第二章 始まりは青い春①
「初日からやるねー」
言いながら、光輝がにやにやとした笑みを浮かべている。そんな彼とは対照的に、賢人は教室で頭を抱えていた。やってしまった。一年の頃は家の事情でしょっちゅう遅刻していたからある程度は慣れているものの、それでもこのパターンは初めてだ。
目立ちたくない一心でここまで息を潜めて来たのに、よりにもよって初日からやらかしてしまうなんて。先程までのことがフラッシュバックして来て、賢人はさらに深く頭を抱えた。
盛大に遅刻した賢人が体育館へ向かうと、予想通り既に始業式は始まっていた。新しい担任の鈴木先生に少しお小言を並べ立てられた後、列の一番後ろに加わる。こそこそと気配を殺して並んだはずだが、それでも目立つことには変わりがないらしく、辺りからくすくすと笑い声が聞こえて来た。
よくよく考えてみるとそれは賢人に向けられたものではないかもしれないが、その時は恥ずかしさのあまり、自分が笑われているように感じられた。遅刻もせずに登校して来たはずなのにと、始業式が終わってもずっと俯いたままの賢人がようやく顔を上げることができたのは、こうして光輝に話しかけられてからだった。
「……うるさいよ」
ようやく絞り出した声に、光輝はけらけらと楽しげな笑い声を上げる。お前のせいで遅刻したんだからなと言いたくなるのをぐっと我慢し、代わりに長い長いため息を吐き出す。先程秋山さんの姿を見て、光輝のことを意図せずとは言え憐れんでしまったことは言いたくなかった。もう一度盛大にため息を吐いてから、気持ちを入れ替えるために「よし」と呟く。
「今日帰り映画でも行かない? 観るのは任せるから」
「けんけんからお誘いなんて珍しいじゃん。行くしかないっしょ」
光輝はそう言なり嬉しそうに今何が上映されているかを調べ始める。しばらくしてようやくお目当てのものが見つかったのか、光輝はウキウキとした表情でスマホを賢人に差し出した。
「……正気か?」
表示されていたのはまさかのスプラッタ映画で、賢人は彼にチョイスを任せた少し前の自分を恨んだ。
「失恋したショックを癒すために狂ったように映画観てたんだけどさー。スプラッタ映画が一番現実を忘れられるんだよね」
どこか遠い目で言う彼に、何も言えなくなる。それにしてもスプラッタ……スプラッタかあ。そもそもホラー自体が苦手なこともあって、そう言ったジャンルのゲームですらも忌避していた自分が、果たして最後まで耐えられるかは些か疑問ではある。それでも、何でも良いと言った手前、渋々了承する。
「あーでも、これ十三時半の回逃したら次の回は十九時しかないじゃん」
ちぇーっと唇を尖らせる光輝に、賢人は首を傾げる。今日は始業式だけのはずだし、部活に入っていない生徒はすぐに帰れるはずだ。確かに映画館へ行くには電車かバスで移動しなければならないが、それでも先程言っていた十三時半の回には十分に間に合うはずだ。
「何か予定でもあんの?」
「ん? いやだって体育館行く前に鈴木センセーが始業式終わったら係り決めと、文化祭に何やるか決めるって言ってたじゃん」
そこまで言ってから、光輝はにやぁと楽しげな表情を浮かべる。口を開かなくても彼が何を言いたいのかよく分かった。
「けんけんは俺と違って不良だから、知らないかあ」
「…………こんな日陰者が不良なわけないだろ」
賢人は机に突っ伏したまま、そう弱々しく返すことしかできなかった。
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