第8話

「おっさーん、なんか見つかったー?」

 夕方、双子が来庁してくる。おおよそ警察署で聞く声ではなく、ちょっとうんざりした。

「めぼしいものは特に。よく行ってそうな店とか、関係ないだろう家族や恋人の情報は手に入ったけど」

「売買のやりとりはしてませんでしたか?」

「多分、時限で消えるアプリ使ってた」

「あー、まあそっか」

「あ、そうだ係長。この消えたデータの復元とか……どっかに頼めないですか?」

「うわあ、無茶言う……。それ、バイク窃盗犯に必要? って言われるやつだよ」

 ですよね。

「まあ、無茶を通すのが仕事なんでね」

 しぶしぶと係長がスマホを受け取ってくれる。

「ただまあ、期待はしないで」

「お願いしやーす!」

 セイが聞いてた? と言いたくなるぐらい適当に言う。もしかしたら、理解できてないのかもしれない。とはいえ、係長には敬語使うんだな。

「あー、貸出期間の問題もあるか」

 とかぶつぶつ呟きながら、どっかに電話して、係長は部屋をでていった。

 あの人、こんな部署に来なければもっとすごい仕事できたのでは……? とかちょっぴり思う。

「とりあえずはデータ復元が手に入ればラッキーってとこかな。それと、あいつのよく行ってた店で情報収集ってとこか」

「うわぁ、地道~」

「捜査っていうのは地道なんだよ……」 

「まあ、何も情報を手に入れられなかったのは私たちも同じですし」

 とクミが残念そうな顔をする。

 そういえば、オカルト能力も、足で稼ぐ捜査も、明確な情報が見つかっていない点では一緒か。

「まあ、確かに」

 セイもしぶしぶといった顔でそれには同意する。

「買い手の方の女の子の部屋も、特に変わったものはありませんでしたし」

「せっかく、ここ来る前に寄ったのにな」

「……法でさばけない話だから聞かなかったことにしとくわ」

 不適切な侵入を自白しないでほしい。

「あ、そういえばさ」

 売人の家の鍵と、そのキーホルダーを手渡す。

「これ、なんか見覚えあるんだけど、わかる?」

「センスないな」

「それは同感」

「蟲毒みたいですね。悪趣味」

「こどく?」

 聞きなれないワードに首をかしげるが、

「はい。えっと、壺の中に毒虫とかいれてやるやつで……」

 クミの言葉がそこでとまってしまう。ナウローディングといった顔つきになったので、

「いいわ。調べる」

 と自分のスマホを持ち上げる。調べてでてくるかな……と思ったが普通にインターネット辞典がでてきた。

「ヘビ、ムカデ、ゲジ、カエルなどを同じ容器で飼育し、互いに共食いさせ、勝ち残ったものが神霊となるためこれを祀る。この毒を採取して飲食物に混ぜ、人に害を加える……え、怖くない?」

 描かれた絵柄を見ると、確かに蜘蛛やらとかげやら……それっぽさがあった。

「……これ、どっちかなあ」

 ただのパンクなキーホルダーなのか、それとも売人絡みなのか。

「これが本当に蟲毒なのだとしたら……」

「ちょっとだけスペクターに絡んでそうだよな」

「なあ……?」

 これから探すっていうルートもありか。

「おっさん、これどこで見たんだよ?」

「ずっと考えてるけど思い出せないんだよなあ」

 ただ、これと同じキーホルダーではなかった。もっと小さいものだった気がする。

「はー、これだからおっさんは。記憶力が」

「おっさんおっさん言ってくるけど、そんな歳変わらないからな? 数年後跳ね返ってきてもしらないぞ」

 などと言いながら今後の予定を立てる。

「とりあえずは、このキーホルダーについて調べるか。あとは売人が立ち寄ってた場所とかに探りをいれて……」

「私たちは何を?」

 クミがそう言ってくるが……

「……勉強?」

 思いついたのがそれしかなかった。

「……はい?」

「ごめんごめん、あまりにもやることが警察捜査だから」

 聞き込みに彼らを連れて行くわけにはいくまい。

「……様子見て大丈夫そうだったら、恋人に接触はお願いするかも」

「それでしたら今からでも!」

「大丈夫そうだったら。……悪いけど、君たちを恋人を亡くして……それも留置所でっていう状態の人に、会わせるわけにはいかないよ」

 どんな無神経爆弾をぶん投げることやら。

 二人は何かを言いかけ、だが顔を見て……、

「わかりました」

「しかたねーな」

 それを飲み込んだ。お互いに相手が地雷を踏むと思ったのだろう。踏むのは両方だよ。

「あとはまあ、スペクターの情報でなにか噂が入ったら教えてほしい。それと」

「そのキーホルダーか?」

「ああ。画像検索では特にひっかからなかったけど……なんとなくきな臭いし」

「どっかのバンドのロゴとか……って可能性もありそうですけど」

「それならそれで。無関係なことがわかるならそっちの方がいいし」

 しかし随分いきったロゴだな。

「じゃあ、そんな感じで明日は……」

「あ、明日は休みだから。祝日だし」

「はあ? おっさん、てめぇ、この大変な時に休みだぁ?」

「大変つったって大きな手掛かりはつかめてないし。あと、一応休暇の権利は与えられてんだよ、警察官にも」

 まあ、本当に休めるか、呼び出されないかどうかは別だけど。

 今はこの怪しげな案件しかないから、久しぶりにゆっくりできそうだ。引っ越しの片づけをしよう。

「もちろん、なんか見つかったら連絡して」

 セイはなんだか釈然としてない顔をしていたが、

「休まないと効率が落ちるから」

「ああ、歳だもんな」

 クミの言葉で納得した。だから数年後覚えてろよ。

「二人も、あんまり無理しないで。あと無茶も」

「へいへい」

「幽霊的な話をしてるから感覚麻痺してるかもしれないけど、薬物なんて反社会的勢力がバックにいることが多いんだから。そういう意味で気を付けて」

 ちょっと強めにいうと、

「それは……はい」

「……わかったよ」

 神妙な顔で二人は頷いた。やっぱりそこの自覚、あんまりなかったか。

 少し話をして、双子が帰っていく。

 係長は結局部屋に戻ってこなかった。帰っていいよというメッセージだけ届いていたので、お言葉に甘えて帰宅する。

 あと、多分復元の件いけそう、とのことだった。有能では?

 なんやかんやで疲れた二日間だった。今までの疲労とは種類が違う。

 寮に戻ってベッドに倒れこむと、スマホがメッセージを受信して震える。

 見ると恋人……元恋人からだった。

「ながい……」

 要約すると、別れようといわれて素直にオッケーするなんてひどい。引き留めてくれてもいいじゃないか。引き留めてくれたらやり直したかもしれないのに。といった恨み節だった。

「あー、地雷引いたわ」

 やっぱり合コンしばらく控えよう。自分、見る目がなさすぎる。

 自分でいうのもなんだがそんなにいい男でもないし、お互い付き合いだしたばかりで大した思い出もないのに。

 そう思いながらも無視すると、自他害の危険があるなと判断。

 明日会う約束を取り付けた。

「ああ、俺の休み……部屋の片づけ……」

ぼやきながら、ほっとかれたままのダンボールを見る。やっぱり当分このままかも。

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