第2話

 俺の家はバド共国の海側国境近くにある村に買ってある。いつもは戦場が家だから使わないが、こういった事態に女性の一人でもお招きできるように資産として持っていた。

 それが今、存分に発揮されていた。

 「ほら、入ってくれ。村の人に頼んで定期的に窓は開けてもらってるからな、埃っぽくないだろ?」

 「お邪魔します」

 俺がどかどか床を揺らしながら中に入ると、女神様もおずおずと中に入ってきた。

 村人に誤解を招くことないよう、すれ違った流れの行商から買った白黒の男物の服が女神様によく似合う。俺の美的センスに満足しつつ、俺は率先して二つあるベッドの片方に座り込む。

 「さ、座ってくれ」

 「では遠慮なく。それで、私をヴァリュ神族と知って購入したのならば、何か魂胆があるはず」

 お、容赦なく俺の真意に女神様が切り込んできた。落ち着かない腰を無理やり押し付けた女神様に、俺は静かに俺の「心の中」を切り出す。

 「宵越しの金を持たない、てのは確かに傭兵としての本心だ。だが確かにほかの打算があったのも事実。俺はあんたに、ヴァリュ神族としての戦働きを求めたい」

 「……正気ですか?博識ならば存じているはず、我々ヴァリュ神族は」

 おっと、そこまでだ。女神様が口走ろうとした知識も俺はちゃんと知っている。彼女の唇に俺の指を押し当て黙らせた俺は、静かにかぶりを振りつつ微笑んだ。

 「知ってるさ。あんたらヴァリュ神族は堕天してる。つまり、あんたらは神能──神が持つ権能を使えない」

 ヴァリュ神族は神話時代に神々の戦に負け、地上に降りてきた存在だ。その際に神としての力はすべて捨ててきた──事実、そうだということは俺も知っている。

 女神様もまたその末席に名を連ねていたのだろうてのは想像に難くない。そして、負け戦で起きた悲惨な出来事も多く経験してきたはず。

 だが……だからこそ俺は、奴隷に身をやつしても気品を持って振る舞う女神様を買ってよかったと思ってる。

 「俺ぁね女神様、あんたの力目的であんたを買ったわけじゃないぜ。これだけは言っておく。奴隷となっても気品を持って振る舞うことはとっても難しい。だから、俺はあんたが気に入った。ただ家業が家業なんでね、家で待っててもらうだけじゃなく、一緒に戦ってもらうだけさ」

 俺がそう言いつつ、彼女の唇から指を離した。彼女は静かに俺を見つめ、俺の気持ちが籠った言葉の真意を定めている。──少しして、女神様も俺のように微笑んで見せた。どこか、相対する神々に見せたどう猛さを微笑みに湛えて。

 「いいでしょう。ならば戦働きで主人たるあなたに貢献します。存分に戦って見せましょうとも」

 「その意気だ。んじゃ、さっそく練習してもらいたいものがある」

 女神様の返答を聞き終えた俺がベッドから立ち上がって、戸棚へと向かった。戸棚の扉を開けて、静かにその奥の壁を押す。

 それだけで、戸棚の奥の壁が向こう側へと開いた。最後に戸棚を動かせば、秘密基地への門が開かれる。奥に見えるのは刀剣や盾──じゃあ。ない。

 「入ってくれ」

 「ええ。……なんですか?その筒は」

 先んじて中に入っていた俺を追って女神様が中に入る。そこには複数の「長い筒」が置かれていた。おそらく奴隷時代の女神様は触れたことも見たこともない代物。

 そして……今の戦場を替える、致命の武器だ。


 「これか?雷銃て呼ばれてる。金属の球を超高速で飛ばす……新時代の武器だ」


 

 

 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る