第26話 チェイス
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結鶴と鈴はバイクに二人乗りをした後に首都高へと乗り込んで、府中を目指した。
「検問が遅いな? 警察の怠慢だよ」
警察が通常のペースで検問を行う場合は早くて、二十時ぐらいだと結鶴から聞いていた。
あまりにも早い時間帯に警察が検問を行うと、帰宅時間帯に渋滞が出来て、市民から反発を食らうので、重大事件が起きても強硬手段的な検問を行なえない事情があるのだと結鶴は言っていた。
しかし、仮にも都内で抗争事件が起きたのだから、早めに検問をするべきだろうと思えたが、結鶴の言う通りに警察は意外とその点が怠慢なのかもしれない。
そのおかげか、今は二時過ぎなので府中に向かう為に降りなければいけない高井戸へと向かう下り方面は空いていて、結鶴と鈴はスムーズに首都高を走っていた。
その後に高井戸から中央自動車道で国立府中へ向かう。
要するに下道を通らないといけない。
長丁場だな?
鈴は風を切る感覚の心地よさだけが、唯一の慰めだとも思えた。
ちなみに今現在は世田谷区に入るか、入らないぐらいの位置にいるので、高井戸まではあと少しだ。
基本的に渋滞が始まるのは午後五時からなので渋滞が始まるので、今の時間帯ならば短時間で移動できそうなのが幸いだ。
鈴は結鶴の顔をヘルメット越しに眺める。
「でも、そのおかげで私は帰れるし、結鶴君だって・・・・・・」
「その後始末を後から、考えないといけないから、俺は頭が痛い」
結鶴君は大学生なのに、あの事務所で実権を与えられているのか?
真木が黒陽会の会長の息子と言っていたが、大学生でそこまでの権限が与えられているというのは若干、考えられないが?
「結鶴君さ? 私のこと、助けたよね?」
「あぁ、一週間前だろう?」
「青川のあの大学生たちを殺したの?」
「そうだ、それを知ってどうする? 通報するか? 殺人犯とバイクで二人乗りしていますって?」
「・・・・・・しないよ、手段は褒められないけど、結鶴君が助けてくれなければ、私は殺されていたかもしれないもの」
鈴がそう言うと、結鶴は「そうか・・・・・・普通は殺人鬼が目の前にいるとそれだけで否定反応を起こすんだがな? ベイカーは変わり者だよ、やっぱり」と言っていた。
熱波の中で首都高を突っ切ると、風が気持ちいい。
父親にバイクに乗せてもらって、このような形で二人乗りをしたことはあるが、バイクに乗るのはそれ以来か?
「結鶴君はいつから、殺しをしていたの?」
「小学校から」
鈴はそれを聞いて、絶句した。
「俺をイジメてくる奴を事故死に見せかけて、殺した。それ以降、会長に目を掛けられるようになって、児童養護施設の悪ガキどもも何人か、事故死に見せかけて、殺した。その時になって、警察は意外と鈍感なんだとも気付いたよ。後は学校の教師や施設の職員も殺した」
極悪人じゃん・・・・・・
でも、殺すという手段は褒められないけど、何か、結鶴君って、程良い暗さがあると思うから、そういう虐めとかを受けていたりとか容易に想像は出来るな。
そういう人の心が読めなくて、思慮深くない人、はっきりと言えば、パリピやナルシストとかにイジメを受けていて、同世代に頼る人がいなかったのと、大人は誰も結鶴君の言い分なんて、聞かなかったから、暴力で全てを解決するようになったのだと、鈴は結鶴の生い立ちを想像した。
「でも、私は・・・・・・結鶴君、大好きだよ。だって、結鶴君、本当は優しいもの」
すると、結鶴は「俺が優しいワケないだろう? 犯罪者だぞ?」と笑っていた。
「結鶴君は優しいから、そういう安全地帯で人を傷つける人が一番嫌いだと思うんだ? 何か、話を聞いていると、結鶴君の人を殺すっていうのには共感しないけど、結鶴君はそうせざるを得なかったんだと思う」
「ベイカーは変わり者だよ、やっぱり?」
「私、悪い男が好きなんだよね?」
「うん・・・・・・好きなのか? 俺のこと?」
えっ、今更、気付いたの?
鈍感だよね・・・・・・
肝心なところで?
「ヤクザの親分の姉さんとかも案外、悪くないかなって、思ってさ? 私、周りの同い年の子がテレビに出ているのに、普通に大学通っているし?」
「諦めるなよ。夢なんだろう?」
「・・・・・・そう言うんだ?」
「俺とはこれっきりにした方が身の為だよ。ヤクザなんかと付き合うな、ベイカーはそういう悪党と付き合う人間じゃない」
本当に結鶴とはこれっきりなのだろうか?
それは凄く、辛い。
結鶴がたまらなく、好きだから。
気が付けば、結鶴の上半身を背中から思いっきり、抱きしめていた。
「苦しい」
「結鶴君・・・・・・いなくならないでよ」
「・・・・・・犯罪者なんかに慈悲をかけるな」
「結鶴君は私にとってはヒーローだよ。周りが犯罪者呼ばわりしても、私のことを助けたじゃない。だから、行かないでよ・・・・・・」
鈴は気が付くと、泣いていたが「ベイカー、話の途中だが、しっかりと捕まってくれ」と言い始めた。
「結鶴君?」
「追手が来た。法定速度は守らない、振り落とされるなよ」
「えっ、どういう事!」
そう言うと、結鶴はバイクを猛スピードで走らせる。
「結鶴君! スピード違反だよ!」
「後ろもな!」
そう言って、後ろを振り返ると、猛スピードでSUV数台とバイクが追ってくるのを目視した。
「あれって、半グレっていう人たちかな!」
「死体は何も語らない」
そう言って、結鶴はさらにスピードを速めた。
すると、後ろの車列が銃のようなものを取り出して、こちらに発砲して来た。
「結鶴くぅぅぅぅぅん! 撃って来たよぉぉぉぉぉ!」
すると、結鶴はポケットから、小さな拳銃を取り出すと、バイクを減速させて、わざと後方の車列に近づく。
そして、小さな拳銃を数発、車列のタイヤに打ち込むと、車はクラッシュを起こした。
そして、車列からガソリンが漏れ出る。
結鶴は前へ向かって、走り出しながら、そこに向かって、発砲した。
後方では大きな爆発が起きた。
ガソリンに銃弾が引火したのだ。
これが、抗争って奴なの?
後ろから、バイクの集団がやって来るが、結鶴はターンで切り返すと、バイクの集団の頭を小さな拳銃で打ち抜く。
死体と化したライダーを失った、バイクは横転した。
そして、結鶴は横転して宙を舞う、バイクのエンジン部分を小さな拳銃で撃つと、バイクは上空で爆発して、残骸が上空から落ちてきた。
首都高は大パニック確定だ。
それ以前に他の車のドライブレコーダーにこの光景が映っているので、確実に結鶴は逮捕される。
「俺は逮捕だな?」
「・・・・・・結鶴君。これはやり過ぎだよ」
鈴はもはや、言葉を失っていた。
「追手は来るぞ」
えぇ?
そこは優しさ皆無かい?
だが、事態は飲み込めた。
私たちが警察に追われるのは確定だ。
一刻も早く・・・・・・
というか、私の実家に行って、どうにかなる問題じゃないじゃん!
「結鶴君、マジで私の実家行くの?」
「ベイカーをせめて、帰してからだろう。その後にベイカーはいくらでも警察の追及はかわせる。人質に取られていたと証言すれば良い。俺は逮捕だがな?」
「嫌だよ。そんなの・・・・・・結鶴君は私のことを守ったじゃない?」
「・・・・・・手段が悪かったな?」
鈴は結鶴の上半身に再び背中から抱き付いていた。
熱波とガソリンが燃える匂いが気になってしょうがなかった。
続く。
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