第3話 オリエンテーリング

 私たちは、やってきた馬車に乗り込んだ。馬車といっても荷馬車だ。乗り合い馬車に使われるようなものよりも簡素で、でも人をたくさん乗せられる。

 馬車数台を連ねて道を行く。王都を出るところで、馬に乗った兵士たちと合流した。警護のためだと説明があった。城壁を出ると治安は悪くなる。襲ってくるのは人の場合もあるし、それ以外の存在の場合もある。

 兵士たちの中に、明らかに他の人とは違う装備の人が二、三人いた。付き添いの先生の話だと、王城つきの騎士ということだった。

 さすが貴族、装備が立派、と、私は騎士たちが身につけているものを見ながら思った。騎士は、魔法を使えるのが条件。なので、当然貴族。普段はほとんどが王城にいる。

 都を出て十分ほど行くと、行く手に森が見えてきた。そこが私たちのオリエンテーリングが行われる場所だった。課題として提示されている野草を収集しながら、森の中にもうけられたポイントを巡る。

 この森には、以前に何度か来たことがある。普段は地元民が出入りしているのだが、今日は揃いの身なりをした男性たちがそこここに立って、人の出入りを制限していた。

 何か起きたのかな?と思った。もしかして、オリエンテーリング中止とか?ちょっとだけ期待した。だって、森をただ歩くなんて退屈じゃない?

 私は森に立っている男たちの動きを見つめた。何かわかるかなと思って。そうして見ると、男たちは身につけている装備が兵士と少し違った。彼らの装備は、兵士よりも良く、騎士ほどには良くない感じ。

 私の隣に座っていたマリちゃんも男たちに気づいたようで、縮こまって小声で私に言った。

「もしかしたら、おじいちゃまが手配したのかも……」

「ああ、フォロ商会からの派遣かあ」

 マリちゃんの祖父は、国一番の商会であるフォロ商会の会長だ。私は何度も会ったことがある。本当に孫の溺愛っぷりが凄いご老人だった。恐らく、マリちゃんが学校行事で城壁の外に出るときいて、心配になったんだろう。

 それにしても。

「マリちゃんのおじいちゃん、もしかして魔法使いまで手配したの?」

 私は、少し離れた場所でフォロ商会の護衛三人と話し込んでいる痩身の老人を指さした。老人は金属の透かし彫りが嵌まった杖を持っていた。そういう杖を持っているのは魔法使いだと決まっている。特殊な文様等を刻まれた杖は大規模な魔法を使うときに必要になる。

「まさか。さすがに貴族を呼んだりできないよ」

 マリちゃんは少し顔色を悪くしながら言った。そうかなあ、と思いながら私は老魔法使いを見ていた。老魔法使いは、フォロ商会の護衛たちに何か早口に話していた。何かあったのだろうか、と思いながら彼らを眺めていると、老魔法使いがこちらを見た。

「もう来たのか!」

 大きな声で言いながら、こちらに向かって歩いてきた。引率の先生の前まで来ると、

「悪いことは言わん。今すぐ引き返せ。今日、この森の中に入ってはいかん」

「何かあったんですか」

「今朝早く、妙な魔力の揺れがこの森の中から感じられた。今はもうその気配は感じられないが、用心した方がいい」

「しかし……」

 先生が言い淀む。

「どうしたんですか」

 別の先生が、こちらにやってきた。その先生は老魔法使いが持っているのよりも簡素ながら、やはり魔法使いならではの杖を持っていた。今学期、魔法科から転属された先生だと他の生徒から話にはきいていた。

 老魔法使いは、新たに現れた魔法使いの先生を相手に、先ほどの説明をもう一度繰り返した。先生は森の方に向き直り、目を眇めて見ていたが、

「何も感じませんが」

「だから、今は感じられないと言っているだろう。一瞬だったが、大きな揺れだったんだ」

「魔法局からは何の連絡もありませんでしたが」

「彼らには観測できなかったのだろう。局地的なものだったから」

 魔法科の先生が老魔法使いの相手をしているところから、最初に老魔法使いに捕まっていた先生がゆっくりと歩いて離れた。そして、私たち生徒に目配せをしてくる。

 私たちは、それに合わせてゆっくりとその場を離れた。先生の後について、森に近づく。

 生徒たちは、森の入り口に集まっていた。他の先生たちが、フォロ商会から派遣された護衛の人たちから話をきいていた。護衛たちは今朝早くからこの森の巡回をしていたらしい。そこへ、先ほどの老魔法使いがやってきて、突然あんなことを言い出したということだった。

「森の様子に何か変わったことがありましたか」

 先生の質問に、護衛たちは「いや、特に」と答えた。

 先生と護衛の会話を聞きながら、私も森に意識を飛ばしてみた。が、よくわからなかった。魔素の様子に特に変わりなし。森が少しざわついている感じはするけど。

「皆、聞きなさい」

 先生が生徒たちに呼びかける。

「予定通り森に入ります。班の番号順に入っていってください」

 結局、先生たちは、何事もなかったのだと結論づけたのだった。

 待ちくたびれていた生徒たちは、速やかに指示に従った。私たちの班は3番目。私たちが森に入ったとき、後方から先程の老魔法使いが何やら大きな声を出していたけど、耳を貸さないことにする。

 森に入りながら、マリちゃんは後ろを気にしていた。

「ねえ……。さっきの、本当に大丈夫なのかな」

「大丈夫なんじゃない?だって、何も感じないし」

「そっか……。シホちゃんが言うんなら、大丈夫だよね」

 マリちゃんはあからさまにほっとした様子を見せていたが、傍できいていたゼンタは不服そうだった。

「なんだ、そりゃ。お前って、そんなに大層な魔素術使いなのかよ」

「あー、まあ、田舎育ちで、ちょっと鍛えられてるっていうか」

 そう言うと、ゼンタはすぐに納得した。田舎はいろいろ設備とか整っていないから、子どもの頃から魔素術を使いこなして生活していかないといけない。そのせいで田舎出身者は魔素術に長けているというのが王都の人たちの共通認識だった。初めてその話をきいたときには、ちょっと大げさじゃないかな、と思ったものだけど。

 私たちの少し前を歩くクロウが、あちこちを見回しながら少し首を傾げていたので、私は声を掛けた。

「どうかした?」

「いや、少し魔力の場が乱れているかなと思って」

「へええ、そういうのわかるんだ?」

 訊きながら、私は不思議に思った。魔力は魔法使いが操るものであり、魔素術師には魔力はわからない。魔素術師が扱うのは魔素だ。両者は全く違う。だから、さっきの老魔法使いが言っていた「魔力の揺れが」とか、今クロウが言う「魔力の場が」とか、魔素術使いには全くわからないものなのだが。

 オリエンテーリングは、森の数カ所に設置されている祠に行き、その傍に立てられた柱からリボンを一本取ってくる、というルールだった。全ての箇所を回って森の入り口まで戻れば完了になる。

 最初の祠で得られるリボンは青色。クロウがリボンを取ると、マリちゃんに手渡してきた。

「保管しておいてくれ」

「あ、はい」

 マリちゃんは背負っていたリュックに仕舞っていた。私たちはそれを見届けると、歩き始めた。

 次の祠もその次の祠も、問題なく回ることができた。

 だが、四つ目の祠に行く途中、いきなり森のそこかしこから光の玉が出てきた。

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