社長の急なうえに変な仕様変更に耐えられるよう、拡張性をもたせようとして逆におかしな実装になっているらしい。

 っていうか、Yes、Noの選択肢に拡張性持たせるとかどういうことだよ。

 でも流石に、これを人手で連打するのは現実的じゃないぞ。

『そこは私にお任せ下さい、マスター! ボタン押下ぐらいの単純作業であれば、私の機能でスクリプトを書いて自動実行することが可能となります!』

 その機能があるのに、どうして最初から手動でボタンを押させようとしていたんだ? 『デバッグ』はスクリプトを書けるんだろ?

『……マスター』

 ……貸せ。

 おずおずとウィンドウをノートPCよろしく差し出してきた『デバッグ』の代わりに、自分でスクリプトを書いていく。

 途中まで『デバッグ』が頑張って書いた形跡があり、それをベースに修正した。

『マスター、凄いです! こいつ、動きますっ!』

『デバッグ』のスクリプトの文法が前世のプログラミングでも使われているようなもので、助かった。

 そうでなければ、そもそもスクリプトに何をどう書いたらいいのかわからなかっただろう。

 でも変数を増やすだけだから、ループとそれを抜ける条件さえ設定すれば――

『ごめんなさい、ごめんなさい! そんな簡単な処理すら書けないポンコツスキルでごめんなさいっ!』

 バグってないのにお前がメンヘラ化するのやめてよ、もう。

 なにはともあれ、スクリプトが正常に動いたのか無事『Yes』が選択される。

「おお、行ってくれるか、ウェネル。って、どうした? そんなに疲れた顔をして」

「いえ、ちょっと世界を救うために一悶着あって」

 何言ってんだ? お前、という表情の村長を残して、俺はキスティとともにキャズムズ洞窟へと向かっていく。

 村の外に出ると、いよいよモンスターが現れるフィールドだ。

 広大な緑の大海原が、眼前に広がっている。

 世界の危機がかかっているのに不謹慎かもしれないが、高揚している自分がいた。

 なにせ、自分が作ってきたゲームを実体験出来るのだ。

 チュートリアルを受けるのにかなり時間がかかったが、それでもモンスターの戦闘がどんなものになるのか、楽しみで仕方がない。

「ウェネル、モンスターが出たよ!」

「早速お出ましかっ!」

 剣を抜き、モンスターに向かって構える。

 エンカウントしたモンスターは、定番のスライムだった。

 ぷるぷるぶよぶよしたモンスターが二匹、俺達の行く手に立ちふさがっている。

「キスティ! 俺が前に出るから、魔法で援護を――」

 

 ピピピピピピピピッ!

 

 ……え?

『モンスターのスタックバグを検知しました』

 その言葉通りスライム二匹がフリーズして固まっている(・・・・・・)。

「ウェネル? どうしたの? ボーっとしてたらスライムとはいえ、大怪我するよ?」

「いや、しようがないんだけど」

「もう! 何言ってるの? いつも言ってるでしょ? 油断大敵だって!」

『確かにウェネルは、ズボラ設定でしたね』

 だからって動かない相手に怪我のしようがないだろ。

「そ、それとも、また私のヒールを期待しているの? もう、本当にウェネルったら、しょうがないんだから」

「……いや、わかった。ちゃんと倒そう」

 ワクワクしていた初の戦闘は、まさかの無抵抗の相手を一方的にボコるという後味の悪いものになった。

『ですが初戦闘という意味では、キスティさんとの戦闘が該当するのではないでしょうか?』

 メインヒロインとの刃傷沙汰を最初の戦闘だとは思いたくないし、流石にうちの社長でもやらないよ。

 そんなこんなで、せっかくの軟体シミュレーションの結果表現されていたスライムのぷるぷるぶよぶよが無意味になったモンスター二匹に、遠慮なく剣を突き立てていく。

 ……流石に、設定通りに核を壊せばスライムは倒せるよな?

 

 ピピピピピピピピッ!

 

 え! 倒せないの?

『いえ、倒せたのですがバグで経験値が入りませんでした』

 そっちの方かよ!

『スライムを倒してスタックバグは直ったのですが、経験値バグは周辺のモンスターで起こっているバグを修正しないと直らないようです』

 マジかよ! つまりそれって、このバグを修正するまでレベルアップ出来ないってこと?

『残念ながらそうなります、マスター』

「やったわね、ウェネル! さぁ、この調子でどんどんモンスターを倒して、キャズムズ洞窟に向かうわよ!」

「あ、あぁ、そうだな」

 経験値が入らないことを知らないキスティが、このタイミングでやる気を出して先に進んでいく。

 実入りがないということで、がくっ、と来てしまったが、元気な彼女のおかげでそこまで気落ちせずにすんだ。

『いずれにせよ、他のバグも直さないといけませんからね』

 ああ、そうだな。キスティに続こう。

 その後俺達は、カラーパレットが正しく読み込まれず交通事故直後ですか? と言いたくなるグロいゴブリンを倒したり、攻撃モーションのエフェクトがバグって表示され続けるホーンラビットを倒したりしながら、目的地に向かっていく。

『マスター。経験値が入らないバグが修正されたことが確認できました』

 なるほど。それについては、朗報だな。

『では、悲報があるのですか?』

「ようやくキャズムズ洞窟に到着したわね、ウェネル!」

「そ、そうだな」

 経験値が全く入らず、俺達は相変わらずレベル1のまま(・・・・・・・)だけどな。

『マスター。いかがしましょう? 洞窟に入らず、戻って経験値稼ぎをしにモンスターを倒しに向かいますか?』

 普通のゲームならそうなんだが――

「随分苦労したけど、後もう一踏ん張りね! さぁ、早くディータエルさんに頼まれた薬草を取りに行きましょう?」

 ……キスティの中では、普通に経験を積んできた感じになってるんだよなぁ。

 バグってて経験値が入らなかった、と言えるわけがないし、ここまで来て洞窟に入らない言い訳が思いつかないぞ。

『ですが、マスター。キャズムズ洞窟のボスのゴブリンソルジャーとの戦闘は、レベル5が推奨されています』

 わかってるよ。でも、逆に考えればどうだ?

 ボス戦は、洞窟の最深部。それまでにレベル5に上がっていれば、何も問題はない。

『なるほど。洞窟の外ではなく、中でレベル上げをするわけですね』

 その分モンスターのレベルも高くなるが、俺はウェネルのトラップスキルならレベル1でも使うことが出来る。

 なら、十分戦えるはずだ。

『流石です、マスター!』

「よし、それじゃ行くか、キスティ」

「ええ、行きましょう!」

 そう言って、キャズムズ洞窟の中に足を踏み入れると――

 

 ピピピピピピピピッ!

 ピピピピピピピピッ!

 ピピピピピピピピッ!

 

「ギャァァァアアアッ!」

 いきなりゴブリンソルジャー(ボスモンスター)がいるじゃねーか!

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