第七章 恵比寿顔の謎——なぜ笑っているのか
■福々しい笑顔
恵比寿の図像で最も印象的なのは、その笑顔である。
大きな福耳。細められた目。口髭と顎髭。そして、満面の笑み。
「恵比寿顔」という言葉があるほど、恵比寿の笑顔は福々しさの象徴となっている。
しかし、恵比寿が最初からこのような姿だったわけではない。
■荒々しい神から福々しい神へ
先述したように、恵比寿の本地仏(本来の姿)は毘沙門天や不動明王とされることもあった。いずれも荒々しい、武神的な姿を持つ存在である。
平安時代から鎌倉時代にかけての恵比寿は、必ずしも福々しい姿ではなかった。漁業神・市神としての恵比寿は、もっとパワフルで、畏怖を感じさせる存在だったのかもしれない。
それが、室町時代以降、七福神信仰の成立とともに、柔和で円満な姿に変化していった。
七福神という「福のパッケージ」に入ることで、恵比寿は角が取れ、丸くなった。笑顔の神、福々しい神——現在の恵比寿像は、こうした変容の結果である。
■聴覚障害の神?
恵比寿にまつわる興味深い伝承がある。恵比寿は耳が遠い、というものだ。
「えびすは耳が遠いので、大きな声で願い事を言わなければ聞こえない」——こうした俗信が各地にある。十日戎で威勢よく柏手を打ち、大声で「商売繁盛」を願うのは、この俗信に基づくともいわれる。
この伝承の由来は定かではないが、蛭子説と関連づける解釈がある。蛭子は不具の子として生まれた。その「障害」の記憶が、「耳が遠い」という伝承に変形して残ったのではないか、と。
真偽は不明だが、恵比寿という神の複雑な成り立ちを示唆する伝承ではある。
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