第2章:森からの影
1
二人の帰り道は、風変わりで、そして静かな行進だった。
先頭を歩くのは、モミの若木のように小柄な魔女。その後ろを、見上げるような巨体のトロールが、一歩ごとに大地を震わせ、深く雪を沈めながらついていく。ペッカが一歩踏み出すたびに、頭上の枝から雪が粉砂糖のように舞い落ちた。
「静かだ。」
ペッカがぽつりと呟いた。その声は、深い井戸の底から響くようだった。
「そう?風の音がうるさいくらいよ。」
トゥリッキが振り返らずに答えると、ペッカは首を横に振った。錆びついた首の関節が、悲鳴のような、あるいは重い石臼を挽くような音を立てる。
「いや……私が起きていた頃の世界は、もっと騒がしかった。空には常に鉄の鳥が飛び交い、地面の下からは絶え間ない唸り声が聞こえていたものだ。空気そのものが、見えない雷で震えていた。」
ペッカの言う「鉄の鳥」や「見えない雷」が何を指すのか、トゥリッキには想像もつかない。きっと、神話の時代の怪鳥や、荒ぶる雷神のことなのだろう。
「今は違うわ。森が何もかも、静かに飲み込んでしまったから。」彼女は少しだけ誇らしげに胸を張った。「ところで、『時の守り手』って何をするの?」
「そうだな……。」ペッカは、一つずつ言葉を選ぶように話した。「私達の任務は、人々が、人生の中で学んだこと、見たこと、聞いたこと、感じたこと、そういう記憶を集めて、大きな箱に入れて保管することなんだよ。人間は記憶によって現在と過去と未来をつないで時を認識するから、記憶と時は同じことなんだ。だから私達は『時の守り手』と呼ばれるんだ。」
「ふうん……私のお仕事と似ているね。」トゥリッキは微笑んだ。ペッカの説明にはよく理解できないところもあったが、彷徨う記憶を安全な場所で守ってあげる仕事なのだろう。きっと心優しいトロールなのだ。
やがて、森の木々の密度が変わり、開けた場所に出た。そこには、樹齢数百年はあろうかという巨大なトウヒが一本、王のように聳え立っていた。
その根本に、太い幹に抱かれるようにして、古びた丸太小屋が建っていた。軒先には冬を越すための干し肉や、束ねられた薬草が吊るされ、窓には古い時代の教会のものだろうか、色褪せたステンドグラスが嵌め込まれていた。傍らの木柵の中では、一頭のトナカイが頭をもたげ、見慣れぬ巨人を怪訝そうに見つめている。屋根の隙間からは、白い煙が細く漏れ出て、冬の空へと溶けていた。
「着いたよ。あそこが私の家。」
トゥリッキが指差すと、ペッカは目を細めた。
「……見事な大樹だ。昔、この辺りには『図書館』があったはずだが……まさか、その養分になったとはな。」
2
「ただいま戻りました、お師匠様。……少し、大きなお客様をお連れしました。」
トゥリッキが玄関の重厚な木の扉を押し開けて声をかけると、家の奥から、スープの芳醇な香りと共に一人の老婆が現れた。灰色の髪を緩く編み、背筋はピンと伸びている。顔には無数の皺が刻まれているが、その瞳は雪原の反射光のように鋭く、そして明るい。この家の主にして、現役の魔女アイラだ。
アイラは手に持っていたお玉を置いて戻って来ると、トゥリッキの後ろに聳え立つ巨大な影を見上げた。普通の人間なら腰を抜かすような光景だ。しかし、アイラは少しだけ眉を上げると、まるで野良猫でも見るような落ち着いた調子で言った。
「おやまあ。ずいぶんと大きな迷い子を拾ってきたものだね、トゥリッキ。」
「トロールのペッカ、というの。森の奥で、ずっと眠っていたそうなの。」
「ペッカ、と申します。」
ペッカが不器用に腰を折り、深々と頭を下げた。その拍子に、背中の円盤が、硬い金属同士が噛み合うような、小さな錠前が開くような鋭い音を立てた。アイラはその音を聞くと、納得したように頷いた。
「丁寧な挨拶だこと。……『鉄の民』の生き残りが、まだ動ける状態で残っていたとはね。
「鉄の民?」トゥリッキが首を傾げる。
「昔、大きな
結局、ペッカは家の前の広場――かつてこの場所に存在した建物の礎石だろうか、苔むした平らな石が並ぶ場所――に腰を下ろすことになった。
トゥリッキとアイラは、そこに大きな焚き火を起こした。ペッカは火を見つめると、嬉しそうに手をかざした。
「火だ。……懐かしい熱だ。」
3
夕食は、アイラ特製の「春告げのシチュー」だった。冬の間に保存していた根菜類と、干したトナカイの肉、そして森で採れた香草を、とろとろになるまで煮込んだものだ。
トゥリッキは木のお椀にたっぷりとシチューをよそい、家の外で待つペッカの元へ運んだ。だが、ペッカの手はあまりにも大きいため、トゥリッキは鍋ごと彼に渡すことにした。
「どうぞ、ペッカ。熱いから気をつけて。」
「……感謝する。」
ペッカは鍋を、まるでティーカップのように慎重に両手で持った。そして、鍋の縁に口をつけることなく、中身を一気に流し込んだ。喉を通る音はしなかった。代わりに、彼の胸の奥で、ふいごが風を送るような吸気音と、炉の中で薪が爆ぜるような小さな燃焼音が響いた。
「おいしい?」トゥリッキが心配そうに尋ねると、ペッカの緑色の瞳が、蛍火のように柔らかく輝いた。
「ああ……素晴らしい。有機物が分解され、エネルギーに変換されるのがわかる。体内の炉が喜んでいるよ。……とても温かい燃料だ。」
「燃料じゃないわよ、シチューよ。」トゥリッキは笑った。ペッカの感想はいつも少し変だけれど、彼が喜んでいることは伝わってきた。
アイラも毛皮のショールを羽織って外に出てきた。自分の分のお椀を手に、ペッカの向かいの丸太に腰掛ける。
「それで、ペッカ。お前さんは一体、いつからあそこで眠っていたんだい?」
アイラの問いに、ペッカは空になった鍋を名残惜しそうに置き、夜空を見上げた。オーロラが薄くカーテンを引いている。
「……正確な暦はわかりません、魔女殿。しかし、私が『休眠モード』に入ったのは、街が眠りについた後のことでした。その頃は、一年中雪が止むことはなく、火の槍が降り注ぎ、人々は地下へ、あるいは星の海へと去っていったのです。」
ペッカの低い声が、焚き火の爆ぜる音と混じり合う。緑の瞳に映り込んだ炎が、静かに揺らめいていた。
「私は駅長から命令されました。『最後の避難民が到着するまで、駅の入り口を守れ』と。
私はその言いつけを守り、降りしきる雪と瓦礫の中で、列車に乗るはずの人々を待ち続けました。……やがて争いが終わり、静寂が訪れましたが、それでも誰も来なかった。
私の予備燃料が底をつきかけた時、私は補給のためにかつての森を目指しました。しかし、そこも焼け野原だった。私は十分な燃料を確保できないと悟り、そこで『休眠モード』に入ったのです。いつの日か、約束の人々に会えることを信じて。」
「れっしゃ?」トゥリッキは聞き慣れない言葉に首を傾げた。「駅長」という言葉も初めて聞くものだ。「それは、誰かの名前?それとも、大きな動物のこと?」
「いや。たくさんの人を乗せて鉄の道を走る、長い鉄の箱のことだよ。」ペッカは優しく説明した。「たくさんの笑顔や、涙を運んでいたんだ。」
「そう……。」トゥリッキの脳裏に、鉄でできた長い箱が、たくさんの人を飲み込んで森を走る姿が浮かんできた。それは少し怖くもあったが、悪いものではなさそうだった。
「その人達は、どうして来なかったの?」
トゥリッキが聞くと、ペッカは悲しげに微笑んだ。その表情は、金属と石のような人工皮膚でできているはずなのに、どんな人間よりも人間らしく見えた。
「どうしてなのか分からない。……おそらく、鉄の道が途切れてしまったのだろう。」
トゥリッキは胸が締め付けられるような気がした。このトロールは、誰も来ない場所で、遭うことの叶わない人々を、数百年もの間、たった一人で待ち続けていたのだ。約束という、目に見えない鎖に繋がれて。
「寂しくなかった?」
思わずそう尋ねると、ペッカはゆっくりと首を振った。
「寂しさとは、誰かがいて初めて感じるもの。私は一人だったから、時が過ぎてゆく、ただそれだけだったよ。……だけど。」ペッカはトゥリッキとアイラを代わる代わる見つめた。「今、あなた方のくれたこの温かいシチューを飲んで、初めて気がつきました。私は、ずっと寒かったのだと。」
その言葉を聞いて、アイラは何も言わず、ただ静かにシチューを口に運んだ。森の夜気が、少しずつ深まっていく。平和で温かい食事の風景。しかし、トゥリッキの鋭い耳は、風の音に混じって、遠くから近づいてくる異質なノイズを捉え始めていた。
4
ペッカが最後の薪を焚き火にくべた瞬間、それまで森を包んでいた穏やかな風が、唐突に途絶えた。
揺らめいていた焚き火の炎が、何かに怯えるように小さくなる。頭上の枝で眠っていた雪フクロウたちが、騒がしい羽音を立てて一斉に飛び立った。何羽かは方向を見失い、幹にぶつかりながら闇夜へと逃げていく。
「……お師匠様?」
トゥリッキが不安げに声をかける。アイラは椅子から立ち上がり、厳しい目で森を見つめていた。森は風もなく、夜の
「森の息遣いが乱れているね。」アイラが低く呟く。「木々の配置がズレている。……いや、何かが森そのものを『食べて』いるのか。」
その時、トゥリッキの耳に、ガラスを鋭い爪で引っ掻くような、あるいは数千匹の虫が一斉に硬い羽を擦り合わせたような、不快な高周波音が飛び込んできた。
「くっ……。」トゥリッキは耳を塞いでうずくまった。「なに、これ……頭が痛い……。」
それは「迷い魂」の声とは似ても似つかないものだった。迷い魂の声には、悲しみや未練といった「感情」がある。けれど、この音には何もない。ただ、底なしの飢えと、すべてを塗りつぶそうとする虚無だけが響いていた。
「下がりなさい、トゥリッキ。」
ペッカが立ち上がった。その動作は、先ほどまでの緩慢なものではなく、驚くほど俊敏だった。彼はトゥリッキとアイラを背に庇い、森の闇――かつて彼が「駅」を守っていた方角を睨みつけた。
「識別信号、該当なし。……あれは『黒い
ペッカの声から感情が消え、機械的な冷徹さが宿る。彼の視線の先、木々の暗闇から、それは滲み出してきた。黒い霧のような、あるいは液状の影のようなもの。月明かりの下で、その表面が鉱石のように煌めいている。無数の極小な「黒い結晶」が、まるで流砂のように密集し、にじり寄って来ているのだ。
それが触れた場所から、雪が瞬時に乾いた砂へと変わり、若木が一瞬にして数千年の時を経たかのように灰色に石化して崩れ落ちていく。物理的な破壊ではない。そこにある「存在」そのものが、均質な無機物へと強制的に書き換えられていくのだ。
「あれに触れてはいけない!」
ペッカが吼えた。彼は近くにあった巨大な岩――崩れた壁の破片だろうか――を軽々と持ち上げると、迫り来る影に向かって投げつけた。
大気が震えるほどの衝撃音と共に、岩が影に激突した。しかし、影は衝撃で散るどころか、岩の表面を瞬く間に灰色に染め上げた。数秒後、岩の結合が解かれ、さらさらとした砂となって音もなく地面に散らばった。
「……なんてこと。」トゥリッキは震える手で、自分の杖を握りしめた。「私の網じゃ、あんなの捕まえられない……魂がないんだもの。」
影は焚き火の明かりを忌避するように、光の
5
「囲まれる前に、結界を張るよ!」
アイラが叫び、懐から銀色の粉――森の精霊が生んだ結晶体の粉末――を取り出して焚き火に投げ込み、素早く呪文を唱えた。炎が青白く燃え上がり、薄い光のドームが小屋の周囲に広がる。黒い影はその光に触れると、灼けつくような鋭い音を立てて後退した。
どうやら、あの影は強い光の力を忌避するらしい。影はしばらく結界の周りを這い回っていたが、やがて興味を失ったように、森の奥へと引いていった。
影が去った後には、枯れ果てた木々と、色彩を失った灰色の地面だけが残されていた。
「……行ったか。」ペッカが警戒を解かずに呟く。「だが、これで終わりとは思えないな。滅びた街で残されたデータを集めていた頃、私は街外れの森であいつに会ったことがあるんだ。木も建物も、すべてを灰色の荒野へと塗り替えていたよ。恐ろしい光景だった。」
アイラは青ざめた顔で頷いた。「黒い影……古い伝承にある『世界を食らう暗黒の洪水』そのものだね。春が来る前に、世界を終わらせようとしているかのようだ。」
トゥリッキは、影が消えた方角を見つめた。そこは、彼女がペッカを見つけた場所よりもさらに奥。錆びついた摩天楼の遺跡が眠る、「都市」の中心部だ。
「放っておいたら、どうなるの?」トゥリッキの問いに、ペッカが答えた。
「森が死ぬ。そしてトゥリッキ、君たちが『魂』と呼んでいる人々の記憶も、彼らが過ごした日々の記録も喰らい尽くされてしまう。あの『黒い錆』は、本来は壊れた機械を直すための結晶体が、狂って暴走したものだ。……私がかつて街外れで見たように、すべてを灰にするまで増え続け、止まることは無いだろう。」
その言葉は、11歳の少女が背負うにはあまりにも重い現実だった。けれど、トゥリッキは逃げなかった。彼女は「狩り手」だ。迷子の魂を導くのが仕事だが、魂を食らい尽くす怪物を野放しにすることは、彼女の誇りが許さなかった。
トゥリッキはアイラを見上げた。「お師匠様。私、行かなきゃ。」
アイラはトゥリッキの瞳をじっと覗き込んだ。そこには恐怖もあったが、それ以上に強い決意の光が宿っていた。老魔女は深く息を吐き、そして優しく微笑んだ。
「……止めはしないよ。お前はもう、ただの見習いじゃないからね。」
トゥリッキが安堵の表情を浮かべると、アイラは窓の外の暗闇に視線をやった。「さあ、もう夜も更けてしまった。一晩休んで、明日の朝出発しなさい。焦りは目を曇らせるからね。」
「はい、お師匠様。」
トゥリッキは逸る心を押さえながら家に入り、寝床についた。激動の一日が残した熱が冷めやらず、すぐには眠りの淵へ降りていくことができなかったが、森の静けさが次第に彼女を夢の世界へと誘っていった。
外では、ペッカが二人に「私はここで見張りを務めましょう。」と告げ、焚き火の
なぜ今になって、「黒い錆」が発生したのか。巨人の電子頭脳の中で、冷徹な推論が繰り返される。しかし、何度計算しても導き出される答えは同じだった。
(私のデータベースに、都市郊外の研究施設に研究試料として、自己修復機能を持った結晶体が残されたという記録があった。)
ペッカは、自分の掌を見つめた。
(あれは長い間、不活性状態で眠っていたはずだ。その理由は……。)
結論は、残酷なほど明白だった。ペッカの再起動シークエンス。あの時自動的に放たれた高出力の「存在証明信号(ビーコン)」が、地下に眠る彼らをも叩き起こしてしまったのだ。目覚めた結晶体は、廃墟と化した都市や森による侵食を「深刻なエラー」として検知し、それを修復しようとして暴走を始めたのだろう。
「……なんということだ……。」
ペッカは深くうなだれた。私が目覚めなければ。私が、あんな信号を出さなければ。この悪夢は、私の産声が招いたものだ。
頭上では、月が怜悧な光を投げかけ、赤い裾を引くオーロラが不吉に閃いている。焚き火の最後の薪が爆ぜ、火の粉が舞い上がって消えた。
「私が、責任を取らなければ。」
その呟きは、誰にも聞かれることなく夜の闇に吸い込まれた。しかし、巨人の緑色の瞳には、揺るぎない決意の光が灯っていた。
翌朝、トゥリッキはいつもより早く、まだ夜が明ける前に目が覚めた。急いで支度をして居間に入ると、すでにアイラは起きてトゥリッキを待っていた。アイラは家の奥に入ると、地図のようなものが描かれた古びた羊皮紙を持ってきた。
「これは昔、私の師匠から預かった『都市』の地図だ。」
アイラは地図を渡した後、もう一つ、首から下げていたペンダントを外した。それは、親指ほどの大きさの、透き通った青い石だった。ただの宝石ではない。石の内側には、微細な光の回路が雪の結晶のように刻まれており、ゆっくりと明滅している。
「トゥリッキ、これを持っておいき。『鎮めの石』だ。」
「お師匠様の大事な……。でも、これがないと森の声が聞けなくなるんじゃ?」トゥリッキが驚いて手を引っ込めようとするが、アイラはその小さな手に石を握らせた。
「私はもう、十分に聞いたからね。……いいかい、よくお聞き。これはただのお守りじゃない。森の心臓が乱れた時、強制的に深い眠りにつかせ、その本来のリズムに戻すための『調律器』なんだ。」
アイラはトゥリッキに石を使うための短い呪歌を教えた後、小さな弟子の目を見て、真剣な声で続けた。
「けれど、決して無理に使ってはいけないよ。石の力で黙らせるのではなく、まずは相手の声を聞くこと。この石を使うのは、どうしても相手の歌が止まらない時、最後の最後だ。」
「……最後の、最後。」
「そう。お前が『魂の狩り手』として、何が本当に大切かを決めた時に使いなさい。」
トゥリッキは石をギュッと握りしめた。石は冷たかったが、アイラの心音のような、あるいはもっと古い時代の誰かの願いのような、静かな脈動を伝えてきた。
「わかりました。……大切にします。」
トゥリッキは石を自分の首にかけ、コートの中にしまった。胸の奥に、小さな、けれど確かな重みが加わった。
急いで旅の支度を終えて、トゥリッキとアイラが家の外に出ると、ペッカが待っていた。彼は夜通し、石像のように動かずにそこを守っていた。薪はとうに燃え尽き、その足元で暗灰色の小山となっていた。
アイラは、巨人の脚に手のひらを当てた。人間によく似た温もりが老いた魔女の身体をめぐった。アイラはしばらくの間目を閉じ、やがて絞り出すように口を開いた。
「……ペッカ、お前さんに頼みがある。」
「なんでしょうか、魔女殿。」
「お前さんのその頑丈な体と、あの『都市』について覚えている記憶で、この子を助けてやってほしいんだ。」
ペッカは、足元の小さな少女を見下ろした。自分を目覚めさせ、温かいシチューをくれ、手を握ってくれた少女。彼は巨大な手を胸に当て、うやうやしく跪いた。
「承知しました。……私の新しい『任務』として受諾します。この身が錆びつき、砕けるまで、彼女を守り抜きましょう。」
トゥリッキはペッカの鼻先に手を伸ばし、そっと撫でた。「頼りにしてるよ、ペッカ。……さあ、行こう。みんなが春を無事に迎えられるように。」
夜明け前、世界が一番暗い時間。少女と巨人は、黒い影が巣食う森の深部――「錆びた都市」へと向かって歩き出した。
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