特典 面白いクラスメート
「ありがとうね、お嬢ちゃん!」
手を貸したおばあさんに感謝されて、なんだかちょっぴり誇らしくて、照れくさい気持ちになった。
「いえいえ、当然のことですよ」私は笑顔でおばあさんに手を振り返し、今日の自分の行いに満足していた。「それでは、お気をつけて。さようなら」
「冬雲さんは、本当に心優しいんですね」
いきなり、すぐ傍らから男子の声がした。
「きゃっ!」
全く気づいていなかったので、その声にどきりとし、持ち物を落としそうになった。落ち着いてみると、声の主はクラスメイトの松本くんだった――あの、ちょっと変わった男子。
「えっと……すみません。驚かせるつもりじゃなかったんです」松本くんは謝罪した。彼の顔には、珍しく感情の動きが見て取れた。ほんの少し、ほとんど見逃してしまいそうな、気まずそうな表情が。
「も、もう……松本くんだったんだ。びっくりしたよ」私は胸を撫で下ろし、早鐘のように打つ心臓を落ち着けようとした。まったく、どうしてこんなに足音がしないんだろう……。
「ただ、挨拶をしようとしただけなんです。わざと驚かそうとしたわけじゃありません」松本くんは私の様子を見て、慌ててそうでないことを説明した。
「ううん、怒ってないよ。ただ、びっくりしちゃっただけ。でも、次からはやめようね、いい?」私は素早く平常心に戻りつつ、次からはそうしないよう、松本くんに念を押した。もし本気で何かあったら、取り返しがつかないから。
「わかりました。話は変わりますが、冬雲さんは本当に心が優しいんですね。登校二日目で、もうこんな良いことをするなんて」松本くんはうなずいて私に応え、私の行動を賞賛した。
「そんなことないよ。ただ、おばあさんのちょっとしたお手伝いをしただけだから、そんな大げさなもんじゃないよ」松本くんにそう言われるのは嬉しかったけれど、私にとってはごく当たり前のことをしたまでだった。
「差し支えなければ、一緒に歩きませんか?」松本くんはそれ以上を求めず、代わりに一緒に登校するよう誘ってきた。
「うん、いいよ。一緒に行こう」それに関しては異存はなかったし、何より、この男子に幾分かの興味を覚えていた。
私は入学式の初日から彼の存在に気づいていた。特に目立つからではなく――むしろ逆で、この男子はほとんど透明なほど静かだった。ハンサムな見た目以外にも、彼にはどこか変なオーラがあった。そこにいるのに、周りの賑やかさとはガラス一枚隔てたように感じられる。自己紹介でもほんの数言しか話さず、その声は教科書を音読しているかのように平然としていた。
「そういえば……冬雲さんが僕の名前を覚えていてくれるなんて、意外です」私の横を歩く松本くんが先手を打ち、率直に疑問を投げかけてきた。
「え?意外?松本くんだって、私の名前覚えてくれてるじゃない」私は少し驚いた。クラスメイト全員の名前を覚えるのはごく自然なことだと思っていたからだ。少なくとも、小学生の時からずっとそうしてきた。
「状況が違います。冬雲さんは初日からとても目立っていましたが、僕は特に目立つようなことは何もしていません」松本くんはとんでもないことを口にしたが、顔の表情はまったく変わらなかった。自分が何を言っているのか、自覚していないようだった。
「そうかなぁ?でも松本くん、女子の話題の中では結構ホットだよ~?」私は驚きを顔に浮かべたが、少し揺らいだ心をすぐに落ち着かせ、松本くんに向かって反撃を開始した。
「そうですか?でも、僕は特に何もしていないような……」松本くんは軽くうつむき、昨日自分が何か目立つことをしたか考えているようだった。
「あらあら、松本くんって意外と鈍感なんだね。だって、松本くんの外見だけで、みんなが熱く語り合う価値は十分にあるよ!」思惑通りにいかなかったので、急いで追撃を加え、見たい反応を引き出そうとした。
「その評価には感謝します。でも冬雲さんと比べたら、僕の話題性はそんなに高くないでしょう」松本くんの反応は再び予想を裏切り、少しも動じることなく、むしろ淡々と逆襲してきた。
「えっ……どういうこと?」松本くんが何を言おうとしているのか、少し理解できずに、歩みを緩めてしまった。
「男子たちの間では、冬雲さんの話題性が一番高いんですから。『可愛い』とか、『優しそう』とか、『人当たりがよくて親切』とか、具体的なところは伏せておきますが」松本くんは再び驚くようなことを言い、それは私を当惑させ、その場に呆然と立ち尽くさせた。
可愛い?優しい?親切?
それらの言葉は子供の頃から聞かされてきた。親戚も、先生も、友達も、そう言ってくれた。でも、それが男子の口から、しかもこんなにも……事務的な口調で言われるのは初めてだった。「今日は曇りのち晴れ、気温18度」と天気予報をするかのように。
「冬雲さん?」私が我に返った時には、松本くんはもう私の前にいて、そっと肩をポンと叩いていた。
「あ!ああ、松本くんだったんだ……はは……」私は慌てて松本くんに返事をした。自分が何を言っているのかもわからず、顔は見るも無残に赤くなっていた。だって、男子に、それもまだ出来たばかりのクラスメイトに、こんなに直接褒められたことなんて一度もなかったんだから。
「どうかしました?体調が悪いんですか?」松本くんは相変わらず、自分の言葉が私にどれほどの影響を与えたか気づいておらず、それどころか心配そうな顔さえしていた。
「あ……はは、ううん、平気平気。ただ、松本くんの言葉に驚いちゃっただけ」気まずさを紛らわせるために、私はそう適当に言い訳をするしかなかった。
そして、私は理解した……
なぜクラスの女子たちがこっそり彼の話をするのか。
なぜこの存在感の薄い男子の名前が、休み時間にひそひそと広まるのか。
なぜ彼が自己紹介であんなに短くしか話さないのに、人々の記憶に残るのか。
だって、彼はあまりにも変だから……変で……面白い。
大抵の男子が女子を褒める時は、恥ずかしさに言葉に詰まるか、芝居がかったように大げさになるか、はっきりとした意図を感じさせるかのどれかだ。でも松本くんは違う。彼がそれらの言葉を口にする時の表情は、「桜が咲いた」と言うのと同じくらい自然だった。照れくささも、見せびらかしも、反応を期待しているそぶりすらもなかった。
頬の熱がまだ冷めやらない中、私はそっと、相変わらず無表情な横にいる松本くんを盗み見た。
この人……人を褒める時も平然としていて、反撃されても微動だにしない。まるで設定されたプログラムのようだ。でも、まさにその『異常さ』が、私の強い好奇心を掻き立てる――彼は、いったいどう考えているんだろう?
そうして私は、知らず知らずのうちに、この奇妙なクラスメイトを、目尻で観察し始めていた……
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