第六章 留守神としての恵比寿

■神無月に残る神


 恵比寿には、もう一つ独特の性格がある。「留守神」としての役割だ。

 旧暦十月は「神無月かんなづき」と呼ばれる。全国の神々が出雲に集まり、縁結びの会議を行うため、諸国から神がいなくなる月だとされる(出雲では逆に「神在月」と呼ばれる)。

 しかし、恵比寿は出雲に行かない。神無月にも、恵比寿だけは各地に留まっている。

 なぜか。

 一つの解釈は、恵比寿が「えびす」——異邦人——だから、という説である。出雲に集まるのは「国津神」の会議であり、外来者である恵比寿は招かれていない。だから留守番をしている、というわけだ。



■留守を守る神


 別の解釈もある。恵比寿は、神々が不在の間、人々を守護する役割を担っている、という説だ。

 他の神々がいなくなった後も、恵比寿だけは残って福をもたらし続ける。この解釈では、恵比寿は「捨てられた神」ではなく、「残された神」として積極的に評価される。

 いずれにせよ、神無月と恵比寿の関係は、恵比寿という神の「周縁性」を示している。

 中心にはいない。会議には呼ばれない。しかし、そこにいて、福をもたらす。

 この構図は、蛭子説——捨てられた子が福の神となる——とも、漂着神信仰——外から来たものが福をもたらす——とも通底している。

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