第6話 屋敷と規則

 家は、想像以上に大きかった。

 屋敷、と呼ぶ方が正しい。

 だが使用人の姿はなく、生活音も少ない。

「私は日和です」

 翌日、彼女はそう名乗った。

「オサムさんは、ここでしばらく暮らしてください」

「……理由を聞いても?」

 日和は、少し考えてから答えた。

「外で生きられる人が、必要だから」

 それ以上は説明しなかった。

 代わりに、いくつかの「規則」を伝えられた。

・夜は必ず帰宅すること

・日中は自由

・この家の奥の部屋には入らないこと

 どれも、理由は語られなかった。

 不思議と、怖さはなかった。

 橋の上で感じた虚無に比べれば、

 この家はあまりにも静かで、温かかった。

 食事も、衣服も、すべて用意されていた。

「……お金は」

「心配しなくていいです」

 日和は淡々と言った。

 その背中が、どこか遠く感じられた。

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