第2話

 新しい勤務先、特殊対応係の部屋は、建物のかなり隅っこらしい。どこにあるかわからなくて、受付で聞いてしまった。

 たどり着いたのは、物置みたいな小さな部屋。本当にここでいいのか、間違っていることを祈りながら確認したが、あいにくと書かれたプレートの名前は正しかった。

 先行きが、不安すぎる。

 思いながらも深呼吸し、ドアに向かう。ノックして、

「失礼します」

 中に入る。

 事務的な長テーブルと椅子が四脚。使われていないパイプ椅子が、壁際に立てかけられている。やっぱり、物置では?

 扉を閉めたミノルに、二対の視線が向けられる。制服姿のガキが二人、長テーブルを囲うように座っていた。なんだかダラけたように座る男と、それなりにきちんと座っている女。揃いの茶色のブレザーに緑のスカートとズボン。これは確か、近くの高校のもの。そこそこ偏差値の高い学校だったよな、と脳内のデータベースから引っ張り出してくる。

 生活安全課だし、保護少年たち? その割には、女の方は保護される理由がパッと見で見つからないレベルで品行方正な見た目をしている。まあ、男の方はダラけた感じがちょっと不良っぽいが。でも、補導される不良にしてはきちんと制服を着こなしている。ネクタイをきちんとしめているところと、ズボンのポケットから覗いているハンカチに、育ちの良さを感じる。あと、非行少年にしては態度がでかい。何度も補導されて慣れている、っていうことも考えられるけど。

 ミノルに向けられた視線は、睨むような男のものと、どこか探るような女のもので種類がちょっと違う。だが、その切れ長の目はとてもよく似ている。それ以外も性差はあるものの、顔立ちがなんとなく似ている。兄弟、なのかもしれない。

 ああ、でも、それにしては持っている揃いのカバン。よくある学校指定のスクールバックだが、そこに入っているラインが同じえんじ色だ。こういうのはだいたい、三色の学年カラーになっているものだ。だとしたら、この二人は同学年。ただの兄弟ではなく、双子なのかもしれない。

 いずれにしても、おそらく、補導された少年たちではないのだろう。まとっている空気が、なんだか違う。じゃあ、何者なんだ、って言われたら全然わかんないけど。

 そう困惑していると、女の方が、

「桑野実巡査ですか? 今日からよろしくお願いします」

 優雅に微笑みながら、軽く頭を下げてきた。その微笑みは、高校生のものにしては、少し、如才なさすぎる気がした。

 それにしても、今日からよろしくお願いします? こちらの名前も知っているようだが、なんのことだかさっぱりわからない。いかんせん、ここでの仕事もわからないようだし。

 そんなミノルの怪訝な思いを読み取ったのか、

「報連相がなってないんだなー、警察は」

 男の方が、なんだかバカにするような口調で言った。

 なんだ、このむかつくガキ。

「セイ」

 女の方が一声言って、軽く睨みつける。セイ、あだ名だろうか? セイは軽く肩をすくめてみせた。

「報連相がなっていなくて申し訳ない。突然、異動を命令されて、特に何も聞いていないんだ」

「なるほど」

 素直に答えると、女が少し考える顔をして、

「詳しい説明はあとで大人にやってもらうとして。自己紹介だけ、しますね。私は、一海紅美子。あっちは、私の双子の兄で、青志朗です」

 あ、やっぱり双子なんだ。

「高校生? 何年生?」

「二年です」

 二年生っていくつだっけ? 十六とかか。

「しかし、高校生がなぜ、こんなところに。今日、学校は?」

「今日は球技大会なんで、いっかーってことになりました」

 さぼり? よくないだろ。

「あ、保護者の許可は得ていますよ」

 ミノルの顔から何を読み取ったのか、そう付け足す。そう言われると、とがめることもできない。

「でたかったなー、バスケ」

 セイが不満そうに呟く。

「だから、無理してこの時間に来なくていいって、おばさまも言ってたじゃない。行くって言ったのは、セイでしょ?」

「クミが行くのに、俺だけ行かないってわけには行かないだろ。何をしでかすかわかんないから」

「その、たまに兄貴ヅラすんのやめてくれる? 先に取り出されただけのくせして。だいたい、何かするのはセイじゃん」

「は? なんだよそれ。何かするってなんだよ」

「いっつも、勝手に突っ走って、怒られてるじゃん!」

「クミだって、裏で結構やらかしてるの、バレて怒られてるだろうが!」

 なぜか兄妹喧嘩が始まってしまった。クミの方が精神年齢高そうに見えたが、こうしてみるとどっこいどっこいだな。あと、双方怒られすぎだろ。

「あ、あの」

 仲裁を試みようとしたとき、

「あんたたちは……おとなしく待ってなさいって言ったでしょ。なんで喧嘩してるのっ!」

 ドアを開けて入ってきた女性が、そんな二人を一喝した。

 二人はぴたりと口を閉じると、わざとらしく丁寧に座り直す。セイまで背筋を伸ばして座ったのはびっくりした。あと、姿勢綺麗だな。やっぱり、育ちは良さそうだ。

「まったく。ごめんなさいね」

 後半はミノルに向かっての言葉だったが、

「あ、いえ」

 とか曖昧に返事するのが精一杯だった。誰だ、この人。警察関係者ではなさそうだが。二人の母親か? 四十代……前半ぐらいだから、年齢的には母親でもおかしくないが、そうは見えない。なんというか、生活のにおいがしない。

 美人というか、綺麗な顔立ちの背の高い女性だ。十センチぐらいありそうなヒールを履いているとはいえ、一七五センチのミノルよりも、目線が高い。

 そのやたらと高いヒールは、ミノルでも知っているブランドの物で、着ている服もおそらくハイブランドのものだ。仕立てがいい。ほどよく使い込んでいる感じがあるから、これはよそ行きの服ではなく、日常的に着ているのだろう。ということは、財政的に余裕がある。

 肩あたりで揃えられた髪は、落ち着いたブラウンに染められている。髪の毛の隙間から見える耳にはピアスが複数個ついていた。ピアスこそついていないが、軟骨にも穴の跡がある。若いころにやんちゃしたタイプなのか。品の良いダイヤのピアスはわかるが、右耳のシルバーのピアスはなんだか異質だ。他のよりも年季が入っているし、龍が輪になっているデザインは若者ものっぽい。

 などと、ついいつもの癖で観察しながら見ていると、

「ふーん、噂通りね」

 女が笑う、楽しそうに。

「職質得意だって聞いてたけど。優秀なんでしょ? よく、人を見ている。でも、見られてるって相手にバレるようじゃ、まだまだね」

「……失礼しました」

 観察していることがわかってしまったか。それは今後、気をつけないと。

「あの、失礼ですが、あなたは?」

 女性が答えようとしたところで、

「ああ、桑野巡査。来てたのか」

 もう一人、中年の男が入ってきた。あ、顔は見たことがある。この人は、警察関係者だ。

「今日付けで配属になりました、桑野巡査です。よろしくお願いいたします」

 とっさに敬礼。

「うんうん、ここの係長の砂井です。二人の部署だから、どうぞよろしく」

 柔らかい笑みを浮かべて係長が言う。落ち着いた雰囲気のある人だ。刑事畑とかやってなさそうな感じ。

 それにしたって、聞き捨てならないことを言ったよな。

「え、二人?」

 新セクション、二人なわけ?

「ちょっと色々説明するから、座ってもらっていいかな」

 ミノルが係長と話している間に、女性はクミの隣に座っている。

「失礼します」

 その向かいに腰をおろす。

「ええっと、どっから説明しようかな」

 係長はちょっと悩むそぶりを見せてから、

「まあ、先に紹介しておこうか。彼が特殊対応係の鉄砲玉」

 え、鉄砲玉なの? 俺?

「桑野実巡査です」

 よろしくお願いします、とわからないまま、頭をさげる。

「これまでずっと交番勤務だっけ?」

「そうです」

「高卒だから今は……二十二?」

「二十一ですね」

「だそうで。まあ、先輩のご要望通りの、まあまあ若いやつじゃないかなと思います」

 なんだその説明。

「で、こちらが、一海円さん。詳しいことはおいおい説明するけど、特殊対応係の立ち上げにも深くかかわっている方だ」

 どうぞよろしく、と微笑まれ、慌ててもう一度頭をさげる。

 しかし、警察内部組織の立ち上げる深く関わっている民間人ってなんだ?

「で、こちらのお二人がマドカさんの……甥御さんと姪御さん?」

「従弟の子供だから厳密には違うわね。従甥と従姪? まあ、でも、めんどいから、血縁者ってことで」

 総括、豪快だな。

「さきほど、自己紹介は軽く済ませました」

 クミが言うと、

「そう? じゃあ、話進めちゃって」

 マドカが笑って係長を促す。

「はいはい。ええっと、桑野にここに来てもらったのは、前やったテストの点が良かったからなんだ」

「テスト?」

「心理テストって言った方がいいかな」

 首を傾げ、記憶をたどり、

「あー、あの謎のセミナー的な?」

 思い出す。半年ぐらい前にあった、メンタルヘルス研修。警察官のうつ病も増えてるからどうたらみたいなことを言っていた。そこであった、謎の心理テスト。イライラすることが多い、理由もなく泣きたくなる時がある、といったよくあるメンタルヘルスチェックのような項目が並んでいたが、後半は変な写真を見て直感で選択肢を選べ、とかになっていた。

「そうそう。あれな、前半はメンタルヘルスチェックなんだが、後半が違ってて。霊視能力? 霊感? を測るテストだったんだ」

「はい?」

 おおよそ警察組織で聞くようなのではない単語が出てきた気がするが。

「申し訳ございません、聞き逃したようで」

「霊視能力とか霊感とか。ゴースト、幽霊、そういうアレ」

 聞き間違いじゃなかった。

「あなた、視えるタイプよね」

 頬杖をついて、にっこりとマドカが笑う。

「あ、いえ、その」

「職務質問で当たりを引くのがうまい。それって、何か視えているからでしょ?」

 ごまかそうとしたが、畳み掛けられて言葉に詰まる。図星だから。

 小さい頃から視えていた色々なもの。それが普通の人には知覚できないものだと理解するころには、嘘つきだの、情緒不安定だの、子供特有のもので大人になれば大丈夫ですよだの、好き勝手に言われていた。

 でも、これは霊感とかでない。いや、幽霊的なのも視えるけど。

「あ、いや、霊感とかそんなんじゃなくて」

「ちょっと人より勘が鋭い? その勘って、人の悪意とかそういうのが、視覚的にわかるってことじゃない?」

「……そのとおりです」

 誤魔化そうとも思ったが、お綺麗な顔にまっすぐ見つめられて結局素直に答えた。仕方ない、ここは職場だ。上からの質問なら素直に答えないと。いや、まあ、マドカが上なのかはちょっとよくわかんないけど。

「あの、でもそんなめちゃくちゃよくわかるとかではなく。なんとなく、黒いモヤとかが視えたりして。それと、警察学校で教わった職務質問の心得……不審者の動きとか合わせて考えた時に、怪しいなってなるだけで」

 このよくわからん能力に過度に期待されても困るから、慌てて釈明を追加する。

「オッケー、オッケー。大事なのは君にある程度視える力があること、そしてそれを自分なりに使いこなしてる事だから」

 あ、墓穴掘ったかも。使いこなせてるアピールしてしまった。

「あの、失礼ですが、一海さんは一体……?」

「あ、マドカでいいわよ。一海さんだらけだから」

 と、マドカが自分の横に座る双子を指さす。

「でね、その一海さんはお祓いを生業としておりまして」

 思わず隣の係長を見る。いや、怪しいから。道端でこんなこと言ってる人いたら、職質かけるぞ。

「ホンモノだから」

 ミノルの視線を受けて、係長がひとつ頷く。

「ホンモノ……」

「俺も今回の話を受けるまで知らなかったけど、上層部ではホンモノのゴーストバスターがいるっていうのは当たり前の認識らしい」

「ホンモノのゴーストバスター」

 そんなものがいるのが当然の認識ということは、

「え、じゃあ、やっぱり、幽霊とか絡みの事件事故あるってことですよね?」

「やっぱり?」

「あ、子どもの頃からニュースとかで見る事件事故にそういうの感じたことがあったので」

 誰に言っても信じてもらえないから、黙ってたけど。

「大きな事故現場の黒いやつとか、殺人事件があった家を包んでる手とか。捕まった人がなんか背負ってたりとか」

 あれはやっぱり、意味があった?

 へー、と小さくクミが呟いた。

「本当に視えてるんだ」

「でも、視えてただけじゃな」

「セイ、黙ってなさい」

 驚いたようなクミに対して、セイは不満そうだった。そしてマドカに怒られた。

「あれ全部、ホンモノってことですか?」

「一個一個確認したわけじゃないけど、ホンモノでしょうね」

「そうですか……」

 なんだか拍子抜けだ。ずっとお前がおかしいと言われてきたのに、二十歳も過ぎて正しいのだと肯定されるなんて。

「今まで大変だったでしょ。自分が視えてるものが真実なのかわからなくて、信じて貰えなくて、自分のことも信じられなくて。でも、あなたが視えていたものは間違いではないし、あなたはおかしくなんかない」

 にっこりと微笑みながら言われて、不覚にも泣きそうになった。

「いえ……」

 下を向いて視線を逸らす。孤独に過ごしていた日々が報われた気がしたし、出来ることならもっと早くこの人に会いたかった。そしたら何かが変わっていたかもしれない。

 俯いたミノルの耳に、誰かがはんっと鼻で笑ったのが聴こえた。

「セイ」

 ぺしっと隣のクミがその肩を叩く。

「だって、視えたぐらいでなんだつー話じゃないっすか。祓うことも退けることもできないのに」

「あのね、セイ」

 マドカが頭痛をこらえるような顔をしながら、

「何回言ってもわかんないようだから何度でも言うけど、あんたが祓いの技術を持っているのも、なんなら視えることを当たり前として受け入れてるのも、単に生まれた環境がよかったからなの。わかる?」

 言われたセイは、今日が初対面のミノルから見ても納得してない顔をしていた。

「視えることが当たり前っていうのは、悪いけど特殊なの」

「だって、視えるし、そこにあるのに?」

「あんたは想像力をどこに置いてきたのよ……。全部、クミにあげちゃったの?」

 二人に挟まれてクミがやや気まずそうな顔をする。

「いいや、お説教はあとで」

 あとでするのか。

「とにかく、この仕事をこの先もやっていくつもりなら、自分が置かれた状況が特殊だということを認識して、そうじゃない人に寄り添う想像力を身につけなさい。じゃないと私の椅子は渡さないから」

 ぴしゃりと言い切られて、セイが拗ねた顔をする。

「おばさま、私はそこのところ、大丈夫です!」

 そこに突然クミが売り込みを始めるが、

「クミはもっと力を身につけなさい。あんたたち、どっちも今のままじゃダメ。継がせてあげられない」

 クミも拗ねた顔をする。その顔がセイとあまりにもそっくりで、ちょっとだけミノルは笑ってしまった。バレてセイに睨まれたから、慌てて顔をひきしめたが。

「あの、そのお祓いとやらは二人も?」

 ここまでの話をミノルなりにまとめて問いかける。

「そ、うちの跡継ぎ候補筆頭。で、今回、ここに呼んだのは、あなたにこの二人と組んでほしいからなの」

 こんな子供と?

「ああ? なんだ、おっさん、子供だからってバカにしてんのか?」

 ミノルの顔に何を読み取ったのか、セイが煽るようにそう言い、

「セイ」

 流れるようにマドカにたしなめられた。学習しない子だなぁ。

「生意気なガキでごめんなさいね。でも、今回、調べてもらいたいことって大学生ぐらいの若い子の間に流行っていることだし、そもそも、それに気づいたのはこの子たちだから」

「調べてもらいたいこと?」

「スペクターっていう合法ドラッグがあるの、聞いたことある?」

「いえ……、不勉強ですみません」

 ミノルの言葉に、懲りずにセイが何か言いかけようとしたところを、

「いや、先輩がこの話は広まらないようにしろっていうから、止めてるんですよ、警察内部でも」

 係長が慌てて遮る。さすがに、係長もこれ以上話が進まないのは、めんどくさいのだろう。

「まあ、合法だからっていうのもありますけど」

「うん、止めてくれてるのは助かる。若い子の間で流行ってるものでね、簡単にトリップできるって話題らしいんだけど。それがなんで合法かっていうと」

「幽霊が絡んでいるんですか?」

「ご明察」

 マドカがフリスビーを拾ってきた犬を褒めるような顔で笑った。

「さすがにこの話の流れならわかります。名前も、スペクターですし」

 specter。亡霊や幽霊を表す、英単語。

「違法ではない、法の目をすり抜ける。まるで亡霊ってことらしいけど、ナメてるわよねー」

 マドカが、不服そうに続ける。

「現行法でやばい成分はないの。だけど、見る人が視ればわかる。あれは、強制的に服用者の霊感を開く」

「幻覚……と本人が思うものが視えるってことですか?」

 たとえそれが本物の幽霊だとしても。

「そう。それが事故なんかを誘発する可能性がある。でもね、それはまだ軽症。やばいのは、体質的にうまくハマっちゃった場合。トランス状態にするっていう感じ?」

「トランス状態?」

「イタコとかがお告げをもらう時の感じ。わかる?」

「なんとなく」

 死者の声を聞くとかそういうやつだろう。ただ、それの何が問題なのか、ちょっとわかりにくい。

「例えば、悪い霊の声を聞き、お告げとして伝えたらどう?」

「……なるほど、絶妙に厄介ですね」

 人間関係にヒビをいれるとか、霊感商法的なこととか、いろいろ考えられる。

「そう。それじゃなくても、鍛えていない素人がトランス状態に陥るのは、体に負担がかかるしね」

 クミ、あれいい? の言葉に、クミが自分のスマホをいじる。ミノルの方に向けて、机の上に置いた。

 覗き込むと、動画が再生される。ネットにあがったものではなく、直接、この端末で録画されたもののようだ。

 並んだ机と椅子、背後のロッカー。見たことがある、一般的な学校の教室。

 映っている子たちは、クミと同じ制服を着ていた。

「君の学校?」

「そうです、うちのクラス」

 椅子に座り、二人の女子が向かい合っている。一人の子の後ろに、五、六人が立っているようだ。撮影者、おそらくクミはその一番後ろにいるようだ。

『ねー、撮ってていい? お告げ、聞き逃した時用に』

 軽い口調で撮影者が言う。その声は、やはりクミのものだった。

『えー』

 こちらを向いている方の、座った女子が困ったような顔をする。染めていない綺麗な黒髪を、胸のあたりまで伸ばした、大人しそうな子だった。

『ここにいない子には見せない。ねー、いいでしょー。よっちんのすごいとこ、残しときたーい』

 甘えたような言い方に、よっちんと呼ばれた女子はまんざらでもないような顔で、少し悩むような間をおいてから、

『絶対、見せちゃだめだよ。特に、男子と大人には』

『もちろん』

 言って、カメラをしっかりと構え直す。画面が安定した。

『じゃあ、吉澤くんとシホがどうしたら付き合えるか、占っていくね』

 よっちんが、向かいに座った女子に言う。

『お願いします』

 茶色くてウェーブのかかった髪がぺこりと揺れる。

「よっちん、前々からタロット占いが当たるって、女子の間では人気の子なんです」

 現在のクミが解説してくれる。

「この時は、シホの……こっちの背中向けてる子ですね。彼女の恋について占うことになってた」

 画面の中のよっちんが、それじゃあ始めるね、と呟く。それから、気を落ち着かせるかのように、机に置かれたペットボトルから、水を一口飲んだ。

「タロット、ないようだけど」

 机の上には何もない。

「そう、ある時からよっちんは、タロットじゃない何かで占いをするようになった。ううん、クラスの子たちはそれを占いじゃなくて、お告げと呼ぶようになってた。その話を聞いて、私も見学してたんです、なんかひっかかるものがあって」

「それが、スペクター?」

「はい。水を飲むの、よっちんはルーティンだって言ってたけど……多分、あそこでスペクターを流し込んでいる」

 よっちんが目を閉じると、両手を合わせ、集中するように呼吸を一定にしていく。

 周囲の女子たちが、息を殺してそれを眺める。異様な光景だ。独特の雰囲気が流れていく。

 よっちんの呼吸が荒くなり、軽く唸りながら、上体を倒す。机に額を押し付けるように。

 明らかに異常な状態だが、周りの子たちは何も言わない。ただ、黙って見つめている。

 よっちんは唸っていたが、やがて、

『赤い女!』

 がばり、と上体を起こし、それどころか背を反らせて、叫んだ。

「うわっ」

 急なことにちょっとビビってしまった。恥ずかしい。

 画面の中の女子高生は、誰一人動じていないのに。

 いや、動じてなさすぎでは?

「みんなこれ、見慣れてるの?」

「よっちんのお告げの邪魔をしちゃいけないって、思ってるからです」

「なるほど」

 場の空気自体も、なんだかおかしなものになっていたということか。

『邪魔を、邪魔をする! 赤い女が!』

 よっちんは、背を逸らし、天井を見上げるようにしながら叫ぶ。

『赤を消せ! 赤を! 赤を! 想い人を手にいれたのなら! 手段を選ばず! 消せ! 赤を!』

 それだけ叫び、またパタリと上体を机の上に倒す。ごんっとちょっといい音がした。手でかばうことなく、頭が机に当たった音。とっさに手でかばうこともしなかったなんて、演技だとしたら、相当のものだ。

 ふぅっと誰かが息を吐いた音が、大きく聞こえた。

『赤い、女』

 シホが呟く。

『誰だろう』

『三組の、笹本じゃん? あいつ、よく、赤いピアスつけてるし、すぐ男に色目使うじゃん』

『吉澤くんってバスケ部だよね? 女バスの二年で、吉澤くんに目をつけてる人がいるって噂あるよね』

『でも、赤は?』

『うちの女バスのユニフォーム、赤いじゃん』

『そんなこと言ったら、女バス全部じゃん』

 倒れたままのよっちんを気にかけることなく、女子たちが話を進めていく。赤い女が、誰かについて。

 よっちんは、動かない。

『消すって、どうしたらいいんだろう』

 シホが重々しく呟くから、口々に騒いでいた女子たちが黙る。

『吉澤くんから、離すってだけじゃ、だめってことだよね?』

 シホが振り返る。目が、充血している。どこか睨むように、周りの子たちの顔を見回す。

『消すって、何? 殺すの?』

『……いやぁ、さすがにそれは』

 つぶやいたのは、今まで黙っていたクミだった。

『じゃあ、どうするの?』

 シホの視線が、クミに向けられる。少しカメラがブレた。さすがにクミも動揺したようだ。

『どうって……』

『ライバルとして消せばいいんでしょ? ちょっと顔を傷つけちゃうとか?』

 答えられないクミの代わりに、他の女子が答える。

『でもでも、犯罪行為はリスキーじゃん。シホがケーサツに捕まったらだめじゃん?』

『ばれない範囲でってこと?』

『あー、いじめて学校やめさせちゃうとか』

『あー、ありかも』

「いや、なしだろ」

 倫理観ゼロの会話に、思わず突っ込んでしまう。そもそもいじめだって、何らかの犯罪行為になることが殆どだ。

「これがね、スペクターが思春期の子供の間で流行る怖いところ」

 画面を睨みながら、マドカが言う。

「これぐらいの子って、集団意識が大人より強いじゃない? 一人でだったらヤバイと思って辞めることも、集団でだったり、誰かがオッケーしたら簡単に飛び越えてしまう。特に、お告げが当たるとして崇められているという背景があるなら、その傾向はより強くなる。お告げに反したら、自分が不幸になる。そう考えるから、それを避けるために動いてしまう」

「いじめの温床になりますよね」

「確定じゃないんだがな。売春で補導した女の子が、お告げのとおりにしただけだって言ってるらしいんだ」

 係長が補足する。うわぁ、怖いわ、集団心理。どう考えても、怪しいのに。

「あ、ちょっと見ててください。ここからです」

 クミの言葉に、視線を画面に戻す。

 周囲の女子たちがきゃんきゃん騒いでいるところを、

『ぎゃーーーーーーーーーっ!』

 甲高い叫び声がかき消した。

 よっちんが椅子を倒し、立ち上がり、天井を見上げて叫ぶ。

『よ、よっちん?』

 シホが驚いたように呼ぶが、よっちんの叫び声は止まらない。

『よっちん!』

 画面が動く。今名前を呼んだのは、クミか。

 ぐちゃぐちゃと画面がよく分からない何かを映す。誰かのスカート、足元、机、めまぐるしく切り替わっていく、

 よっちんの叫び声は消えない。よく息が続くなと、思うほどに。

「あ、映った」

 画面が安定し、立ったままのよっちんの肩に触れる、クミが映る。

「ケータイ、とりあえず隣の子に渡したんです。その子、最初はテンパってたみたいだけど、途中からちゃんと撮影しはじめてくれて。ちゃんとっていうのも、ちょっとおかしいですけど」

「でも、おかげでいい資料になった」

 マドカが呟く。

 画面の中のクミは、よっちんの肩を揺するが悲鳴は止まらない。体が硬直しているのが、画面越しでもわかる。

 クミがちょっと悩むような顔をしてから、小さく何かを呟く。唇が動いているが、何を言っているのかは聞き取れない。よっちんの悲鳴がでかすぎる。

 同時に、右手の人差し指と中指をくっつけた状態で立てると、少し動かし、

『ごめん』

 軽く謝り、よっちんの大きく開けた口の中に、その指をつっこんだ。

『ぐぇっ』

 よっちんが呻く。

 クミが指を引き抜くと、よっちんの体が膝から崩れ落ちる。それをクミがどうにかささえる。

『先生、呼んできて』

『で、でもっ』

『バレるとか言ってる場合?! よっちんが具合悪いのは事実なんだから、とりあえずそれだけ伝えればいいでしょっ!』

『わ、わかった』

『私も行くっ』

 女子二人が出て行く。

 クミが床によっちんを寝かせる。よっちんは、青白い顔で眠っているようだった。

 そこで映像が切れる。

「……なにか、口からでてましたよね? 黒いもの」

 クミがよっちんの口に手を突っ込んだ後、呻いたよっちんの口から何かが吐き出されたように視えた。

「ああ、やっぱり視えるんだ」

 マドカがつぶやき、

「スペクターが作用して、彼女についてた悪いモノってとこかな。クミが咄嗟に引きずりだしたから」

「口の中しか、力が効きそうなところがなかったから。なんとかなってよかった」

「もしも、なんとかなってなかったら? というか、彼女、今は?」

「体調崩して入院中。もしもクミがいなかったら、入院は入院でも精神的な方だったでしょうね。下手したら、周りの子に危害を加えてたかも」

「なるほど」

 想像以上に厄介なものかもしれない、スペクターは。

「よっちんの場合は、常用してたから……。いつもならお告げが終わって、しばらくしたら元に戻るって」

「ちょっとずつ、溜まってたんでしょうね、影響が。怖いのは、それがなかなか本人が気づけないところだから」

「他の子達、今は?」

「黙りです。よっちんのお告げ、大人にバレたらヤバいっていう自覚はあったから」

「君は大丈夫なの?」

「え?」

 問いかけると、クミは心底不思議そうな顔をした。何を言われているか、わからないといった、そんな顔。逆になんでわからないのかが、ミノルにはわからない。

「学校で変な噂たてられてないかってこと。不思議な方法で友達を助けたわけだから」

「ああ……」

 クミは苦笑すると、

「大丈夫です。多少微妙なとこはあるけど、慣れてるし。いや、すみません。そこ、気にしたことなかったんで。そっか、普通は気にするのか」

 気にしないのか。幽霊が視えるなんて嘘つき! と虐められたミノルとは次元が違う。これが、住む世界が違うということか。視えることが当たり前の世界線。

 少しうんざりしながらも、気を取り直して、

「スペクターについて調べろ、という命令はわかりました。元締めとか、販売ルートとか、そういうことですよね? ですが、一つ確認していいですか? 調べて、その後どうするんですか? 一応、合法扱いですし、幽霊の存在は日本の法律は認めていませんよね?」

 捕まえたとしても、法では裁けないのに。

「それはまあ、捕まえてから適当にこじつけるかな」

「そこは任せるわ」

 係長の言葉に、マドカが頷く。

 現状ノープランか、大丈夫か、この上。

「ところでそうやって訊くってことは、引き受けてくれるの?」

 正直、わけがわからないことだらけだ。住む世界が違うし。クミの方はともかく、セイの方は生意気でできるだけ絡みたくない。

 それに、職質の能力を褒められた段階であまりいい気持ちはしていなかったが、それ以上だった。素直に喜べない現況だ、この目が異動の理由だなんて。ミノルである必要性はまったくない異動だった。視えれば、誰でもいい、そんな異動。

 仕事に対して、高い志があるわけではない。それでも、自分だからこそ選ばれた、そんな実感は欲しかった。

 そんなことを、つらつらと考える程度には、この異動にも、ここでの仕事にも、納得はできていない。でも、

「引き受けないという選択肢は、ありませんよね」

 警察官でいたいのならば、上の命令に背くという選択肢はない。そして、警察官をやめるという選択肢はもっとない。

「含みのある言い方ねー」

 マドカはちょっと困ったように笑ってから、

「でも、ありがとう。どうぞよろしく、桑野巡査。うちの二人のこと、ガンガン使ってくれていいから」

「ああ、それなんですけど、高校生を捜査に参加させること、いろいろな見地から大丈夫なんですか?」

 常識的に考えたら、公務員としてはダメダメだ。

「警察の公的にはナシ。桑野のペアは俺ってことになってるから。日報とかも、二人の存在は伏せて、いい感じに書いて」

「待ってください。日報書かなきゃだめですか?」

「そりゃ、ダメだよ」

「オカルト事案を? 警察文書に?」

 お手本、ないのだろうか。うまく書ける自信がない。

「まあ、基本俺以外見ないけど。ここの部署での話は、トップシークレットだから。ああ、そうだ、ほかの人、それこそ家族にでも、今の仕事聞かれたら適当に答えといて。書類整理とか」

「めっちゃ左遷じゃないですか」

 本当のことが説明できないにしても、もうちょっとマシな理由はないのか。ないんだろうなあ。

「こっち的には問題ナシ。まあ、学業は優先させなさいってとこだけど。学生のうちから、ある程度仕事こなすのは、うちの家系的には普通のことだから」

 私もやってたしね、とマドカが言う。

「そうですか、わかりました」

 わかりました、とは言ったものの、もやもやする。一海家のお祓いは、世襲制な感じなのだろうか。子供のうちからそれをやらせること、将来を家で決めること、それに対してすっきりしない気持ちある。ミノルが口を挟むことではないけど。

「マドカおばさん、今回のこと上手く対処できたら、加点?」

 それまで黙っていたセイが口を開く。

「加点されるかどうかで仕事をしない」

「体面はわかったけど、実際は?」

「……マイナスにはならないわね」

「うっし、がんばる」

 セイが小さくガッツポーズする。加点?

「あー、私の次、誰が一海を統率するか問題というのがあってね」

 疑問が浮かんだミノルの顔を見て、マドカが話し出す。

「まあ、順当にいくと二人のどっちかなんだけど、二人とも半人前だし、まだ決められないって言ってるのよ」

「俺の方が先に生まれた」

「誤差じゃん! 双子の先に生まれたとか、誤差じゃん! あんたが手前にいただけじゃん!」

「長男だし」

「今時、長男だから家を継ぐとか流行りませんー! おばさま見たらわかるじゃん!」

「そこ、すぐ喧嘩を始めない! ……こんな感じだから、どうもねえ」

 肩をすくめて、マドカが呆れたような顔をする。

「ああ、だから、うちの事情で申し訳ないけど、桑野巡査から見て、この二人のダメなところがあったら、教えて」

「良いところは!?」

「なんでダメなとこ前提!?」

「そういうところです」

「はあ、わかりました」

 なんか、先行き不安だな。というか、

「あれ、一海のご当主ってマドカさんなんですか?」

「そうそう、一応ね」

 家を継ぐだの継がないだの、なんだか古臭い部分がありそうだが、そこの感覚はまだマシなのか。男にこだわっていないというか。

「おばさまはすごいんですよ! すごく、強いんです!」

 目を輝かせてクミが言う。

「あだ名が、猛獣使いだからね」

 セイも話題に乗る。さきほどまでのひねたものとは違い、口調が明るい。よくわからないが、この二人がマドカのことが大好きなのはわかった。しかし、

「猛獣使い?」

「それ、あだ名じゃなくて、陰口だから」

「なんで? かっこいいのに」

 猛獣使い、かっこいいか?

「何故、猛獣使い……」

「今回警察と手を組もうとしてるじゃない? 昔から上との繋がりはあったけど、こうやってガッツリっていうのは初めてなの。同じように医療系とも手を組んでたりしてね。そういう手段を選ばなかったりするとこが、なんかこう猛獣使い?」

「よくわかりませんが……、新規事業も手広くやってるって感じですかね?」

「そんな認識で」

 なるほど、ゴーストバスターの新規事業の一つがこの部署か。そりゃあ、二人だけだろうな。

「あれ、係長って視えるんですか?」

「まったく」

 優しく微笑まれた。マジかよ。

「俺がここにいるのは、単にマドカさんのご指名」

「大学のサークルの後輩なの」

「オカルト研究会な」

 なるほど、お誂え向きだ。

「そこそこ人となりは知ってるし、視えなくても理解があるのも知ってたし。ちょうどいいなと思って、指名させていただきました」

「上からお前の先輩らしいからここに行けって言われた時は、サークル入ってた自分を呪ったね」

「オカルト研究会だけに?」

「いや、別にかけてないです。しかしまあ、まさか、本物があのサークルにいたなんて……」

「巷の噂を手にれるのに丁度いいなと思って。意識しないと一般人の認識、忘れがちだから」

 マドカの言葉にクミが苦い顔をする。さっき、ミノルと認識がズレていたからだろう。セイは何も考えてなさそうだけど。って、あれ。何かが引っかかる。マドカは係長のサークルの先輩?

「え、係長の先輩? 係長いくつなんですか?」

「四十八だね」

「え、じゃあ」

 それより上? とてもそうは見えないけど。そもそも、普通に係長よりは年下に見える。

「女性に年を聞くもんじゃない、って言いたいとこだけど、そこにこだわりないから普通に答えてあげる。もうすぐ五十」

 まじで? 驚いて上から下まで、マドカの姿を見直す。

「いくつに見えてた?」

「三十後半か、いってて四十ちょいかなと。服の感じからそこまで若くないと踏んで、四十前半」

「あら、ありがとう」

 微笑まれた。なんか、オカルト的なアンチエイジングでもしてるんだろうか。

「さて、とりあえず、うちでまとめたスペクターの資料があるから目を通しておいて」

 マドカが自分のスマホを取り出し、

「資料のPDF送るから、連絡先教えて」

「あ、はい」

 慌てて自分のを取り出す。というか、

「PDFなんですね」

「紙媒体だと邪魔くさいしね。処分に困るし」

 オカルト的なことがデジタル化しているの、なんか変な感じだ。

「うちの子たちが動けるの夕方からになっちゃうから申し訳ないんだけど。資料見て、ちょっと調べてもらえたら」

「はい」

「あの、ところで、明日からはスーツじゃない方がいいと思います」

 クミの言葉に首を傾げる。

「若者に紛れ込む必要があるから」

「ああ、なるほど」

 そういえば、係長が若めの人材を手配した的なこと言っていたな。そういうことか。しかし、

「言い難いけれども……、私服、ジャージとそこそこフォーマルなのしか……」

 休みの日にどこに行くわけでもないし、というか休みは休みで溜まった書類片してたりするし、あんまり服がない。

「どうやって生きてんの」

 セイが呆れたような顔をする。

「それが大人になるってことだよ」

 大人になるというか、仕事人間になるというか。

「くそだな」

 セイが鼻で笑う。

「じゃあ、今日はまず三人で服を買いに行ったら? 仲良くなるためにも」

「えー」

 セイが嫌そうな顔をした。わかやすいな。

「仲良くなる必要、ある?」

「あるある。あんたはもっと人との付き合い方覚えなさい」

「え、それ、公務ですか?」

 ミノルが気になるのはそっちだ。

「まあ、マドカさんがそう言うなら、公務かな」

 係長が苦笑する。

「洋服代出ますか?」

「それはさすがに自分で出そうか」

「しがない地方公務員に、仕事でしか着ない服を買えと」

「仕事服っていうのは、そういうものだよ。スーツだってそうでしょ」

「いや、まあ、そうですけど」

 手痛い出費だな、と思っていると、

「全額はさすがにあれだけど……、ある程度ならこっちで負担するから、領収書もらってきて」

 マドカが笑いながら言う。

「え、いいんですか」

「突然の異動で振り回しちゃってるしね。あー、でもあれか、個人的なプレゼントってことにした方がいいか。公務員だもんね」

「俺レベルの公務員に贈収賄もへったくれもないですが」

 やった、ラッキー。係長は、なんだか苦笑いしているが、見なかったことにしよう。それぐらいは許されるはずだ。

「じゃあ、まあ、服買いに行ってもらって。資料の確認は家でもできるからいいよね。桑野は一回戻ってきて、日報出して帰って」

「はい」

 服を買いに行く日報……、どんなだ。

 と、まあ、そんなこんなで、三人で連れ立って署をでる。

「どこ行く?」

「あそこは?」

 双子が話しながら歩いていくのを、少し後ろからついていく。しかし、どんな仕事だ、これ。

「桑野さん、田舎から出てきた親戚に服選んであげるっていう設定でいいですか?」

「いや、いいけど」

 いる? そんな設定。

「じゃあ、ミノルさんって呼びますね。苗字呼びだと怪しいし」

「俺、おっさんって呼ぶから」

「セイ」

 おっさんていう年じゃない、とは思うが、まあ高校生から見たらおっさんかもなという気持ちもある。まあ、そっちがそう言うなら、

「クミとセイな」

 それぞれを指差しして確認する。

「あ?」

 脊髄反射でガンつけてくんな、こいつ。

「親戚に服選んでくれるんだろ?」

「だからって」

「あんたはもっと人との付き合い方覚えなさい、だろ?」

 マドカの言葉を告げてみせると、ぐっとセイが言葉に詰まった。案外、ちょろいな、こいつ。

「男ってバカ」

 横でクミがつぶやいた。あれ、俺も含まれてる? ミノルが思わず彼女を見るが、クミはにっこり笑い、

「早く行きましょう」

 それだけ言った。この子もこの子で裏がありそうだ。

 先行き不安だな、ひっそりミノルはため息をついた。

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