第6話

 ギャレアの商人ギルドは怒号が飛び交う修羅場と化していた。

 多くの商人がカウンターへと押しかけ、何事かを受付に申し付けている。その横では多くの傭兵たちが、臨時のカウンターに殺到していた。手続きを簡略化するために作られた簡易の木製認可状が次々と傭兵に手渡され、物々しい雰囲気で傭兵たちが街へと繰り出していく。

 その列の最後尾に俺と女神様が加わると、女神様の美麗さに一瞬男どもが色めき立つ。振り返って顔を見ようとする野郎まで出る始末だが、女神様が全く相手にしないとわかると好色野郎どもの騒ぎも自然と落ち着いっていった。

 「たく、これだから傭兵連中は」

 「知ってますよ、だから大丈夫です」

 「そういや女神様は先陣切って斬り込むタイプだったな。どう思う、今の傭兵連中の練度を」

 「あなたを除いて、みな弱いですね」

 落ち着いている女神様にせっかくだからと今の傭兵家業を問い質してみたら、周りの連中から睨まれるほどの忖度ない意見が彼女の口から出てきた。おー怖い。

 だが女神様が弱いというにはそれなりの理由があるようで。彼女は己の背に背負った雷銃に手を触れつつ、ずらりと並んだ傭兵の列を見据えたまま言葉をつづけた。

 「おそらく、武器の進歩が傭兵の地力をなくしているのだと思います。雷銃は非常に便利ですが、道具に頼る存在は弱い。そして、それだけの力が雷銃にはある」

 「いうねぇ。まぁでも、俺も剣の稽古じゃ女神様に手も足も出なかったからなぁ」

 確かに今の傭兵の肩には雷銃が、腰には申し訳程度に量産品の剣が佩かれている。護身用としてとってつけた代物ばかり、安物の剣がそう代弁している。剣や槍が武器として、戦闘の中核として使われる時代は終焉を迎えつつあることは明白だ。

 だからこそ、女神様の論点は間違ってない。基本的な訓練をおざなりにして、雷銃の性能に頼り切れば。待っているのは地獄の悪鬼たちのお出迎えだ。

 納得した俺は、俺たちの会話を勝手に盗み聞きして視線を投げてくる連中を睥睨した。どうせ気にする連中は、身に覚えがあり過ぎて睨むぐらいしかできない能無しばかりだろう。

 そんなことを言っている間にも、行列はサクサクと消化されてすぐに俺と女神様が簡易の認可状を受け取る順番になった。番号と小文字の単語が書かれた木の札を受け取りつつ、俺は受付の説明を聞く。

 「こちら、一度しか発行いたしませんので大切にお持ちください。同じ記号の方は別の場所で待機中です、そちらにお向かいください」

 「それで、俺たちは何をすればいい?ほかの傭兵たちと合流したあと、仲睦まじく親睦会を拓けってわけでもないだろ?」

 「ええ、明朝の午前に受付を締め切りますので、その段になりましたら一度ギルド前の広間に集まっていただきたく──」

 受付がそこまで説明した直後、背後でガラスが割れる音がした。それと、諍いを起こす怒号もエントランスに響き渡る。──面倒ごとのにおいに俺はけだるさ交じりに振り返った。

 「なんですって!?あたしのどこが役立たずなのよ!」

 「女の傭兵なんざ役立たずっつってんだよ!消え失せて酒場で尻でも振ってな!」

 「……いったわね、目にもの見せてやるわよ」

 ブチ切れたのは女の方で、口汚く罵る男の方が喧嘩を吹っ掛けたようだ。女はは家エルフだろう、ブロンドの髪を後ろ手にまとめ、エルフ服から傭兵らしいボダ服に身を包んでいる。男はそこら辺にいる、傭兵と名乗っているだけの酔漢だ。三人いるが、女の敵じゃない。

 女の予想外の激昂に男の方はたじろぎつつも、数人でまとまっているからかののしりを止めることはない。

 「うるっせぇ、てめぇなんざ俺一人で十分だ!いまここでひん剥いてやらぁ!」

 だが、すでにここまでの男の侮辱に本気で頭に来たのだろう、その女は長い耳を引くつかせて己の剣に手をかけた。

 「女神様」 

 「はい」 

 「もちろん、わかってるな?」

 「ええ」

 気持ちが通じてくれてよかった。俺は女神様に目配せ。

 それだけで、女神様は赤いつむじ風となって酔漢たちに殺到した。

 「ふっ」

 「なんだこのお──ぐふぅぁ!?」

 女エルフが剣を抜く前に女神様が彼女の手を抑え、その動きのまま言い争っていた男の股間を蹴り上げる。──些か容赦のない前蹴りだったからか、鈍い音とともに男が股間を抑えたまま後ろ倒れに失神した。

 「さて、実力差を見抜く目があるならば……ここで退くことをお勧めしますが?」

 泡を吹いて倒れた男と、乱入してきた女神様を見比べて。男たちは見る目を持つことをえらんだ。青い顔で捨て台詞を履きつつ、倒れた男に目もくれず商人ギルドのエントランスから立ち去っていく。

 (しかし、すげぇな今の動き。女神様、女エルフの腰の剣を支点に後ろ向きに前蹴りしやがった)

 言ってしまえば左足による回し蹴りににた動きだが、疾駆した後に急停止してやれる動きかといえば、まず無理だ。ヴァリュ神族の身体能力は人間だけじゃなくエルフすら凌駕するといわれているが、目の前の女エルフが反応できていないあたり本当のようだ。

 「あ……ありがと」

 「いえ、私も腹に饐えかねてたので」

 礼を言う女エルフに女神様が微笑み、俺の元に戻ってこようとした。だがいつの間にか俺が彼女たちの横に立っているとは思わなかったのだろう、振り向いたら俺がいたことに、女神様がかすかに驚く。

 「おっと、ご主人様。気配を消すのが得意ですね」

 「性分でね。それよりそこなエルフ殿、腰に下げてる認可状が見えたが、この記号で相違ないか?」

 俺が確認したかったのは、それ。ちらちら見えていた認可状の番号が俺と同じだったんだ。

 「え、ええ」

 「なら、一緒に集合場所へと赴くことにしよう。なに、いきさつは後で聞きます」

 俺の勢いに押されたか、女エルフは不承不承頷き返した。


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堕天女神、傭兵の相棒になる ――主人↔︎堕天、傭兵↔︎女神様 華や式人 @idkwir419202

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