特典 予想外のオブジェクト

「ねぇ~松本くん、身長ってどれくらいなの?」


私は突然、松本くんの傍らに歩み寄り、奇襲をかけることにした。


完璧だ!


声の甘さも程よく、くどくなく、かつ充分に注意を引ける。角度も計算した。彼の斜め後ろから近づけば、振り返った時に自然と距離が縮まる。


「170センチくらいだ。櫻木さんは?」


松本くんは相変わらず淡々と、私の問いに答えた。顔には、私が予想していたような表情は微塵も見られない。


「え~、結構高いんだね。私、残念ながら157センチなの」私は首をかしげた。この動きは通常、男子の心拍数を30%ほど上昇させる効果がある。「でもさ……それってちょうど松本くんと釣り合うかもね!」攻めるチャンスは逃さない。ゆっくりと松本くんの正面に回り込み、彼の胸を指先でちょんとつつきながら、何度も練習した、最も可愛らしくて余裕がある笑顔を見せた。


「そうですか?それは意外な偶然ですね」松本くんは依然として微動だにせず、ただ淡々と私の攻撃に応じた。


私は諦めきれず、彼の瞳を見つめ続けた。琥珀色で、とても澄んでいて、私自身の姿が映っている。でもそれ以外には何もない……緊張も、ときめきも、好奇心すらも感じられない。


5秒……10秒……


結果は私の予想を裏切った。松本くんの表情は少しも変わらないばかりか、むしろ平然と私との視線を合わせ続け、私は一瞬どうしていいかわからず、ただこの状況を維持するしかなかった。


弱点らしい弱点が見つけられず、私は仕方なく軽く笑い、ため息混じりの感想を口にした。「やっぱりね……松本くんって本当に面白い。今まで出会った男子とは全然違う」


そう、これは私がここまでの数回にわたる試みを経て、たどり着いた結論だった。


「そうですか?じゃあ、その褒め言葉はありがたく受け取っておきます」相変わらず表情一つ変えない返答。


それを聞いて、私は再び松本くんの瞳を見つめ、何か変化や情報を読み取ろうと試みた。


しかし残念ながら、松本くんの瞳には何もなかった。感じられたのは、静けさと落ち着きだけ。


「本当に不思議だわ……」 私は心の底から疑問を感じた。


これまでの男子なら、私がちょっと近づいて話しかけたり、軽く触れたりしただけで、すぐに赤面して照れくさそうにし、挙動不審になっていったものだった。


でも、目の前のこの男子は、視線を合わせようが、軽いボディタッチをしようが、顔の表情が一切変わらない。いつだってあの淡々とした顔をしていて、むしろ積極的に私と璃乃の連絡先を求めたりした……。それに、連絡先を交換した後も、変な質問をしたり、わけのわからないメッセージを送ってきたりせず、ただ勉強のことを尋ね、それきり連絡してこない……


「これじゃあ、彼を選ぶのは無理か……」 私は静かにそう決断し、同時に失望と悔しさを感じた。


「もう……せっかく……せっかくあいつがぴったりなのに、どうして……」


私は頭痛と面倒くささを覚えずにはいられなかった……


「櫻木さん?こっちですよ……あら、二人で何か話してたの?」冬雲さんの声が後ろから聞こえた。きっとわざわざ私を呼びに来てくれたんだろう。


「あ、うん!今行くよ、冬雲さん。じゃあね、松本くん!」私は冬雲さんの方に振り返りつつ、同時に最後の抵抗として、松本くんに熱心に別れの挨拶をした。彼の防御を崩したい、ほんの少しでも……


しかし結果は……


「ああ、じゃあね」松本くんはただ手を振り返しただけで、相変わらずあの無表情な顔のままだ……


「こいつは……もう、いいや。他の人を探すか……」 私は元々の考えを諦め、その場を後にした。


「もしこれらの方法が全部ダメだったら、他にどんな手があるっていうの?」


計画が頓挫した悔しさが、小さな爪で私の心を掻きむしるようだった。最初の『選別目的』は、いつの間にか、もっと純粋な感情に覆い隠されていた――絶対に、本当に少しの隙もないなんてありえない。これは、私個人と松本悠真との間の戦いになった。


冬雲さんと次の測定場所へ向かう道すがら、私はまだ検討を続けていた。どこがまずかったんだろう?私たちの方法が彼には効かないのか?それとも彼はそもそも、女の子に興味を持つタイプじゃないのか?


いや、違う……問題は彼が興味を持つかどうかじゃない。問題は彼が「読める」かどうかだ。璃乃と私が設計したこの選別メカニズムの核心原理は、男子の反応パターンを観察し、彼らの性格的弱点を見極めることにある。照れ屋には優しさで攻め、自信過剰な者には崇拝で操り、スケベな奴には曖昧な態度でコントロールする……


でも松本悠真には、特定の反応パターンがない。彼はまるで吸音壁みたいで、どんな感情を投げつけても、音もなく消えてしまう。


「櫻木さん?顔色があまり良くないみたいだけど……」冬雲さんが心配そうに私を見た。


「大丈夫だよ~。ただちょっとお腹が空いてるだけ」私は手を振り、明るい笑顔を見せた。


でも、もし普通の方法が全部ダメなら……


突然、一つの考えが私の頭をよぎった。


「そうだ……ゲーム」


リアルでは一切の防御を固くしているなら、仮想世界ではどうだろう?リラックスして、自分を『演じる』必要のない時、彼は別の姿を見せるんじゃないか?


でも……松本くんはゲームに興味があるのかな?


私はそれに関して確信が持てなかった……


少なくとも今までの試みを見る限り、松本くんは何にも興味がないようでもあり、何にでも興味があるようでもある……


うーん……


「最終手段として試してみよう……」


もしゲームでさえ効果がなかったら、あいつは本当に攻略不能の『氷山』ってことになる。その時は諦めるしかない。


そう考えながら、私は冬雲さんと共に、次の体力測定の場所へと歩を進めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る