中学生時代
中学生になっても、K君は委員長をやりたくはありませんでした。しかし、委員長というものは、大抵誰もがやりたくありません。
入学最初のクラス会で、学級委員長決めが中々進みませんでした。
『誰かやれよ。』
『あんなの面倒だ。』
『さっさと誰か手を挙げろ。』
誰もがそう思っているように感じました。K君はそんな雰囲気がとても嫌いでした。嫌われるのは嫌ですが、クラスの雰囲気が悪くなるのはもっと嫌でした。
だから、K君は手を挙げました。自ら貧乏くじを引いたのです。小学校でのK君を知る子は、またあいつかと言いたげな顔をしていたと思います。
その時の僕は、誇らしげでした。みんなのために立ち上がった。みんなの助けになった。そう思っていました。
中学生のK君は、今までのようにちくちくうるさくはなく、「別にいいでしょ、そのぐらい。」とよく言う、会長にしてはルールに甘い人間になっていました。
嫌われたくなかったからです。
K君は小学生時代の経験が、ある種のトラウマになっていました。怖い。嫌われたくない。K君はそう思って、みんなに好かれる優しい会長を演じたのです。誰とでも話をし、先生からの評価も高い。気づけば、K君は優等生になっていました。
K君は、部活動に入りました。野球部です。K君は小さい頃から野球をしていて、ポジションはセカンドでした。なかなか上手い方で、周りからは名手と言われることもありました。
しかし、三年生の春でした。K君は、野球部を辞めました。突然のことで、驚いた方もいると思います。何があったのか、お話しします。
野球部の監督は、とても熱心な人でした。熱血というほどではないですが、野球に対する情熱は人一倍ある方でした。K君もその先生と強くなりたいと思って、練習に励んでいました。
しかし、K君はその先生に対して、少しだけ不満がありました。大量点差で負けたり、エラーが多かったりした試合では、度々「勝手にしろ!!」と言って、試合を放棄することがあったのです。怒鳴り声もあげていました。みんなそれに萎縮してしまって、さらに動きが硬くなるという、負の連鎖が起きていました。
K君は、『野球はツーアウトから。最後まで戦い抜けよ。監督が真っ先に諦めてどうする。』と思っていました。
そんな不満が募っていたときに、事件は起こりました。
監督が、キャプテンをグラウンドの隅に呼び出していました。K君は一体何を言われているのかと、グラウンド整備をするふりをして盗み聞きしました。
「お前ら、もう三年だぞ!!」
監督はかなり怒っているようです。何に対して怒っていたかは、もう覚えていません。監督は続けてこう言いました。
「さっさと引退した方がいいんじゃないか?」
K君の頭は真っ白になりました。その後、K君は部活を辞めました。最後に監督に退部届を渡したときに言いました。
「試合を諦めるのは、辞めた方がいいですよ。」
これが精一杯でした。キャプテンに対する発言については、何も言えませんでした。この後に及んで、怖気付いてしまったのです。
K君は、そんな自分が嫌いになりました。
三年後期。K君は合唱コンクール実行委員会に所属していました。誰もなりたがらなかった、貧乏くじです。誰も手を挙げないのを見て、K君は手を挙げました。クラス会は、お陰でスムーズに進みました。
K君は指揮者にもなりました。もちろん、誰も手を挙げなかったからです。
K君の指揮は振りが大きく、後ろから見れば、鳥が羽ばたいているようでした。それをみんなは笑いました。K君は少し嫌な気持ちになりましたが、一緒に笑っていました。
中学生は思春期のど真ん中です。反抗期でもあります。何かと、みんなは反抗しがちです。
K君はテノール部隊のリーダーでした。テノールの彼らは案の定、練習を真面目にしませんでした。それが原因で、音楽の授業では度々怒られます。真面目に練習をしている子もいましたが、巻き添えを食らっていました。K君も同様でした。
そんな練習の日々が続いていたときでした。
K君の学校では合唱コンクール本番が近づくと、帰りの会前に少し練習をするのが恒例でした。その日も毎度のように練習をしていました。しかし、いつもと違い担任の先生がおらず、副担任の先生が代わりに見ていました。
その日の練習は、いつにも増して酷いものでした。怒ると怖い担任がいないから、真面目に歌わない人がいつもより多かったのです。話していたり口パクだったり。K君はなんとか誤魔化そうと音源の音量を上げました。それでも、酷いものでした。
K君は帰りの会終了後、その副担任の先生に呼び出されました。先生は言いました。
「いつもこんな感じなの? もっとちゃんとしないと。」
少し怒られました。K君は「すみませんでした。」とすぐに謝りました。
K君はその帰り道、モヤモヤしていました。
『なんで僕が怒られないといけないんだ。』
『みんなが嫌がる実行委員に指揮者までしてあげたのに、なんで協力してくれないんだ。』
『他のクラスはちゃんと練習しているのに、なんで……。』
K君はしばし考え、結論を出しました。
『でも、僕がいけないんだ。もっとしっかりしていれば……こんなことにはならなかったのに……。』
次の日、K君は学校を休みました。
K君は自分を責めました。もっとちゃんとしよう。そう思って、K君は頑張りました。真面目にしない子たちには「まあまあ。めんどくさいのは僕も同じだから。とりあえず先生の前では真面目なフリをしておくれ。」と言って、見栄えだけはよくしました。男子たちに不満げな女子には、「なんとかするから、そう怒らないであげて。」と言って、
K君は笑顔を貫きました。嫌な気持ちやイライラを表情には決して出しませんでした。常に笑顔で、うまく場を取り持つ。そんなリーダーを頑張って演じていました。
なんとか、合唱コンクールは無事に終わりました。出来はそんなによくありませんでしたが、それでも終わったのです。K君は肩の荷が降りて、ホッとしていました。
そんな中、クラスのみんなは言いました。
「めんどくさいのが終わってよかった。」
「練習だるかった。」
K君はなんのために頑張ったのか、わからなくなりました。
次の日、K君は学校を休みました。
K君は思いました。これで嫌われたのかなと。ド真面目でいちいちうるさいやつに戻っちゃったのかなと。
K君は思いました。
『僕に友達と呼べる人はいるのか』
K君は気付きました。
『僕は、浅く広い人間だ。休日に遊ぶような友達はいない。』
休み時間。K君はほとんど一人でした。教室で本を読んだり、校庭を散歩していました。みんなが仲良くドッチボールをしているを見て、羨ましく思っていました。でも、K君を遊びに誘う人はいませんでした。
K君は誰とでも話すことはできましたが、仲良くはなかったのかもしれません。
そのこと気づき、K君はショックを受けました。
ずっと、ひとりぼっちだったのです。
だから、中学生時代は、あまり思い出したくありません。
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