⑩
宝箱が埋まっている場所に一番近い通りまで移動して、そこからは剣と杖で地道に壁をガシガシと掘っていく。
『こういう時に、壁抜けバグが発生してくれると楽なんですが』
それはそれで、この世界のバグが増える結果になるから歓迎は出来ないんだぞ?
ひたすら無心で掘っていると、額に汗も滲んできた。
随分前に二人して上着を脱ぎ、全身が汗びっしょりになった頃合いで、カツン、と甲高い音が聞こえる。
「ウェネル。これって」
「ついに宝箱まで届いたんだ!」
「あともう一踏ん張りね!」
さらに掘り進めた結果、ついに宝箱を壁から取り出すことが出来た。
「やったわね、ウェネル!」
「これもキスティに協力してもらったおかげだよ」
ハイタッチした後、二人して地面に寝転がる。
「あぁ、もう手痛い。私、動けないわ」
「それは俺も同じだよ」
「もう動けないから、帰りはおぶって帰って」
「いや、そこはヒールを使えばいいだろ」
「えへへっ。やーだ」
そう言うとキスティが転がって、俺の上に乗ってくる。
「おい、重いって」
「なんだと? 乙女に向かって失礼な」
「いや、モンスターが出てくるかもしれないし」
「んー、もう少しこのままがいいなー」
『お楽しみ中申し訳ないのですが、マスター』
いつもよりアップでウィンドウが表示され、ちょっと驚く。
いや、別に楽しんでたわけじゃないぞ? 本当に疲労で動けなく――
『こちら側から穴を掘る時間があったのなら洞窟内のモンスターを倒してレベルを5上げた後、ゴブリンソルジャーを倒してからゆっくり最深部側から穴を掘った方が時間短縮になったのではないでしょうか?』
……。
……それ、いつ気付いたの?
『マスターがキスティさんと「暑ぃなぁ」「それじゃあ私、上着脱いじゃお」「じゃあ、俺も」「ちょっと、ウェネル。汗飛ばさないでよ」「いや、そう言いながらお前もするなよ!」とキャッキャウフフしていたころです』
だいぶ前じゃん!
言ってよ! 気づいた時に言ってくれたらよかったのにっ!
『いえ、マスターがそういう趣味なのかと思いまして』
どういう趣味に見えたの?
『……』
何か言ってよ!
『マスターはもう少し、女心を理解する努力をすべきかと』
いや、スキルのお前が女心とか、女だったわお前!
「ウェネル? 誰(・)と話しているの?」
「っ! ここにいるのは俺達だけだぞ、キスティ」
「あれ? でも今、ウェネルが他の女とイチャイチャして――」
「ほ、ほら、もういいだろ? そろそろ宝箱開けようぜ!」
何故だろう? 壁を掘っていた時よりも嫌な汗をかいている気がする。
大量に滲み出てきた冷や汗を拭いながら宝箱を開けると、その中にはお目当ての『鉄の剣』、そしておつかいクエストで依頼された『薬草』が入っていた。
「ねぇ、ウェネル。ディータエルさんからお願いされていた薬草も手に入ったし、もう村に戻ってもいいんじゃないかしら?」
「いや、最深部のモンスターは倒さないと駄目だ。あいつがこの洞窟から出て、マンティス村に向かうかも知れないからな」
と、いうのはただの建前。
本当はゲームのシナリオを進めるうえで重要なキャラ、後に『ユグドラシルフロンティア』で最初に仲間になるキャラクターが、ゴブリンソルジャーを倒した後に登場するのだ。
『そのキャラも女性なんですけどね』
それは俺のせいじゃないでしょ!
「と、とにかく、ゴブリンソルジャーは見過ごすことはできない」
「わかったわ。それじゃあ、さっさと倒しちゃいましょう」
そう言って俺達は、最深部へと向かう。
目的地に辿り着くと、ゴブリンソルジャーがシナリオ通りにこちらを威嚇してきた。
『通常であれば、何でゴブリンソルジャーがキャズムズ洞窟に! と驚くのですよね』
出落ち感ある登場から今まで何度も見てるから、新鮮さの欠片もないな。
「来るよ、ウェネル!」
キスティの言葉通り、ボスモンスターが雄叫びを上げながらこちらに襲いかかってくる。
その進行をさせないように、俺は前に出た。
ゴブリンソルジャーが手にする斧と俺の『鉄の剣』がぶつかり、甲高い音と火花を散らす。
……おお、初めてRPGっぽい戦いをしている!
「ウェネル!」
キスティが目眩ましとして、ライトの魔法を使う。
突然現れた閃光に、たまらずゴブリンソルジャーは手をかざした。
……今だ!
キスティが作ってくれた隙を見逃さず、俺は袈裟懸けに『鉄の剣』を振り下ろす。
するとその剣は、やすやすと相手の体を鎧ごと斬り裂いた。
『ゴブリンソルジャーの鎧の耐久度はそこまで高くないとはいえ、一刀両断とは流石ですね』
俺の初期装備の『ただの剣』じゃ、こうはいかないからな。
『ゴブリンソルジャーを倒したことで、キャズムズ洞窟に存在していたバグは、全て修正出来たことを確認しました』
そいつは何より。
「やったね、ウェネル!」
嬉しそうに笑うキスティが、こちらに駆け寄ってくる。
「一撃なんて、凄いじゃない」
「いや、俺じゃなくて『鉄の剣』が凄いんだよ」
「それじゃあ、頑張って穴掘りしたかいがあったね」
「そうだな」
「じゃあ、それに協力した私をもっと褒めてもいいんじゃないの?」
「お前なぁ」
『マスター』
そのメッセージが、こちらを咎めているものではないことを、俺は理解していた。
……あいつ(・・・)がやって来るのは、ゴブリンソルジャーを倒してすぐだからな。
顔を上げれば、その相手の姿が見える。
それに気付いたのか、キスティは俺の背中に隠れるようにしてこちらの裾を握った。
「ウェネル。あの人って」
「心配するな。大丈夫だ」
そう言いながらも、キスティがその相手を警戒する気持ちもわかる。
突然鎧姿の、しかも顔を隠す兜を被った相手が近づいてきたら、誰だって警戒するだろう。
でも、あのキャラクター、フェリスが顔を隠しているのは、義理堅い設定に基づいた理由があるのだ。
その理由とは――
ピピピピピピピピッ!
『マスター。フェリスさん(・・・・・・)から、バグを検知しました』
は? 味方になるキャラだろ? そんな重要キャラにバグがあったら、これからのストーリーはどうなるんだ?
「一足、遅かったようだな」
フェリスはそう言って、俺達が倒したゴブリンソルジャーへ顔を向ける。
「あ、あの。なんなんですか? あなたは」
ここまでは、シナリオ通りの展開だ。
通常のストーリーでも、警戒するキスティにフェリスが一礼し、警戒心を解くために自己紹介をする。
そして、その通りの展開が繰り広げた。
「ああ、怖がらせてすまない。僕(・)の名前は、フェリス・ハーニルス。実は、親の仇を追っていてね」
「それじゃあ、このモンスターが、フェリスさんの仇なんですか?」
「……いや、どうやら違うらしい。親の遺体には、斧による負傷は見当たらなかったからね」
ゴブリンソルジャーの死体のそばにしゃがみ込むフェリスを見ながら、俺は混乱する。
『マスター。フェリスさんの一人称の設定は――』
僕じゃなく、私(・)のはずだ。
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