警視庁生活安全課特殊対応係事件簿

小高まあな

第1話

 就職する際に、高い志があったわけではない。家から出るのに都合がいいと思っただけだ。もちろん希望する部署があるわけでもない。

 しかし、

「生活安全課特殊対応係、ですか?」

 どこだそれ、と都内某交番勤務の桑野実巡査は思った。

 署長に呼ばれたと思ったら、警視庁生活安全課特殊対応係への異動だという。あまり警察官としての意識が高くないミノルにとっても、本庁勤務は憧れであるし、喜ばしいが、いかんせん不審すぎる。聞いたことがない。

 大体、全体的な異動は先日行われたばかりだ。なぜ時期はずれの今……。

「詳しいことは俺もよく知らないんだが」

 署長は強面の頭を、ごりごりと掻きながら、

「新しくできるセクションらしくてな。現代社会のあれこれに対応する、なんかそういうあれらしい。まあ、ほら、あれだよ。ドラマのあれみたいな。特命係とか、国家安全局0課とか、特殊状況下事件捜査課とか」

 情報のほとんどが、あれで構成されているの、不安すぎる。並べられたのは、おそらくドラマの架空部署なのだろうが、

「あいにく、刑事物のたしなみがなく」

「わかるわ」

 即頷かれた。

「入るまでだよな、見るの」

 入る前も見たことないが。

「まあ、うん、とりあえず、新しいところなんだ。何をすればいいのかは、行けばわかる」

「それはわかりましたが……、なぜ、私が? 交番勤務のぺーぺーを」

 ありがたいことではありますが、と付け加える。別に心にもないことだが。

「ほら、お前、職質うまいだろ? 正式に交番勤務になったあともそうだが、実習のときから、バンバンやばいやつ職質で捕まえて。窃盗三人、ヤク関係五人、チャリパクった高校生一人だっけ?」

「ええ、まあ、大体そんな感じです」

「その能力をな、買われたんだ」

「はあ」

 曖昧な返事になってしまう。職質が上手だと言われていることは、ミノルとしてはあまり誇れることではないので、微妙な気分だ。

 ただ、まあ、

「承知しました」

 不安しかないが、いずれにしても決定は絶対。だって、組織のコマだから。


 ということで、新しい部署への初出勤だ。交番勤務はそれなりに好きだったので残念だ。なじみのおばあさんが、わざわざ挨拶しに来てくれたのはちょっとグッときた。ただただ、認知症で徘徊していて顔なじみになっただけの間柄だが。この先は、あまり徘徊しないといいなと思う。

 制服ではなく私服でとのことなので、久しぶりにスーツを取り出してくる。警察学校卒業直後、従兄の結婚式で着て以来だ。鏡の中には見慣れない自分がいる。あと、ちょっとスーツのサイズ合ってないな。まあ、今日のところはしょうがないか。

 なんとなく気が重い。異動先で何をするのか、結局よく知らないし。でもやるだけやらないと。どこに行くにしても。家に帰りたくないのなら。

「よし、行くぞ」

 鏡の中の自分に気合をいれた。

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