第30話 【日誌】スミスとアマンダの日誌

 今日は「スミスとアマンダの日誌」を読む。きっと、ここに何かヒントがあるはず……。でも、少し甘い花の香りがする。花の匂いのはずなのに、鳥肌が立つのはなんで? そういえば、カイルさんの遺品からも似た匂いがしたような覚えがある。これ、関連性があるのかな?



王歴125年10月20日

今日は、いよいよ「安らぎの村」へ行く日だ。バレットだけ置いていくのは気が引けるが、慎重すぎるから仕方ないか。まあ、後から俺たちが英雄譚を聞かせれば、1人でも行くだろうさ。



 これはスミスさんの筆跡? 刃物みたいに鋭く、細い字。日誌を突き破りそうなくらい勢いがある。たぶん、洞窟へ行くのが楽しみだったんだろうな……。



王歴125年10月20日

村の連中の話じゃ、もうそろそろ着くはずだが……。アマンダが手を振ってる。もしかして、村が見えたのか? それなら、早



 あれ、文字が途切れてる。もしかして、スライムに襲われた!? 「安らぎの洞窟」の外で? それが事実なら、この村も危ない!



王歴125年10月20日

やっと、「安らぎの村」に到着。あれ、さっき書き途中だったからか、妙なところで切れてるな。まあ、そういうこともある。村の女が、こっちをジロジロ見てくる。冒険者だから歓迎してくれてもいいはずだが。それとも、俺に惚れたのか? いやぁ、困っちまうな。故郷には婚約者がいるし。



 きっと、スミスさんの勘違いだわ。ギルドと「安らぎの村」は「安全保障に関する協定」を結んでいる。これには、冒険者への暴力はもちろん、干渉も許されていない。何か別の意図がある……?



王歴125年10月20日

村長が「清めの儀式」を始めるって言いだした。どうやら、「安らぎの洞窟」へ行くには必須らしい。そういえば、ギルドも儀式なしでダンジョンへ行くのは禁止って言ってたような。説明を詳しく聞いてたのは、たぶんバレットだけだ。さて、どんな儀式なのかな。



 なんだか、おかしい。日誌の端に血が滲んでいるように見える。気のせい……だよね?



王歴125年10月20日

儀式完了! 村での飯もうまいし、言うことなしだな。さっきの女も陽気に話しかけてくる。「清めの塩」をもっと摂取しろって。まあ、俺はがたいがいいから、塩の効果が出にくいんだろう。この塩、うまいし文句はないけどな。なんだか、腹の調子がおかしい。食いすぎたか?



 え、お腹がおかしい? それって、まさかカイルさんたちみたいに――。



王歴125年10月21日

いつの間にか、日をまたいでた。夜明け前だが、出発する。「安らぎの洞窟」へ! って、言いたいが、アマンダが起きない。あれ、アマンダの様子がおかしい!



 早く次のページで真相を確認しなくちゃ!



 そこにあったのは、血でまみれた人の手形だった。







【野外研究チーム:状況報告】

学生が血の手形の映像を見た直後、研究室(プレハブの仮設小屋)の外から、「バシャッ、バシャッ」と、粘土を地面に叩きつけるような音が聞こえ始めた。


外は霧が深く、視界は5メートルもない。懐中電灯で外を照らすと、本来そこにあるはずの林の隙間に、映像の中の「安らぎの村」にあったものと同じ、巨大な青い花が不自然に咲き乱れている。


学生は「アマンダさんが庭で笑ってる」と言い、窓を開けようとした。慌てて止めたが、窓ガラスの結露を拭った手の跡が、映像の「血の手形」と全く同じ形状に、指が一本多い六本指の跡として残っていた。


私は、この「記録」そのものが、長野のこの土地にスライムを呼び寄せる「呼び水」になっているのではないかと疑い始めている。

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