第1.5章:絶対秘密のティータイム
王太子への報告という名の「邪魔な雑務」を秒速で処理したレオンは、疾風のごとくソフィアの元へ帰還していた。 当然、定位置(机の下)である。
「……ふぅ」
レオンは、薄暗い空間で深く息を吸い込んだ。 ここには世界の心理と、ソフィアの体温がある。 先ほどよりもリラックスしているのか、ソフィアは靴を脱いでいた。シルクの靴下に包まれた華奢な足が、無防備に投げ出されている。 レオンは、その聖なる足先を拝むように両手で包み込み、自身の額を押し当てて瞑想に入っていた。
(柔らかい……そして、尊い。これこそが、国を守るためのエネルギー源(マナ)だ)
その時である。
コンコン、ガチャ。
「失礼いたします、ソフィア様。お茶をお持ちしました」
ノックとほぼ同時にドアが開いた。 メイドの入室である。
(ッ!?)
机の下で、レオンは石像のように硬直した。 通常、部屋に入る時は主の許可を待つものだが、このメイドはソフィア付きの古株であり、彼女の体調を気遣って遠慮がない。 机の上のソフィアが、ビクリと肩を震わせたのが気配でわかった。
「あ、ありがとう、マリー。……そこに、置いておいて」
「あら、お顔色が優れませんわ。また少し熱があるのでは?」
メイドの足音が近づいてくる。 コツ、コツ、コツ。 机のすぐそばまで来る。 万が一、ここで覗き込まれれば終わりだ。 「救国の英雄が、執務中の王女の机の下で、靴下越しの足の裏の感触を堪能している」などという事実は、国家転覆レベルのスキャンダルである。
(まずい……このままでは姫様の名誉に関わる)
レオンは覚悟を決めた。 存在を消すのだ。呼吸を止め、心拍数を下げ、気配を完全に断つ「隠密(ステルス)」スキルを発動する。 だが、緊急事態に緊張したソフィアの足が、貧乏ゆすりのように小刻みに震え出した。 コツコツと、レオンの頭に無意識の踵落としが入る。
(……ご褒美だ)
極限の緊張感の中で与えられる、ソフィアからの物理的な刺激。 レオンの脳内で、危険信号と快楽信号がショートした。 彼は無意識に、震えるソフィアの足の甲に、そっと唇を寄せてしまった。
「ひゃうっ!?」
ソフィアが素っ頓狂な悲鳴を上げた。 静寂な部屋に響く、可愛らしい、しかし明らかに不自然な声。 メイドが目を丸くする。
「ソフィア様!? いかがなさいました!?」
「い、いえ! なんでもないの! ただ……その、足が! 足がつっただけよ!」
「まあ大変! すぐにお揉みしますわ!」
「来ないで!!」
ソフィアが叫んだ。 普段は温厚な彼女の強い拒絶に、メイドが足を止める。
「……い、今は、一人にしてほしいの。少し休めば治るから……お願い、マリー」
「は、はい……。承知いたしました。何かあればすぐに呼び鈴を」
メイドは不審げに、しかし主の命令に従い、名残惜しそうに退室していった。 パタン、とドアが閉まる。 その瞬間、ソフィアは机に突っ伏した。
「……もう、心臓が止まるかと思ったわ……」
涙目のソフィアが、机の下を覗き込む。 そこには、呼吸を止めた反動で少し顔を赤らめ、しかし満面の笑みを浮かべた英雄がいた。
「申し訳ありません、姫様。姫様の足の震えがあまりに愛らしく、つい理性が蒸発しました」
「レオン……あなたって人は、本当に……」
ソフィアは叱責しようとしたが、彼があまりにも幸せそうなので、言葉を飲み込んだ。 死地を潜り抜けた英雄には、これくらいのスリルがなければ生きた心地がしないのかもしれない(※根本的な誤解)。
「……もう、次は許さないからね」
そう言いながら、彼女は再び、その足を彼の膝の上に預けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます