第二章 始まりは青い春②
趣味が筋トレだと言う
正直部活にも入っておらず、特別趣味もない賢人からすれば、余った役割が割り振られるのをぼーっと待つだけだ。光輝は先生の手伝いをする各教科の係の中でも、やることが最も少ないことで有名な国語係をいの一番に取りに行った他、先程もしかしてと思った通り、今年はまさかのクラスメイトになった光輝の元カノである秋山さんは数学係にしれっと立候補していた。
さて、本来であれば図書委員も美化委員もいつもなら余った人同士が牽制しあっても割とすぐに決まるものだが、今日はその牽制がやけに長い。理由としては、噂の五十嵐さんが手を挙げていないからだ。それに、なんとか彼女とお近付きになろうとしているもう一人の男子が、この沈黙に痺れを切らした五十嵐さんが手を挙げるのをじっと待っているらしい。
最初こそ他の男子も似たような雰囲気ではあったものの、楽な係や委員がすぐになくなっていく葛藤から一人折れ二人折れ。やがて残ったのが賢人ともう一人だった。残った女子にしても五十嵐さんに遠慮しているのか、手を挙げるか迷っているらしい。個人的には何をするでもないが家には早く帰りたい。それに、雨の日は朝の水やり当番が免除されるという話だし、どうせやるなら美化委員か。
「後二つだけなんだからさっさと決めろー」
鈴木先生の少し苛立ちのこもった声を聞いて、なんだか自分ももう一人の男子と同じように見られている気がして、賢人はのろのろと立ち上がりながら手を上げる。
「湯浅、美化委員で」
鈴木先生が半ば強引に書記に任命した、彼が顧問を務めるラグビー部の生徒がやっとかよとでも言いたげな表情で黒板に汚い字で湯朝と書く。それだと朝風呂になるだろと内心ツッコミを入れた時、周りがにわかにざわつき始める。まさかみんなも同じことを思ったのだろうかなんて、そんな馬鹿みたいなことを考えながら辺りを見渡すと、周りの視線が一人に注がれていた。
「五十嵐、美化委員に立候補します」
まるで鈴を転がしたような澄んだ声に、先程までざわついていた周りが一気に静まり返る。何が起きたか分からないのは賢人も同じで、そこでようやく今声を発した人物の顔を見ることができた。
そこにいたのは、あの日電車で人のことを馬鹿にしたように笑ったあいつ。そして、今日の朝、賢人の心を焼いた人。どうしてあの日馬鹿にしたやつと同じ委員なんかにわざわざ立候補するんだよ。放っておいてくれよ。可愛い人形みたいな人じゃないのかよ。恨み節を込めて光輝に視線を送るも、彼は賢人の思いなど知ってか知らずか、口の動きだけで「マジかよ」とメッセージを送ってくれる。ありがたい限りだ。
ただでさえクラスメイトであることに絶望したのに、まさか委員までも同じになるなんて。委員の相方があの人だなんて最悪以外の何物でもない。どうせ同じ気まずさを味わうなら、秋山さんと同じ数学係を選ぶんだった。
先程人の名前を間違えた書記の彼が、賢人の隣にこれまた汚い字で五十嵐と書き添えた。そっちは間違わないのかよなんて、現実逃避する。やけに視線を感じて黒板から視線を逸らすと、様々な感情がこもった瞳でクラスメイト達が賢人を見ていた。注目されないをモットーに生きていただけに、初めての状況に情けなくもおろおろとしてしまう。
「先生! 俺! 俺が美化委員やります!」
先程までこちらの出方を伺っていた男子生徒が、勢いよく立ち上がると、高らかに宣言する。すると、あれよあれよとクラス中の男子が美化委員に立候補し始める。こちらとしてはもっとやれぐらいの気持ちでその様子を見守る。この流れのまま、じゃんけんで決めますぐらいにならないだろうか。
「あー……」
今日一番のボルテージに、鈴木先生が若干気圧されている。それでも、教師としての面目を保つためか、ぱんぱんと手を叩くと静かになるようにアピールをする。それでも静かにならないクラスに対し、流石に苛立ちを覚えたのか、ドンッと教卓を勢いよく叩いた。
「一回決まったことを後から変えることはしない。それに、湯浅と五十嵐はしっかりと自分の意見で立候補したんだ。本当に美化委員がやりたいなら最初から立候補すれば良いだけだろうが。違うか? いいか、人で仕事を選ぶなんてナンセンスだ。よくよく覚えとけ。んで、美化委員は男子湯浅で女子が五十嵐。図書委員は男子が
鈴木先生はそう淡々と告げると、書記の彼に今言ったことをそのまま書くように指示する。宮城と呼ばれた男子はショックで頭を抱えていたが、山川と呼ばれた目の前の女子は、その逆で嬉しそうに小さくガッツポーズしていた。何と言うか、自分が犠牲になって恋が一つ実るのならまあ……となれるほど自分はそこまで大人ではない。嫌なことは極力したくないし、できることなら逃げ出したい。山川さんには悪いが、今すぐ宮城くんと委員を交代させてほしい。
「よーし、そしたらこのまま休憩入らずにちゃっちゃと文化祭の出し物決めて、今日は早く帰るぞー。
書記こと岡本は、先生は何言ってるんだろう? とでも言いたげな表情で鈴木先生を見ていた。
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