第9話 電波の両端

金曜日の夜、僕は台所の片づけを終え、自分の部屋に戻った。


松本さんは仕事の都合で、同僚と一緒に隣町に出張に行った。だからここ数日、家には僕一人きりだ。


でもそれも悪くない。気を遣わずに済むから。

机の前に座り、スマホを開いてWeChatを起動し、小夕(シャオシー)に電話をかけた。


数回呼び出し音が鳴り、ようやく電話がつながった。


「お兄ちゃん!」小夕の声がスマホから聞こえた。喜びと楽しさ、そして懐かしさがこもっていた。


「悪いな小夕、家事が終わったばかりで、少し遅くなっちゃった」申し訳なさそうに謝ったが、気持ちはとても嬉しかった。


「わかってるの?私はまる30秒も余計に待ったんだから!」小夕の口調は少し不満げだった。


「今度は絶対時間通りにしなさい!」


〈このガキ、なんて言えばいいんだか……〉


僕は首を振り、この妹に心底呆れていた……


「はいはい!次は絶対時間通りにするよ!」


「えへへ~、それでこそ!」小夕は嬉しそうに笑った。「あ!それなら、もうビデオ通話にしよっか!」


「わかった……ちょうど松本さんも家にいないし、ビデオでもいいか」


小夕は嬉しそうに「うん」と言い、すぐに電話を切り、ビデオ通話をかけ直した。


「ふふ~、どう?可愛いでしょ!」


画面の中の小夕はピンクの猫のパジャマを着て、手で猫のポーズを取り、首をかしげて楽しそうに笑っていた。まさに萌え系少女といった風情だ。


「ああ、可愛いよ。さすが俺の妹だな!」彼女のこの可愛らしい様子を見て、思わず溺愛するような笑みが漏れた。


「ははは~、絶対気に入るってわかってた!これ、わざわざ選んだんだから!」小夕は予想通りの答えを得て、満足そうな笑顔を見せた。「あ、そうだ。お兄ちゃんの分も買ったよ。私のとお揃い」そう言いながら、クローゼットから買ってきた僕のパジャマを取り出した。青い犬のパジャマだった。


「はいはい~、ありがとう、可愛い妹よ!えらいぞ!」


僕の前で永遠に大人にならないこの妹を前に、僕は仕方なく甘やかすしかなかった。血は繋がっていなくても、私たちの絆と関係は実の兄妹のように密接だった。


「えへへ~、じゃあちゃんと感謝してよ!」小夕は胸を軽く叩き、何だか偉そうな様子を見せた。


「いい加減にしろよ。家は小夕一人か?」


「ううん、パパとママはリビングだよ。私は自分の部屋にいる」


「そうか。パパとママ、元気にしてる?」


「うんうん、前と同じ。お兄ちゃんが無事だってわかってから、ずっと元気だよ。でもさ……最近ママが作る豚の角煮、醤油入れすぎちゃって、パパが一言も言わずに山盛り食べて、夜中に起きて水を三杯もがぶがぶ飲んだんだよ、ははは!」


小夕はその光景を思い出すと笑いをこらえられない様子で、僕も思わず笑ってしまった。父が狂ったように水を飲む姿が目に浮かぶようだった。


「ベランダに置いてあった多肉植物、『二狗』がびっしり増えてたから、植え替えておいたよ。今はすごく元気に育ってる。『毛蛋』もピンクになっちゃって、多分最近日当たりがいいからだと思う」


「パパは?まだあの熱帯魚に夢中?」


「そりゃもう!」妹は小さな白目を翻した。「先週末もまたペットショップに行って、すごく高いらしい『金龍』を二匹迎え入れたんだ。でも三日も経たないうちに、一匹がひっくり返っちゃって。ママが言うには、一晩中落ち込んでたけど、昨日また新しい熱帯魚の飼育方法を調べてるのを見かけたよ。『水質が原因だった』って言ってた」


「それからさ、あのね……」小夕の話の種は巨大な世界を詰め込んだように、生き生きと家の面白い話を語り、一度口を開けたら止まらなくなった。


一つ一つの細かい話が、柔らかな羽根のように、僕の心の奥底で普段触れようとしない場所をそっと撫でる。切なさ、温かさ、懐かしさ……様々な感情が絡み合い、長くて重い感覚を作り出していた。分かっていた。両親と妹は彼らなりの方法で生活を続け、僕を失った傷を抱えながらも、僕がいた痕跡を携えているのだ。


「お前はどうだ?成績は?」僕は彼女の話を遮り、彼女の様子を尋ねた。


「あらもう、安心してよ。だって私は誰の妹だと思ってるの!成績のことは心配しなくていいからね、私の成績はまったく問題ないよ!」口ではそう言いながら、やはり少し緊張と自信のなさが顔に表れていた。


「ふふ……」僕は看破しても言わず、ただ呆れたように笑った。


かつての無数の夜を思い出す。僕は彼女の机の横に座り、問題を解説し、彼女が勉強を愚痴るのを聞き、彼女の頭を軽く叩いて「バカだな」と言った……


「よし、自信と計画があるならそれでいい」僕はそれ以上追求するのをやめた。


「えへへ~、もちろんさ!あ、そうだ。私ばっかり話してたけど、お兄ちゃんは?そっちの高校はどう?慣れた?」


「まあまあだよ。授業、食事、何人か友達ができた」僕は椅子の背にもたれ、何人か面白いクラスメイトのことを簡単に話した:熱血で単純な田中、明るく責任感のある冬雲、それに恥ずかしがり屋で内気な加藤……


話すとき、複雑な観察や内心の台詞は省き、最も表面的な面白い話だけを選んだ。どんな兄が妹に自分の学校生活を話すときのように。


「なかなか賑やかそうだね」妹は聞き終わると、そう総括した。「思ってたよりマシだ。ずっと一人でいるのかと思ってた。だってお兄ちゃん、中学三年……あ、違う、そっちでは中等部三年って言うんだっけ?その時はずっと一人で、クラスメイトとほとんど交流なかったじゃん」


「あの時の状況と今が同じわけないだろ?」僕は淡々と言った。「それに、ずっと一人だったわけじゃないよ。少しは何人かと話してた」


「あった?前にずっと『つまんない』って言ってて、だから仲良くならなかったんじゃなかったっけ?」小夕は正確に、あの時の僕が中等部三年のクラスメイトについてぼやいていたことを言い当てた。


「ああ、それは……それも一人でいるってわけじゃないだろ?ただわざと付き合いを減らしただけ……」


「はあ、それって一人でいるってことだよ!もう、お兄ちゃんそういうとこ本当に鈍いんだから……」小夕は呆れた顔で僕を見つめ、完全にバカを見るような目つきだった。


「うう……そ、そうなのか?」僕はためらった。僕から見れば、これが自分の問題だとは思えなかったから。


「そうだよ、お兄ちゃんの問題!逃げないで、現実を認めようよ……」小夕は僕の迷いを見抜き、正確にその点を突いた。


「あはは……多、多分ねはは……ああ……」僕は気まずそうに笑った。「えへん……この話はもういい。他に聞きたいことがある」


「うん、言ってみて。小夕様がすべての疑問にお答えしましょう」そう言いながら、彼女は厳かな様子を見せた。まるでお寺の神像のようだった。


「おい、もういいって!やりすぎだ!」僕は思わずツッコミを入れた。


「えへへ~、たまにはロールプレイしてもいいじゃん(๑>؂<๑)」


「はいはい、ふざけないで。聞くけど、この転校生、絶対にお前じゃないんだろ!いきなりうちの学校に現れて、またでかい面倒を引き起こしたりしないよな?」心の疑問のため、僕は再び小夕に尋ねた。


昨日も彼女と両親に聞いたが、転校生は彼女ではないとはっきり返事をもらっていた。でも万が一に備えて、もう一度確認した。


だってこのガキは一番やんちゃだし、途中でいきなり転校するなんて、彼女ならやりかねない……


彼女がまだ中学生の時、よく僕の高校に来ては、あちこちで彼女が僕の彼女だとか、僕と彼女の仲がすごくいいとか、甘い話をでっち上げてたんだ……


マジで、あの時はどれだけあだ名や噂が増えたか、どれだけ面倒に巻き込まれたか。


その後まもなく、彼女は両親の混合ダブルを食らい、「親の強制的な愛」とは何かを身をもって体験することになった……


でもなぜ僕がこんな疑念を抱くかといえば、それは私たちの家庭事情に触れなければならない。


うちの両親はどちらも商人で、よく様々な業界の人と商売上の付き合いをし、その中で当然海外の人々と知り合い、友達になることもある。ちょうど、ある日本の商人が両親と仲が良くて、僕と小夕も彼に良い印象を持っている…


だから、どうしてもこの転校生が自分の妹じゃないかと想像してしまうのだ……


「もうっ!安心してよお兄ちゃん!私がそんな無鉄砲な人に見える?」小夕は当然といった様子だった。「仮に私がそうしようとしても、パパとママが許さないでしょ?だから、余計な心配しないで!」


〈いや……お前の性格からして、そう考えない方がおかしいだろ……だってそんなこと、お前なら本当にやりそうだし……〉


数秒間見つめ合った後、やはり僕は小夕と両親の言うことを信じることにした。


「はあ、わかった。俺の考えすぎならいいんだけど……」


「もちろんだよ、絶対にお兄ちゃんの考えすぎ!」小夕は力強くうなずいた。「よしよし、この話はもういい。あのね、お兄ちゃんに話すことがあって……」


この話題を終えると、私たちはまた日常の雑談の時間に入った。私たちは時に笑い、時に議論し、時にからかい合った。まるで本当にお互いのそばに座っているかのように……ビデオ越しではあったが、僕の心の懐かしさは確かに大きく和らいだ。


僕の心も体も、何度もの会話の中でリラックスしていった。言葉の違いを考えず、文化の区別を気にせず、こうして安心して話し合えることは、自分らしくいる感覚を味わわせてくれた……ほんの一時でも、僕はあの本当の自分に戻れた気がした——あの生前の林夢晨、あの両親や妹のそばにいた林夢晨に……


〈もし本当にずっとこんな風でいられたら、どんなにいいだろう……〉


僕はこんな時間を貪り、この短い幸せを楽しんだ……


私たちは長い長い時間話し、小夕がセットした夜中の0時のアラームが鳴るまで、時間の存在に気づかなかった。


「よし、もう遅い。単語覚えないと。来週また英語の小テストがあるから」妹は明るい口調で、名残惜しそうに終わりを告げた。「お兄ちゃん、また来週話そう!私たちの夢を見てね!」


「ああ、必ずな」僕は淡く微笑み、同じく名残惜しい気持ちでいっぱいだった。「おやすみ、小夕!」


「うん、わかった。じゃあ切る前に……言ってくれる?」小夕はお願いするような目を向け、餌を待つ小さな動物のようだった。


「はあ、わかったよ……えへん!あの、バイバイ小夕、愛してる!」僕は少し姿勢を正し、気まずそうに彼女が決めた締めの言葉を口にした。


「うんうん!バイバイ!私も愛してるよお兄ちゃん!おやすみ!」小夕は嬉しそうにビデオ通話を切り、今日の通話はこれで終わった。


「はあ、このガキ……なんて言えばいいんだか……直そうと思ってたのに、気がついたら……まあいい、なるようになるさ……」僕は小夕のことを考えながら、椅子に呆然と座って呆れたようにため息をついた。


月明かりが窓から流れ込んできた。冷たく、静かで、故郷の月明かりと変わらない……ただ、何かが少し足りない気がした……


〈今日はこれで終わりにしよう。寝よう……〉


僕は部屋の明かりを消し、ゆっくりとベッドに横になり、静かに今日あったことを思い返した……


〈明日……どこか出かけてみようかな……〉


そう考え、僕は目を閉じ、眠りについた……


……


土曜日、午前10時、僕は市の中心部にある有名な大型チェーン書店に来た。


書店は多くの人でにぎわっており、とても人気があるようだった。


僕は特に読みたい本もなく、ただ無目的に見て回った。


〈国内の本はあるかな……〉


突然そんなことを考え、無理やりこの外出に目標を見つけようとした。


でも……人が本当に多い……


長く待った後、僕は外国語の棚で国内の本を探すのを諦めた。本当にこんなに多くの人が外国の本に興味があるとは思わなかった。


〈まあいい、文学コーナーに行ってみよう……〉


考えを変え、僕は文学コーナーへと向かった。


文学コーナーに着くと、僕は一冊一冊の本に目を走らせたが、並べられた本を手に取ることはなかった。


〈聞いたことのないタイトルばかりだな……どれも似たような感じ〉


そう、僕はこれらの文学書に詳しくなかったので、迷っていたのだ。


〈もういい、これにしよう……〉


これ以上考えず、かつて読んだことのある本——『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を手に取った。


〈この本って文学書じゃなかったっけ?それともジャンルを間違えて覚えてる?〉


僕は手に取った本をパラパラとめくり、前世で読んだ中国語版とほぼ同じだと確認した。ただ表紙が少し違うだけだった。


〈多分……誰かが間違えて置いたんだろう〉


そう考えながら、僕はその本を持ってすぐ近くの席に座り、静かにこの日本語版の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を読もうとした。


イヤホンを付け、音楽を流し、僕は静かに本の海に入り、本の奥深さを探った。


しかししばらくすると、近くの物音が僕の注意を引いた。


〈森島詩織?彼女もここにいるなんて……〉


少し離れた本棚のそばで、森島が落ちた本を慌てて拾い上げ、立ち上がると周囲に申し訳なさそうに何度もうなずき、慌ててうつむきながら僕の方へ歩いてきた。


「こんにちは、森島さん」森島が近づくと、僕は自ら挨拶した。


「あっ!松、松本くん!」森島は明らかに僕がここにいるとは思っていなかったようで、声まで少し大きくなり、周囲の注目を集めてしまった。


「はいはい、少し小さな声で。他の人の邪魔になるから。よかったら、隣に座って」僕は慌てて立ち上がり、声の大きさに気をつけるようそっと森島に言った。


「あ、は、はい……」森島は自分の無礼に気づき、周囲に向かってもう一度うなずくと慌てて座り、手で顔を覆った。


僕も森島に倣い、周囲の人たちにうなずいて応え、それから元の席に座った。


声をかけようと思ったが、振り向くと森島の赤くなった耳の付け根が見えた。仕方なく、僕も再び本を手に取り、森島が落ち着くのを静かに待つことにした。


一分ほど経ち、森島は顔を覆っていた手を離し、そっと胸を撫でながら、緊張と恥ずかしさでいっぱいだった息を吐き出した。


「少し落ち着いた?」僕は森島を見ず、目尻で彼女の反応をうかがった。「ああいう状況なら、大抵の人は緊張して気まずくなるもんさ」


「は、はい、ありがとうございます、松本くん……」森島はまだ少し緊張した口調で、ゆっくりと僕に返事した。「手を貸してくれてありがとう……」


「ただ座って休んでもらっただけだから、手を貸したわけじゃないよ。どちらかというと礼儀みたいなものだ」


「そ、そうなんですか……それでも、松本くんには感謝してます」森島は僕がそう言うとは思っていなかったようだが、それでも感謝を伝えた。


「むしろ、僕が謝るべきかも。いきなり声をかけなきゃ、森島さんもこんなに緊張しなかっただろうから」僕は森島を見て、少し申し訳なく思った。「ごめんね森島さん、いきなり声かけてびっくりさせちゃった」


「い、いえ、大丈夫です。ただ驚いただけで、松本くんは謝らなくていいです……」森島は慌てて手を振り、ようやく落ち着いた気持ちがまた波立った。「本を落として音を立てて、慌ててそこを離れようとしたから、松本くんに気づかなかったんです。松本くんのせいじゃない……」


「そう?それじゃ、ありがとう森島さん」森島のこの様子を見て、どうしても加藤のことを思い出してしまう。この点では二人は本当によく似ているから。「そういえば、本当に偶然だな。ここで森島さんに会えるなんて」


「はい、ほ、本当に偶然ですね。私も松本くんに会えるなんて思わなくて、と、とても驚きました……」森島はまた気持ちを落ち着かせ、少しリラックスした表情を見せた。「松本くんも本を買いに来たんですか?」


「いや、ただ家にいても退屈だなと思って、時間つぶしに出かけただけ。ちょうどこの書店が評判いいって聞いたから、見に来てみた」僕は淡々と言った。「でも……本当に意外だった。こんなに人が多いとは思わなかった。土曜日なのに、こんなに人でいっぱいだなんて……」


「はは、確かにそうですね。近くの学生たちがよくここに本や参考書を買いに来るから、すごく人気なんですよ!」森島は何かに興味を持ったようで、顔から緊張と恥ずかしさが少し消えていた。「でも残念なことに、文学コーナーを訪れる人はいつも少ないんです……」


「そりゃそうだろう。だって文学的な本を好きな人はほとんどいないから。文学より、みんな小説とかの方が好きなんだろう」


「そうですね。松本くんもやっぱり小説の方が好きですか?」森島は僕の手に持っている本を見つめ、目が少し曇った。


「あ、違うよ。この本も文学コーナーで取ったんだ。誰かが間違えて置いたんだろう。でも目立つ場所にあったから、つい手に取って読んじゃった」


「そ、そうなんですか?そうでしたか……」森島はかすかに笑い、目にまた少し光が宿った。「じゃ、じゃあ松本くん、やっぱり文学に興味があるんですね?」


「まあね。暇な時はよく読むよ。でも読むのは海外の文学ばかりで、日本の文学はほとんど読まない」


「えっ!で、では松本くんはどこの国の本が好きで、どの本が好きなんですか?」森島は興奮しながら言った。「あ!ちなみに私はミラン・クンデラの『不滅』と、イタロ・カルヴィーノの『冬の夜、ひとりの旅人が』が大好きです!」


「『冬の夜、ひとりの旅人が』?ああ、カルヴィーノの『冬の夜、ひとりの旅人が』だね。読んだことあるよ。すごく良かった」僕はまた驚かされた。森島がこんなにマイナーな本を好きだとは思わなかった。「でも森島さんはいい名前を付けたね。原作のタイトルはどうも好きになれなかったんだ」


「でしょでしょ!タイトルはあまり良くないけど、本当に素晴らしい本ですよね!」森島は何か変なツボにハマったかのように、それまでの緊張と恥ずかしさがすっかりなくなり、急に興奮した様子を見せ、声も知らず知らずのうちに大きくなっていた。「まるで自分の物語を読んでいるみたいで、読者へのラブレターみたいです!」


「それからミラン・クンデラの『不滅』は、まさに芸術品です!彼の風刺は正確で鋭く、エッセイと哲学を織り交ぜ、存在について探求していて、読んでると自然に興奮して、比類ない知的な快感を覚えます!特に現代メディア社会への正確な予言は、読むたびに衝撃を受け、時代を先取りしていると感じます!」


「『冬の夜、ひとりの旅人が』はもっと驚きでした!次々と続く物語の筋がしっかり絡み合い、リュドミラとの交流は絶妙のひと言!探偵小説や日本風小説の特色だけでなく、意識の流れ小説やゴシック小説などの味わいも含まれています!まるでその場にいるようで、彼らの物語に参加して、彼らと同じ読書体験を味わいたくなりました!初めて読んだ時は本当に衝撃的で、読書について考えさせられました!ロマンチックでしかも知的です!それから……」


「あの……森島さんがそんなに喜んで話してくれるのは嬉しいんだけど、まだ書店だから、少し小声で話そう……」僕は周囲の客の目を一瞥し、やはり少し気まずさを覚え、思わず森島を遮った。


「あ、ああ……」森島は一瞬凍りつき、それから周りを見回し、やっと自分の声が周囲の人の注目を集めていることに気づいた。書店の店員までやってきて、小声で話すよう注意された。


森島は申し訳なさそうにうつむき、首から耳の先まで真っ赤になり、今すぐ本の中に潜り込みたいといった様子だった。僕はこの光景を見て思わず笑い、注意に来た店員に応え、これから気をつけると伝えた。


〈この子、本当に熱狂的な本好きだな……〉


僕は微笑みを浮かべ、目の前のこの少女についての見方を少し更新した。


「よし、店員さんはもう行ったから大丈夫だよ、森島さん」


森島は僕の言葉を聞くと、さらに恥ずかしくなったようで、慌てて本で顔を隠し、自分が恥ずかしがっている姿を見せまいとした。


「はいはい、見ないから」僕は呆れたように笑い、また『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を読み始めた。


数分待つと、森島がまた口を開いた。


「あ、そ、その、松本くん、わざとじゃないんで

す……」森島は手に持っていた本を下ろし、うつむきながら言った。「だ、だって、松本くんは私が初めて出会った、文学と読書に興味を持ってくれる人だったから、つい調子に乗っちゃって……ごめんなさい!」


「はいはい、森島さんがすごく嬉しかったからなのはわかるよ。趣味が合う読書仲間に出会えたら、誰だって興奮するさ」僕は手を振り、森島にそんなに気にしなくていいと示した。「むしろ、僕の方こそ森島さんに感謝しないと。趣味を分かち合ってくれてありがとう。森島さんとこうして話せて、すごく嬉しいよ」


「えっ!ほ、本当ですか?」森島は自分の耳を疑っているようだった。


「ああ、間違いない。森島さんとこうして話せて、すごく嬉しい」僕は少し姿勢を直し、できるだけ優しい笑顔を見せようとした。「だって森島さんも僕がここで出会った初めての読書好きで、趣味がほとんど一緒なんだから」


森島は何も言わず、ただぼんやりと僕を見つめていた。彼女自身も、自分の顔がますます赤くなっていることに気づいていないようだった。


「だから、森島さん、僕と友達になってくれない?僕の周りには読書仲間が本当に少なくて、時々読書仲間と分かち合いたい気持ちを和らげる必要があるんだ」僕は手を差し出し、礼儀正しく森島に尋ねた。


「あっ!は、はい!光栄です!あ、ありがとうございます、松本くん!」森島は突然我に返り、慌てて僕の手を握り、何度も強く振った。


「大丈夫、こっちこそ光栄だ。あ、それなら、連絡先も交換しよう」この話題に乗り、僕は連絡先交換のリクエストを出した。友達になるためだけでなく、自分の観察レポートのためでもある。


「あっ!は、はい!」森島はカバンからスマホを取り出し、僕と連絡先を交換した。


「よし、ありがとう森島さん。これからよろしく」僕はスマホをしまい、森島に微笑んだ。


「うん、はい……よろしくお願いします、松本くん!」森島はまだ少し緊張していたが、同じように微笑みを返した。ただ顔が少し赤いだけだった。


こうして、僕は新たに読書好きの友達を獲得し、自分の観察レポートに重要な素材を一つ加えた。


〈森島詩織……ふふ、なかなか面白い子だ……〉


僕は目の前のこの読書好きで、分かち合うのが好きな本の虫の友人を見て、思わず笑みが漏れた。


その後一時間、私たちは書店で読書についての見解や好みを話し合い、お互いの理解もさらに深まった。


その後、森島は用事があると言い、私たちは名残惜しそうにこの会話を終え、書店の入り口で手を振って別れた。


今回の交流は終わったが、これからもまたある。

だって……読書と分かち合いは、私たちの共通の喜びだから……

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