恋花の芽吹き

雪花side


目を伏せたまま、胸の奥の水仙のつぼみが小さく痛むのを感じていた。

触れられると壊れてしまいそうで、近づかれるのが怖い。


それでも、手元に陽向の影を感じる。

小さく息を吐くと、毛布の上に温かいものが触れた。


――手……?


指先に伝わる温もり。

そっと、強く握られるその手の感触に、胸がぎゅっと締め付けられる。

怒りも恐怖も、すこしずつ溶けていくような、不思議な感覚だった。


陽向side


「……雪花」

声は小さく、でも真剣だった。

怒りも不安も、今は握った手の温もりに託す。


「怖いかもしれない……でも、俺は離れない。お前のこと、守りたい」

言葉を添えて、指先に力を込める。

彼女の手が少し硬くなるのを感じた。

――届いている。ちゃんと届いている。


雪花side


胸の奥が熱くなる。

好きだから触れられない、でも触れられると安心する。

複雑すぎる気持ちが胸の中で渦巻く。


小さな声で呟く。

「……うん、少しだけ……」

握られた手をそっと受け入れる。

怒りも恐怖も、まだ消えないけれど、確かに陽向はここにいる。


陽向side


雪花の小さな声を聞いて、胸の奥の重さが少しだけ和らいだ。

「ありがとう、雪花」

微かに笑みを浮かべる。

距離はまだ遠いけれど、二人の心は、少しずつ近づき始めている。


窓の外の雪は静かに舞い、病室に淡い光を落としていた。

水仙のつぼみが胸の奥で揺れるように、二人の時間も儚く、美しく、静かに流れていく。

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