しかもこの感じだと、この洞窟もバグりまくってるな?

『リスポーンバグですね。ど、どうしましょう? マスター』

 ど、どうしましょうって……。

「でたわね、モンスター! 行くわよ、ウェネル!」

「駄目駄目、絶対駄目!」

「どうしてよ、ウェネル。今まで二人で協力して、モンスターを倒して来たじゃない。大丈夫。確かにちょっと強そうな相手だけど、今までのモンスターとの戦闘経験がある私達なら負けないわ!」

 ないから負けちゃうんだよ!

 羽交い締めするようにしてキスティをどうにか押し留めながら、俺の頭はフル回転していく。

 ……『デバッグ』。確かパラメーターの調整機能があったよな? あれを使って、相手を一撃で倒すことは――

『うわぁぁぁ! どうせ私は駄目スキルですよ! どうせ私はポンコツ――』

 わかった! わかったから!

 それじゃあ、別の方法を考え、ん?

『どうされたんですか? マスター』

 逃げれば(・・・・)、いいんじゃないか?

 村長の選択肢も、無理やりバッファオーバーフローさせただろ?

 本来逃げられないボス戦でも、『逃げる』ボタンを連打して上限を越えさせれば?

『確かに! すぐにマスターに作成頂いたスクリプトを起動させます!』

 正常に起動したのか、鎧を着たゴブリンソルジャーの動きが目に見えて変わる。

 こちらを追う素振りも見せず、どこかぼんやりと緩慢な動きで天井を見上げていた。

『今なら逃げられます、マスター!』

 よし!

「行くぞ、キスティ!」

「ちょっと、何するのよ、ウェネル!」

 騒ぐキスティを連れて、俺はキャズムズ洞窟の奥へと向かっていく。

 ちなみに、『逃げる』が成功したゴブリンソルジャーと戦っていたらどうなったんだ?

『戦闘が即再開されて、再度スクリプトを起動する前にマスターかキスティさんのヒットポイントがゼロになります』

 結局、逃げるのが最適解だった、っていうことか。

「ちょっと、そろそろ放してよ」

「ああ、悪い」

 キスティの手を放すと、キスティは不服そうに唇を尖らせる。

「ウェネルのことだから何か理由があるんだろうけど、言ってくれないとわからないわ」

「悪い。でも、心配だったんだ。その、キスティに何かあったら、って」

「ふ、ふーん。そ、そうなんだ。そんなに私のこと、心配だったんだ」

『好感度が爆上がりしているせいで、キスティさんがチョロすぎますね。あ、バグってはいないので安心して下さい、マスター』

 別の意味で心配になるけどな。

 だが、機嫌は治してくれたようで、髪をいじっていたキスティが気を取り直すように口を開く。

「それで、これからどうするの? ウェネル!」

「このまま、洞窟の奥に向かおう」

『当初のプラン通り、洞窟内でレベルアップですね』

 ああ。そうだ。

 でも、狙いはもう一つある。

『と、言うと?』

 それにボスが洞窟の入口にいるのなら、逆にアレを守っているモンスターは今いないはずだ。

『なるほど! ゴブリンソルジャーを倒した後に調べられる、宝箱ですね!』

 そうだ。ボスを倒した後に『薬草』と一緒に手に入る『鉄の剣』。

 俺の目当ては、それだ。

『レベルの差を、アイテムでも補おうというのですね。流石です、マスター』

 そうと決まれば、善は急げだ。

 ちんたらしていたら、ゴブリンソルジャーが最深部に戻ってきてしまうかもしれない。

「よし、行くぞ、キスティ。目指すは最深部の宝箱だ」

「わかったわ!」

 そう言って、俺達は駆け出してく。

 ジメジメとした洞窟の中を、松明で伸びた二人の影が走っていった。

 その途中、予定通りモンスターとエンカウントする。

 そいつらは当然のようにバグっており、倒したのにモンスターが消滅しないとか、モンスターの眼の前にいるのにエンカウント判定が起動しないとか、持っている得物を逆さまに持って勝手にダメージを受けて死ぬモンスターとか、本当に色んなモンスター(バグ)と接触した。

『ですがそのおかげで、レベルも上がりましたね』

 そうだな。なんとか俺もキスティも、レベル3まで上がったからな。

 そして、丁度目的地にも到着した。

「ここが、キャズムズ洞窟の最深部ね」

 キスティの言葉が、ひときわ広いエリアに響いた。

 その声に揺らされて、天井から雫が地面に落ちてくる。

「それで? ウェネルの言っていた宝箱って、どこにあるわけ?」

「……あれ? おかしいな」

 辺りを見回しても、宝箱が見つからない。

 キョロキョロしながら、お目当ての物を探していく。

 設定では、この辺りに配置されていたはずなんだけど。

「ウェネル。あれじゃないかしら?」

 キスティの言葉に視線を向けると、確かにそこには二つの宝箱の姿があった。

 

 ただし、洞窟の壁にめり込んだ形で。

 

 宝箱もバグってるじゃねーか!

『埋まりバグですね。当たり判定か座標の不具合か、はたまたマップの読み込みエラーか。いずれにせよ、あのままでは中のアイテムを取り出すのは難しいですよ? マスター』

 なら、あのバグを修正するには、俺は何をすればいいんだ?

『宝箱の中のアイテムを、入手する必要があります』

 デッドロック(詰んでる)じゃねーか!

『いえ、まだ方法は残っていますよ、マスター。だって宝箱は、壁にめり込んでいるだけですから――』

 ……掘り出すしかない、って? あれを?

 俺は再び、完全に壁に埋め込まれたような宝箱へ視線を向ける。

『ですが、ここをクリアしないと、村長さんからのおつかいイベントがクリアできませんよ? マスター』

 そうなると、全体のストーリー進行が出来ない、か。

『それよりマスター。ゴブリンソルジャーが戻ってきたようです』

 言われて見れば、確かに最深部の入口に得物の斧をかついだボスモンスターの姿が見える。

 そうか。『デバッグ』はバグっている場所がなんとなくの位置がわかるんだったか。

「キスティ。ゴブリンソルジャーがやって来たみたいだ」

「それじゃあ、奇襲を仕掛けて先手を――」

「だから、駄目だって」

 バグの影響もあるんだろうけれど、随分好戦的なメインヒロインになってしまった。

 キスティの手を引いて、相手に知られないように最深部から抜け出す。

 様子をうかがうも、ゴブリンソルジャーはもうそこから動く気配はなかった。

「でも、どうするの? 宝箱、あのままだと中のものは手に入らないよ?」

「ああ。だから力技になってしまうが、ここは壁を掘って宝箱を手に入れよう」

 そう言うと、キスティはぎょっとした表情を浮かべる。

「えっ、でも最深部には、ゴブリンソルジャーがいるじゃない」

「いや、そっちじゃない。その反対側(・・・)の道から掘るんだ」

 相手が動かないなら、いない場所(・・・・・)からやればいい。

 壁の中に欲しいものが埋まっているのだから、どこからだって掘ってもいいだろう。

「でも、どこから掘ればいいかはわかるの? ウェネル」

「ああ、心配するな」

 なにせ、この世界のマップは全て頭の中に入っている。

「女子には辛い作業になるが、手伝ってもらえるか? キスティ」

「もう、しょうがないわねぇ」

 こうして、俺達は土木作業員みたいな作業に没頭することになった。

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