⑨
しかもこの感じだと、この洞窟もバグりまくってるな?
『リスポーンバグですね。ど、どうしましょう? マスター』
ど、どうしましょうって……。
「でたわね、モンスター! 行くわよ、ウェネル!」
「駄目駄目、絶対駄目!」
「どうしてよ、ウェネル。今まで二人で協力して、モンスターを倒して来たじゃない。大丈夫。確かにちょっと強そうな相手だけど、今までのモンスターとの戦闘経験がある私達なら負けないわ!」
ないから負けちゃうんだよ!
羽交い締めするようにしてキスティをどうにか押し留めながら、俺の頭はフル回転していく。
……『デバッグ』。確かパラメーターの調整機能があったよな? あれを使って、相手を一撃で倒すことは――
『うわぁぁぁ! どうせ私は駄目スキルですよ! どうせ私はポンコツ――』
わかった! わかったから!
それじゃあ、別の方法を考え、ん?
『どうされたんですか? マスター』
逃げれば(・・・・)、いいんじゃないか?
村長の選択肢も、無理やりバッファオーバーフローさせただろ?
本来逃げられないボス戦でも、『逃げる』ボタンを連打して上限を越えさせれば?
『確かに! すぐにマスターに作成頂いたスクリプトを起動させます!』
正常に起動したのか、鎧を着たゴブリンソルジャーの動きが目に見えて変わる。
こちらを追う素振りも見せず、どこかぼんやりと緩慢な動きで天井を見上げていた。
『今なら逃げられます、マスター!』
よし!
「行くぞ、キスティ!」
「ちょっと、何するのよ、ウェネル!」
騒ぐキスティを連れて、俺はキャズムズ洞窟の奥へと向かっていく。
ちなみに、『逃げる』が成功したゴブリンソルジャーと戦っていたらどうなったんだ?
『戦闘が即再開されて、再度スクリプトを起動する前にマスターかキスティさんのヒットポイントがゼロになります』
結局、逃げるのが最適解だった、っていうことか。
「ちょっと、そろそろ放してよ」
「ああ、悪い」
キスティの手を放すと、キスティは不服そうに唇を尖らせる。
「ウェネルのことだから何か理由があるんだろうけど、言ってくれないとわからないわ」
「悪い。でも、心配だったんだ。その、キスティに何かあったら、って」
「ふ、ふーん。そ、そうなんだ。そんなに私のこと、心配だったんだ」
『好感度が爆上がりしているせいで、キスティさんがチョロすぎますね。あ、バグってはいないので安心して下さい、マスター』
別の意味で心配になるけどな。
だが、機嫌は治してくれたようで、髪をいじっていたキスティが気を取り直すように口を開く。
「それで、これからどうするの? ウェネル!」
「このまま、洞窟の奥に向かおう」
『当初のプラン通り、洞窟内でレベルアップですね』
ああ。そうだ。
でも、狙いはもう一つある。
『と、言うと?』
それにボスが洞窟の入口にいるのなら、逆にアレを守っているモンスターは今いないはずだ。
『なるほど! ゴブリンソルジャーを倒した後に調べられる、宝箱ですね!』
そうだ。ボスを倒した後に『薬草』と一緒に手に入る『鉄の剣』。
俺の目当ては、それだ。
『レベルの差を、アイテムでも補おうというのですね。流石です、マスター』
そうと決まれば、善は急げだ。
ちんたらしていたら、ゴブリンソルジャーが最深部に戻ってきてしまうかもしれない。
「よし、行くぞ、キスティ。目指すは最深部の宝箱だ」
「わかったわ!」
そう言って、俺達は駆け出してく。
ジメジメとした洞窟の中を、松明で伸びた二人の影が走っていった。
その途中、予定通りモンスターとエンカウントする。
そいつらは当然のようにバグっており、倒したのにモンスターが消滅しないとか、モンスターの眼の前にいるのにエンカウント判定が起動しないとか、持っている得物を逆さまに持って勝手にダメージを受けて死ぬモンスターとか、本当に色んなモンスター(バグ)と接触した。
『ですがそのおかげで、レベルも上がりましたね』
そうだな。なんとか俺もキスティも、レベル3まで上がったからな。
そして、丁度目的地にも到着した。
「ここが、キャズムズ洞窟の最深部ね」
キスティの言葉が、ひときわ広いエリアに響いた。
その声に揺らされて、天井から雫が地面に落ちてくる。
「それで? ウェネルの言っていた宝箱って、どこにあるわけ?」
「……あれ? おかしいな」
辺りを見回しても、宝箱が見つからない。
キョロキョロしながら、お目当ての物を探していく。
設定では、この辺りに配置されていたはずなんだけど。
「ウェネル。あれじゃないかしら?」
キスティの言葉に視線を向けると、確かにそこには二つの宝箱の姿があった。
ただし、洞窟の壁にめり込んだ形で。
宝箱もバグってるじゃねーか!
『埋まりバグですね。当たり判定か座標の不具合か、はたまたマップの読み込みエラーか。いずれにせよ、あのままでは中のアイテムを取り出すのは難しいですよ? マスター』
なら、あのバグを修正するには、俺は何をすればいいんだ?
『宝箱の中のアイテムを、入手する必要があります』
デッドロック(詰んでる)じゃねーか!
『いえ、まだ方法は残っていますよ、マスター。だって宝箱は、壁にめり込んでいるだけですから――』
……掘り出すしかない、って? あれを?
俺は再び、完全に壁に埋め込まれたような宝箱へ視線を向ける。
『ですが、ここをクリアしないと、村長さんからのおつかいイベントがクリアできませんよ? マスター』
そうなると、全体のストーリー進行が出来ない、か。
『それよりマスター。ゴブリンソルジャーが戻ってきたようです』
言われて見れば、確かに最深部の入口に得物の斧をかついだボスモンスターの姿が見える。
そうか。『デバッグ』はバグっている場所がなんとなくの位置がわかるんだったか。
「キスティ。ゴブリンソルジャーがやって来たみたいだ」
「それじゃあ、奇襲を仕掛けて先手を――」
「だから、駄目だって」
バグの影響もあるんだろうけれど、随分好戦的なメインヒロインになってしまった。
キスティの手を引いて、相手に知られないように最深部から抜け出す。
様子をうかがうも、ゴブリンソルジャーはもうそこから動く気配はなかった。
「でも、どうするの? 宝箱、あのままだと中のものは手に入らないよ?」
「ああ。だから力技になってしまうが、ここは壁を掘って宝箱を手に入れよう」
そう言うと、キスティはぎょっとした表情を浮かべる。
「えっ、でも最深部には、ゴブリンソルジャーがいるじゃない」
「いや、そっちじゃない。その反対側(・・・)の道から掘るんだ」
相手が動かないなら、いない場所(・・・・・)からやればいい。
壁の中に欲しいものが埋まっているのだから、どこからだって掘ってもいいだろう。
「でも、どこから掘ればいいかはわかるの? ウェネル」
「ああ、心配するな」
なにせ、この世界のマップは全て頭の中に入っている。
「女子には辛い作業になるが、手伝ってもらえるか? キスティ」
「もう、しょうがないわねぇ」
こうして、俺達は土木作業員みたいな作業に没頭することになった。
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