第二章:『執着受像の乖離』
二十四階の選別士リィナは、雨上がりの泥の中から、燃え尽きた星の残骸を拾い上げる。「あの中に、彼がいる」――一年前、資産を失い「収穫」された恋人を捜すことだけが、彼女を動かす唯一の「赤」だった。彼女は食欲を削り、薬代を惜しみ、すべてをレンズの研磨代に注ぎ込んだ。
だが、極限の労働と栄養失調は、彼女の目を白く濁らせて彼女の視界を蝕んでいく。ついに動けなくなった彼女は、隠し持っていた最高級の星石を運び屋に差し出す。これで恋人を捜すための「黄金レンズ」が手に入るはずだった。
「この石はもう死んでいる」 運び屋は吐き捨てた。「お前の濁った執着が、石の価値を内側から腐らせたんだ」
リィナの絶望は、資源としての品質さえも損なっていた。運び屋は、価値のないゴミを回収するかのように石を奪い去った。
リィナは暗い部屋で、恋人の名前を呼びながら息を引き取った。転移の瞬間、彼女の顔からは、レンズの原石として「一級品」の輝きを放つ瞳がこぼれ落ちた。執着を捨てきれなかったリィナ自身は「腐った資源」として廃棄されたが、皮肉にも、その眼には死の間際にのみ「一級品の受像体」が完成したのだ。
しかし、その部屋を訪れる者は誰もいない。一級品の「目」は、誰の視界を助けることもなく、翌朝の自動清掃装置によって、他の有機ゴミと共に処理槽へと流された。ヴィサヴァーンにとって、個人の執着はシステムの円滑な受像を妨げるノイズでしかない。リィナの愛も、研磨された瞳も、等しく無価値な残渣として乖離していった。
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