第4話:ピンクの追撃者たち
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## 第?話:ピンクの追撃者たち
「わー、キリンさん、大きいね!」
「ゾウさん、お水かけてるー!」
秋晴れの穏やかな日、家族四人で動物園にやってきた。詩織と健太は、両手に杏と紬の手を引き、歓声を上げる娘たちの笑顔に目を細めていた。都会の喧騒から離れた広い園内は、動物たちの鳴き声と、子供たちの笑い声に満ちている。
フラミンゴ園の前を通りかかった時、ちょうどおやつタイムだったのだろうか、園内で飼育員さんたちが数羽のフラミンゴを散歩させているところに遭遇した。
すらりとした長い脚、真っピンクの羽毛、そして独特のS字に曲がった首。間近で見るフラミンゴの優雅な姿に、大人も子供も目を奪われる。
「きれーい!」と杏が声を上げた。
「ピンクさん!」と紬も指をさす。
娘たちは初めて見るフラミンゴに大興奮だ。
しかし、その興奮は、やがて予想外の方向へと向かっていった。
杏が、ピョンピョンとフラミンゴの前で跳ねて見せた。それを真似て、紬も小さな体でピョンピョンと跳ねる。
「はーい、杏、紬、あまりからかわないのよー」
詩織は朗らかな声で注意したものの、その表情はどこか楽しげだった。まさか、あんなおとなしそうな鳥が、子供に本気で反応するなんて思ってもいなかったのだ。
その瞬間だった。
フラミンゴたちの表情が、明らかに「豹変」した。
優雅だったはずの首が、ぐっと前に突き出され、まるで威嚇するように「グエーッ!グエーッ!」と、想像よりもずっと野太い声で鳴き始めたのだ。
そして、その長い脚で、ダッと地を蹴った。
「きゃーっ!」
二人の娘は、ピンクの猛獣……いや、ピンクの鳥たちが自分たちに向かって一直線に突進してくるのを見て、恐怖に顔を引きつらせた。
健太と詩織は、呆気に取られて一瞬固まったが、すぐに事態を把握する。
「杏!紬!逃げろーっ!」
健太の叫び声に、娘たちはパニックになり、ちぎれんばかりに小さな足を動かして逃げ出した。
しかし、フラミンゴの足は想像以上に速い。長い脚でグイグイと速度を上げ、あっという間に杏と紬のすぐ後ろに迫っていた。
「ママ!パパ!たすけてー!」
娘たちの悲鳴が園内に響き渡る。
ピンクの集団が、きゃあきゃあ叫びながら逃げ惑う小さな二人を、追い回す!
詩織と健太も、娘たちを追いかけ、フラミンゴたちから守ろうと必死で走り出した。
まさか動物園で、こんなハプニングが起きるなんて。
平和な動物園の一角で繰り広げられる、ピンクの追撃戦。
詩織は走りながら、今日一番の冷や汗をかいていた。
(なんでフラミンゴって、こんなに足が速いのよー!)
「こっちよ!早く!」
健太と詩織の声援(と悲鳴)の中、娘たちはフラミンゴから逃げ切り、やがて疲れてへとへとになりながらも、その日のことを忘れられない思い出として心に刻んだのだった。
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