冬の裂け目 陽向side

教室の空気が、急に重くなった。

雪花が言った言葉が、耳の奥で何度も響く。


「陽向……もう、これ以上近づかないで」


その瞬間、心臓が跳ねた。

「なんで……? なんでそんなこと言うんだよ」

口から出た声は、思わず震えていた。

笑顔を浮かべて、冗談のように返すつもりだったのに、雪花は笑わない。


その顔は、いつもの柔らかさとは違う。

頬に薄い涙が光り、目には決意の光が宿っていた。

俺は、ただ驚くだけだった。

戸惑いと、そして胸の奥の痛み。


「雪花……俺に、なにかあった?」

声をひそめて問いかける。

でも、雪花は首を振り、俯いたまま、答えない。


一歩近づこうとすると、彼女が手を振り払う。

「もう、私を見ないで! 放っておいて!」

その言葉に、胸の奥がギュッと締め付けられた。


――どうして?

何があったのか、何を考えているのか、全然わからない。

いつもと同じ雪花の声なのに、心の奥に鋭い棘を刺されるようだ。


教室を出て行く雪花を、ただ見送るしかない。

足が動かず、声も出ない。

どうして止められなかったのか、どうして何も気づけなかったのか――

怒りでも悲しみでもなく、ただただ焦燥感だけが胸に残る。


雪花が見えなくなった後も、教室の空気は冷たく、静かで、重かった。

手を握り返したかった。

「待って」と叫びたかった。

でも、声は出なかった。


――俺は、雪花を失うのか?

理由もわからず、ただ置き去りにされるのか?

心臓が張り裂けそうな痛みを抱えながら、俺はその答えを探し続けるしかなかった。

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