第17話 デュエット
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鈴がアイドルの曲を歌う。
ノリノリで、中々に上手かった。
だが、自分にとっては根本的な問題がある。
歌う曲が無い・・・・・・
そもそも論として、カラオケに行ったことがあまり無いのと、最近の曲を知らないので、何を歌えば良いか分からない。
仕方ないから、会長が昔歌っていた、演歌を流すか。
鈴は歌い終えた後に「さっ、結鶴君の番だよ」と言ってきた。
そして、演歌の独特のメロディが流れる。
「演歌? 凄い、渋いんだけど?」
そして、結鶴が歌う。
「地味に上手い!」
とにかく、必死に歌った。
何故だか、知らないが、必死に歌った。
選曲の時点で失笑を買うかと思ったが、自分にはこれが精一杯だ。
そして、歌い終える。
「上手いね?」
「今時の大学生が演歌とか・・・・・・鼻で笑えよ」
「でも、私のお婆ちゃんも演歌好きだから、おかしいことじゃないと思うよ? それにレパートリーが無い、結鶴君にしては頑張った方じゃない? うん」
鈴がにんまりと笑う。
「ベイカーってさ?」
「何?」
「慣れると失礼な奴だよな?」
「結鶴君だからだよ、こういう言い方出来るの?」
それ、どういう意味だ?
若干の戸惑いは感じたが、鈴の二曲目が入る。
今度は恋愛を歌った、バラードだ。
「愛とかどうだとか多いなぁ?」
鈴は気にせずに歌うが、歌い終わった後に「人は愛が無いと生きていけないのさ?」と言って、指で銃を作り「バキューン!」と撃つ。
「指で銃を作るとか意外と発想が時代遅れだな? そういうのを好むのはっきり言って、おっさんだぞ?」
「そうねぇ・・・・・・意外とオジサン相手にするの苦にならないんだよね? あっ、変な意味じゃあないよ?」
結鶴は「そうかい」とだけ言う。
「何! その反応! 本当にそうだから! 私、不倫とか大嫌いだからね!」
「いや、そういうことを強調する奴は怪しいぞ」
「結鶴君は結構なサディストだよね?」
「よく言われるよ」
「優しい人の方が重宝されるよ?」
「あっそ」
そう言って、結鶴は二曲目に走る。
今度は特撮の主題歌だ。
「今度は特撮・・・・・・」
今度も必死で歌った。
そして、鈴は呆れ顔を浮かべていた。
「うん、地味に上手いんだけどさ? 本当にレパートリー無いの?」
「いや、最近の歌を知らないんだよ」
「・・・・・・ふーん」
そう言って、鈴は曲を入れる。
「歌うぞ、相棒」
「えっ? デュエットかよ?」
「最近の歌というのをねぇ、叩き込まないと、いい具合にバカにされるよ? 後、みんなが知っている曲とか?」
「知らない、これしか知らないから」
「いいから、歌う」
そう言って、鈴と一緒にバラードのデュエットを歌う。
途中で歌詞を見ながら、歌うので、噛んだり、言いよどんだりするが、鈴はよどみなく歌う。
途中、声を重ねる、いわゆるハモリの部分に入る時、鈴は自信満々に勝ち誇った顔を浮かべる。
「歌唱力で主張してくるなよ・・・・・・」
結鶴は笑いが堪えられなかった。
そして、曲が終わる。
「はい、よくできましたぁ」
「・・・・・・十年分のエネルギーを使ったな?」
「早死にするねぇ? まだ、続けよう」
もう止めてくれ・・・・・・
そう思っても、鈴は延々と歌い続ける。
気が付けば、結鶴が歌う回数も減り、二人だけのカラオケ会は鈴のリサイタル会場と化していた。
「ノってるかぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
自己満足極まりねぇ。
だが、結鶴は心の底から笑っていたことを知覚していた。
時刻は午前二時三十分。
任務の準備をしなければ、いけないのは頭で分かっていたが、今、この瞬間が結鶴には楽しくてしょうがなかった。
続く。
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