第6話
「ハーイ!ママ、元気?」
娘のエイミーが訪ねてきた。
現在二十二歳、最近、結婚して近所に住んでいる。
「ママ?どうかしたの?」
レスリーは居間のソファに乱雑に投げられた服のようにダラリと腰掛けて目の下にクマが出来、頬が涙で濡れている様子に気がついた娘が訊いた。
ダニエルが水曜日になっても帰ってこないことを掠れ声で話した。
「パパが?電話したの?」
エイミーが言いながら自分の携帯を取り出してかけてみた。
「つながらないね」
「そう、何回もかけたわ。ずっと、つながらないのよ」
エイミーは母親の隣に腰掛けると抱きしめた。
「心配だね。でもママ、何か食べた?その様子じゃ、眠れてないでしょう?とりあえず、お茶飲もう」
エイミーはレスリーの顔を両手で優しく包み自分の額を母親の額に付けて、微笑むと立ち上がってキッチンに向かった。
湯を沸かし、アップルティーを淹れた。
「甘くしたよ」
言いながら注いでレスリーにカップを渡した。
「ありがとう…」
甘い紅茶を美味しそうに飲む母親をじっと見つめていた娘は自分も紅茶を飲んで、ふうっと息を吐いた。
「ママ、私、今日泊まっていこうか?」
エイミーは母親が、もう少し落ち着いたら父親が居なくなった時の様子を詳しく聞きたかった。
それに、窶れた母親を一人にしたくなかった。
──パパは今夜も帰ってこないかもしれない。なんだか、そんな気がする。
エイミーは明るく振る舞い、母親に夕食のリクエストを尋ねた。
「ママは、ゆっくり座っていて。私が久しぶりに腕を奮うから」
ニンジンのラペ、茹で卵と海老とブロッコリーのサラダに野菜たっぷりのチリビーンズを作った。焼きたてのくるみパンを添えて。
「ママ、出来たよ。食べよう♪私、お腹ペコペコ」
なかなかソファから立ち上がらない母親の両手を取って、そっと引っ張ると母親は、ようやく立ち上がった。
「自信作なんだから♪少しだけでも、食べて、ね。パパのこと心配だけど、体力つけよう」
「腕を上げたわね」
母親は出来上がった料理を見て微笑みながら席に着いた。
食事を終えた後は一緒にお酒を飲もうと思っていたので冷蔵庫に冷やしておいたブルーのボトルを取り出した。
「ママ、ワイン、飲む?シュバルツカッツェ」
母親が頷いたので娘はクラッカーにチーズとブラックオリーブを切ったのを載せてプチトマトを添えた。
「久しぶりにママと過ごす夜に乾杯♪」
母娘は、ゆっくりとワインを飲んで夜を過ごした。
夜も更け十時近くになり、母親は少し元気になった様子だった。
「ママ、少し落ち着いた?」
母親のグラスにワインを注いでボトルは空になった。
「パパが居なくなった時の様子、話してくれる?」
レスリーは娘が注いでくれたワインをグイッと一気に飲み干しテーブルに置かれた皿を見つめながらポツリポツリと出かけた時の状況を話した。
「うーん…遅くなるかもしれないと言っていたんだ…」
──それは誰かに会いに行ったということ?遅くなるかもしれないと解っていた…?
母親のワイングラスを見つめる目に涙が浮かんだ。
ふいに母親が、そのまま顔を上げたので涙が頬に流れた。
「そう、それでね、」
母親は黒い封筒に黒い文字で夫の名前だけがタイプライターで打たれた中身のない封筒を見つけた話をした。
それを聞いたエイミーは青ざめた。
「…ママ、それヤバいかも」
言葉を続けようとした途端に娘の携帯が鳴った。
「夫からだわ…ハイ♪ダーリン。ごめんね今、実家に来ているのよ。すぐに帰る予定だったけど色々あって、ママが元気ないの。え、ちょっと待って…ママ、エリックも来ていいかしら?」
母親は無言で頷いた。
「ママ、オッケーだって。うん、うん。焦らないで来て。何か食べる?オーケイ。じゃあ、後でね」
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