第31話 【公文書】回収報告書2
【音録石の回収報告書】
日付:王暦125年 10月22日
担当:ギルド調査員ミレット
「安らぎの洞窟」の地下1階、座標(23.15)にて、音録石を回収。血液以外の粘液状の物体が付着。正体は不明。付着していた粘液は、触れるとわずかに体温のような熱を持っており、甘い花の香りがした。もしかすると、スライムの一部かもしれない。報告書作成時点でも乾燥する兆候がない。現場に残っていたのは、バレット氏の短剣のみ。4つの識別タグは消失。
【事後処理記録:案件1067】
処理担当:ギルド運営課
・バレット氏の短剣:村の「ドニ武器店」へ、備品補充として委託。
・捜索協力費:金貨1枚。村の「若衆会」へ、夜間パトロールの謝礼として支払い。
・特記事項:「安らぎの村」の村長より、遺失物の早期発見および原状復帰に対する感謝状を受領。
本報告書を以て、当ギルド所在地の「拠点村」と「安らぎの村」の間に締結されている「安全保障に関する協定」に基づき、事後処理を終了とする。
【研究員のメモ】
以前の報告書と似ており、淡々と事実のみが書かれている。そして、スミスやアマンダの敵討ちに向かったバレットも死んだ。ある意味、当然の結果かもしれない。今回の報告書で気になるのは「もしかすると、スライムの一部かもしれない」という一文。これは、ミレットの推測が混じっている。普通ならば、報告書に書くべき内容ではない。バレットを知っているがゆえに、感情移入したのだろう。自分は学者なので、そんなことがあってはならない。決して。
【研究員のメモ:追記】
院生がバレットの短剣と同じ座標の土を掘り返し、「先生、これ粘土じゃなくて肉ですよ」と笑いながら口に運んでいた。私はそれを叱責することすら忘れて、土から漂う甘い花の香りに陶酔していた。学者として、この香りの成分を特定せねばならない。それが私の義務だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます