第29話 【音録石】新米冒険者へのインタビュー
【物件番号: 】音録石(マジックレコーダー)の記録
回収場所: ギルド地下金庫
回収日: 王暦125年 月 日
以下は、ミレット調査員と新米冒険者の会話の音録石である。
ミレット:
「あのー、少し話を伺ってもいいですか? ギルドの調査員のミレットと言います」
(ミレットは、証明手帳を見せる)
新米冒険者:
「ああ、インタビューね。俺で良ければ。おっと、待ってくれ。身だしなみを整えなくちゃな」
(衣擦れの音)
新米冒険者:
「よし、なんでもいいぜ。代わりに、俺が答えられる内容だけで頼むぞ」
ミレット:
「はあ、そんなの無理ですよ。じゃあ、インタビュー開始です」
新米冒険者:
「で、お嬢ちゃんは、質問は?」
(沈黙)
ミレット:
「じゃあ、1つ目。あなたは、この村に来て何日目ですか?」
新米冒険者:
「えーと、そうだな、3日目だ」
(カリカリと羽ペンで羊皮紙にメモする音)
ミレット:
「でも、珍しいですね。普通は1泊で洞窟に向かいますけど……」
新米冒険者:
「そりゃ、俺は、こう見えても慎重派だからな。ほら、識別タグも4つある」
(カチャカチャという金属音)
ミレット:
「4つですか……。あれ、お仲間は? さすがに1人ではないですよね?」
新米冒険者:
「それがよ、相棒たちが先に『安らぎの村』へ行っちまって……。ほら、あそこまでの道、1人じゃ危険だろ?」
(ミレット、ため息をつく)
ミレット:
「つまり、今はあなた1人というわけですか。そうなると、慎重派のあなたは、いつまで滞在するんですか? ギルドとしては、滞在期間が長いと困るのですが」
新米冒険者:
「困る? なぜだよ。きちんと金払って宿泊してるぜ?」
ミレット:
「実は、ここ最近、洞窟での行方不明者が爆発的に増えていまして。あまり長期滞在はおすすめできません」
新米冒険者:
「それは、問題だな。よし、分かった。明日には村を出るよ。そして、『安らぎの村』へ行く」
ミレット:
「え、さっき1人は危険だって……」
新米冒険者:
「ああ、気が変わったんだよ。お嬢ちゃんにダサいところ見せられないからな」
ミレット:
「ですから、洞窟も危険なんです!」
新米冒険者:
「それなら――」
(別のギルド調査員が、遺品を持って歩いてくる)
ミレット:
「言いましたよね。あれが現実です」
新米冒険者:
「……。う、嘘だろ。それ、相棒のハンマーに似てる! おい、よく見せてくれ!」
(調査員、戸惑いつつも遺品を見せる)
新米冒険者:
「ここに、スミスって書いてある! ああ、そんな……。だから、3人で行くべきだったんだ」
ミレット:
「3人……? その、ここにあるのは1人分ですが。もしかして――」
(調査員、無言で識別タグを見せる)
新米冒険者:
「これは、アマンダのじゃないか! おいおい、2人して俺より先にあの世に行っちまったのかよ……」
(鼻水をすする音)
ミレット:
「……。だから、村にいても危険なんです。ここが絶対安全だとは保証できません。洞窟が近いですから」
新米冒険者:
「ああ、分かったよ。明日には村を出ていく。そして、洞窟で敵討ちをする!」
ミレット:
「え、ちょっと!」
(新米冒険者、制止を振り切り走り去る)
ミレット:
「その遺品、見せてもらえますか?」
調査員:
「構わんよ。でも、ハンマーと識別タグ、それに日誌だけだ」
ミレット:
「この日誌、お借りします。何か、洞窟での惨事について書いてあるかも」
調査員:
「まあ、ミレットがそう思うなら、そうなんだろうな。お前の勘、よく当たるから」
(ミレット、バッグに日誌をしまう)
ミレット:
「じゃあ、またギルドで会いましょ」
(数秒後、暗転し電源がオフになる)
【研究員のメモ】
先ほど、学生の1人が古井戸の再調査への向かったが、音沙汰なし。まさか、この話の人物たちのように何かに襲われたのか? いや、それは現実的ではない。自分は学者だ。非現実的なもの超常現象を信じるほど馬鹿ではない。
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