第27話 正体
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結鶴と鈴は首都高を高井戸で下りて、そのまま中央自動車道を走り、府中に到達した。
「ベイカーの父さんは堅気か?」
「普通にサラリーマンだよ。だから、今は家にいない。ちなみにどういう人かと言うと、家にお金使わないで、自分にしかお金出さないから、極貧生活を強いられているけど、基本は中流だよ。貧しいけど?」
「支離滅裂だな? 実質は中流なのに経済的虐待で子どもは極貧とか?」
「経済的虐待じゃないよ。ただ・・・・・・凄い、癇癪持ちの変わり者で頑固で、自分のことしか考えない人なんだよ」
父親は外資系企業に勤めているサラリーマンである。
本来であれば、それだけで富裕層に値すると思われるが、父親は自分の稼いだお金は自分にしか使わない為、常に家は極貧生活を送っていた。
父は自分の稼いだお金で趣味の時間を充実させる。
学費は給与奨学金で何とか、免れたが、それが無ければ、芸能人という職業上は高卒も有り得たのが鈴の家庭事情と経済状況だ。
でも、不思議と父を憎むことは無かった。
何だかんだ言って、小中高大と父は学校には行かせてくれたし、バイクで送り迎えをしてくれるなど、肝心な時には私に愛情を見せてくれたのだ。
傲慢だが、愛情は本物だと思っている。
「家はどこだ?」
「府中駅の近く。マンションなんだ」
結鶴がバイクを走らせる。
府中駅近くの繁華街に入るが、遠いところからサイレンの音が聞こえる。
「家に着いたら、早く行け。俺とはもう関わるな」
「・・・・・・本当にもう会えないの?」
「逮捕されたらな? だが、無事に大学へ通えたとしても、俺とはこれっきりにした方が身の為だ」
本当に結鶴君とはこれっきりなのだろうか?
そう考えると、鈴は憂鬱な気分になった。
私には夢がある。
芸能界で名を成すという事だ。
でも、同時に結鶴の事がどうしょうもなく好きであるという事実もある。
それは相反する願いなのだろうか?
鈴は必死に頭を働かせていたが、妙案が浮かばない。
気が付けば、マンションの前までやって来た。
夕方前の府中は何気に人が多いので、ここで騒ぎになるのはまずいが・・・・・・
「着いたぞ? マンションか?」
「うん・・・・・・あの! 結鶴君!」
そう言った瞬間だった。
「Rin! Get away from him! (鈴! 彼から離れろ!)」
父親だった。
典型的なクイーンズイングリッシュを吐く、偏屈なイギリス人の父が手に黒い鉄製の物体を持って、こちらへやって来る。
銃?
それもそうだけど、お父さんが何でここにいるの?
というか、会社は?
そもそも論として何で、そんなの持っているの?
「Dad・・・・・・what is that?(お父さん・・・・・何、それ?)」
鈴も英語が出来る為、父親との会話は自然と英語だった。
お父さんが何で・・・・・・
でも、今、そんな物を持ちだしたら、結鶴君が・・・・・・
「Nice to meet you, father. (初めまして、お義父さん)」
こんな時に何を英語で気取っているんだよ! 結鶴君!
結鶴がネイティブ顔負けの発言でそう言い放つ中で鈴はそう言い放ちそうになった。
青川に入っている時点である程度の英語力はあると思われるが、とても綺麗な発音だった。
ただ、気になるとしたら、若干のアメリカンイングリッシュチックの訛りが気になるが・・・・・・
いや、今、結鶴君の英語の綺麗さに聞き惚れている場合じゃない・・・・・・
当たり前の事だが、父が拳銃を構えているのを眺めると、事態は結鶴の英語の美しさに心を奪われている場合ではないというのが現実だと鈴は悟った。
「秋山結鶴君だね?」
父が日本語でそう言う。
知っている?
何で、お父さんが結鶴君の事を知っているの?
「Dad・・・・・・How do you know such a thing? (お父さん・・・・・・何で、そんな事を知っているの?)」
「Quiet, it`s not your scene.(黙れ、お前の出る幕じゃない)」
父はいつも、そうだ。
いつも、一人で何でも決めてしまう。
そして、今度は結鶴君に何故か、銃口を向けるというとんでもない事を行うのだ。
今回ばかりは看破できない。
「秋山君、日本語で失礼するが、君の噂は聞いているよ。黒陽会会長、藤宮勇作の息子で後継者の最有力候補と本部から聞いているが、本人が私の娘と同伴で帰って来るとは?」
「あんた、堅気じゃないな?」
「ラングレーの連中は黒陽会と裏で通じているがね? 中国関連の情報を日本の闇社会で仕入れる為だが、我々も日本の黒社会とは繋がりを持っている。どうだ? 娘のボーイフレンドということもあるが、我々と協力しないか?」
本部・・・・・・
どういうことなの?
「ラングレーって、CIAだろう? あんた、スパイか?」
スパイ?
お父さんがスパイ?
「大雑把な言い方をすればな? まぁ、事実だ。私はMI6に所属する、ネビル・ベイカー中佐だ、秋山君、少し、良いかな?」
お父さんがMI6のスパイ?
MI6という組織はジェームス・ボンドが所属しているイギリスのスパイ組織ぐらいの認識だが、私のお父さんがそれに所属しているスパイ?
しかも、中佐とか言っている・・・・・・
聞いたことが無い。
というか、そんなことを娘とは言え、容易に話して良いのだろうか?
娘ながら、感じていたが父のそのような一面はスパイであったとしても変わらない側面なのだろうなと思えた。
「何だ? 中佐殿?」
結鶴が右手を私に対して覆うように被せる。
父は自分の娘に発砲はしないが、結鶴は私のことを守り切るつもりだ。
鈴はそこに安心感を抱いていた。
「とりあえず、茶を飲まないか? 本国から良い紅茶を仕入れている。そしてだ?」
父は銃を下げる。
「ここで聞かれたら、マズい。ケチった私が悪いが、一軒家が良いのだがね? そして、警察から匿うことも出来る。なにより・・・・・・」
父は結鶴に近づく。
「我々、MI6と取引をしないか? 君の窮地ぐらいは簡単に救えると思うよ?」
「・・・・・・背に腹は代えられないな?」
父は結鶴の肩を叩く。
「交渉成立だ。腹は減っているか? 妻に頼んで、フィッシュアンドチップスを作っても構わない」
「・・・・・・減っているな?」
「遅めのワーキングランチと行こうか? 鈴、部屋には入るなよ」
「ちょっと、待って・・・・・・結鶴君! 本当に良いの?」
鈴は事態が呑み込めないまま、そう言い出した。
「結果論としては俺もベイカーも警察から追われている、事態を打開する為には大国の諜報機関は助け舟だ。真木組の事があるしな?」
身勝手すぎる・・・・・・
父もそうだが、今回は結鶴ですらもだ。
鈴は父と愛する男の共闘関係に愛憎を抱いていた。
結鶴の言う通りにどうにもならないのだが?
続く。
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