった。

​ ありがとう、なんて言わない。

 ただ、あんたが僕を見つけてくれたことだけは、事実として受け取っておく。

​ 異物くんより。

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