②
「き、キスティ!」
転生前までバグ取りをしていたキャラが目の前に現れて、慌てふためく。
キスティはマンティス村に暮らす、ウェネルの幼馴染だ。
二人はこの村で、何でも屋を営んでいる。
と言っても、やることは主に力仕事が中心で、モンスターの捕獲や退治に、盗賊を追い払ったりとやっていることは冒険者とほとんど変わらない。
では何故何でも屋だなんて名乗っているのかというと、そこに村の相談事や困りごとの解決なんかも含まれているからだ。
そしてズボラでよく寝坊をするウェネルを幼馴染のキスティが起こしに来るのが日課になっている、のだが――
……そ、それがよりにもよって、俺が転生してきたタイミングでやって来るだなんて。
混乱する俺を見て、キスティは嘆息した。
「何よ。起きてるのならノックした時に答えてよね」
どうやら、エターナルエンシェントドラゴンに気を取られて、彼女が扉を叩いた音を聞き逃していたらしい。
しかし、ベッドの脇までやって来るキスティを見ても未だに信じられない。
あれだけ必死にバグ取りをする必要があった彼女が滑らかに動いているだけで、ちょっと感動ものだった。
「ねぇ、大丈夫? ボーッとして」
呆けたように見つめていた俺へ、キスティが心配そうに顔を近づけてくる。
無造作におでこをくっつけてくる彼女から、俺は慌てて距離を取った。
「ちょ、ちょっと! 何するんだよ、急に」
「何って、熱を測ろうとしているだけじゃない。子供の頃から、いつもやっているでしょ?」
「そ、それは確かに、そういう設定だったけど……」
「何よ、設定って。あ、もしかして」
そう言うとキスティは、にししっ、と忍び笑いを漏らす。
「ひょっとしてウェネル、照れてるわけ?」
「あ、当たり前だろ! 可愛い子に顔を近づけられたら、誰だってこうなるよ」
……あ、しまった。
本来のウェネルはいわゆる鈍感系な主人公で、こんなにストレートに相手を褒めたりしない。
……マズいな。ゲームのキャラ設定と違う反応をして、キスティに不信感を持たれたら面倒なことになるかもしれないぞ?
そう思いながら、相手の顔をうかがうと――
「ちょ、か、可愛いって、そんなっ!」
……あ、これ、大丈夫なやつだ。
ウェネルに褒められ慣れていなかったのが逆に功を奏して、キスティは俺に違和感を覚える余裕がないらしい。
すぐ手が出るところもあるが、彼女には母親が趣味の押し花で作った小物を大切にしているような可愛らしい一面(設定)もあるのだ。
ホッと一息吐こうとしたところで、顔を真っ赤にしたキスティがポカポカとこちらを叩いてくる。
「な、何よ、何よ! 風邪を引いたのかもって心配したのに、私のことからかってっ!」
「いや、別にからかっているわけじゃないから!」
「嘘よ! うろたえる私を見て、面白がっているんでしょ!」
「違うって。ちょ、ちょっと!」
癇癪を起こしたキスティと揉み合いになり、彼女が上になる形で二人してベッドに横たわる。
キスティの柔らかい髪がこちらの鼻先を撫で、鼻腔に甘い香りが漂った。
「ご、ごめんなさい」
「い、いや、俺の方こそ」
キスティは先程より顔を赤く染め、こちらをまたがるように体を起こした。
そして両手をうちわのようにして、パタパタと顔を仰ぐ。
「な、なんだか、今日は朝から暑いわね。って、窓が閉まっているじゃない。暑いから窓開けるわね? ウェネル」
「あ、ああ、わかった、ってちょっと待てっ!」
そう言った時には既に遅く、キスティが窓のカーテンを開けている(・・・・・・・・・・)。
そしてその瞬間、窓いっぱいにエターナルエンシェントドラゴンの目玉がドアップで映り込んだ。
ラストダンジョンの超強力なモンスターと目を合わせたキスティは、たっぷり三秒間フリーズした後――
「きゅぅ……」
「キスティ!」
本来この部屋の窓から見えるはずのないものを見た幼馴染が、卒倒して後頭部から床に倒れる。
既(すんで)の所でキスティの頭を抱えることに成功するも、彼女は目を回していて――
ピピピピピピピピッ!
……っ! また、この音か。
辺りを見回すも、そんな音を発するようなものは見当たらない。
そもそも、マンティス村にそんなアラーム音が鳴るようなものはなかったはずだ。
一体何なんだ? と首をかしげる俺の眼前に、突然四角いウィンドウ(・・・・・)が表示される。
……こ、今度はなんだよ、一体?
『おはようございます。マスター』
ウィンドウにメッセージが表示され、俺は混乱する。
そんなこちらを無視するように、ウィンドウには次々にメッセージが書き込まれていった。
『マスターがバグとの接触回数が一定値に達したので、ウィンドウの表示機能が解除(アンロック)されました。これでようやく、私(わたくし)はマスターとの意思疎通が可能となったのです』
ひょっとして、マスターって俺のこと?
『その通りです、マスター。まずは、マスターのステータスウィンドウをご覧ください』
そう言われて、ウィンドウを確認していく。
剣を得物とするウェネルのレベル1のパラメーターが並んでいるが、そのスキル欄に見慣れない文字が記載されていた。
『スキル:デバッグ』
……は? なんだ? これ。
こんなスキル、ウェネルが習得するなんて設定はなかったはずだ。
それどころか、『ユグドラシルフロンティア』というゲームにおいて、こんなスキルが存在していたという記憶がない。
『こちらは、マスター固有のスキル(・・・・・・・・・・)となります』
俺の?
『ウィンドウを押下して、詳細をご確認ください』
素直に従い、『デバッグ』を人差し指で押す。
すると、ウィンドウにスキルの説明が現れた。
『スキル:デバッグ
ゲーム内で発生したバグを検知し、通知する。
それに加えて、スキル保有者に検知したバグの修正方法を教える。
またスキル保有者の行動が、バグの修正に必要な手順に変換される仕様になっている。
そのためスキル保有者の振る舞いなど定められた手順を踏むことによって、バグを修正することが可能となる。
ゲーム内で発生したバグの修正は、本スキルの保有者以外修正することは出来ない。
このスキルは、スキル保有者のレベルだけでなく、バグの接触回数や修正回数で成長する。
※:注意点
1:バグは放置していると周りにバグを増殖させる性質がある
2:バグの修正に失敗すると、周りにバグを増殖させる』
なるほど。ウィンドウに表示されているメッセージは、この『デバッグ』のスキルによるものなのか。
『その通りです、マスター。マスターが目覚める前と、そしてつい先程別のバグも検知いたしました』
俺が目覚める前ということは、最初に検知したバグはウェネルの部屋とラストダンジョンがつながったバグだろう。
キスティが気絶するきっかけとなったエターナルエンシェントドラゴンが今も窓の外にいるということは、まだそのバグは修正されていないということだ。
『流石、デバッガーをされていただけあってスキルへの理解が早くて助かります。マスター』
スキルの説明にも、『定められた手順を踏むこと』って書かれているしな。
ここに書かれている内容は、一種の仕様書だ。
この内容通りに実装されているか否かを確認する仕事だった俺としては、こういう一つ一つの条件も見過ごせない。
……って、それはいいんだよ。それより、注意点の一つ目(・・・)! まさか、キスティが倒れた時に鳴ったアラーム音って――
「んっ」
「キスティ? 気がついたのか?」
気を失っていた彼女が、目を覚ます。
焦点の合わない瞳が宛もなく宙を眺め、そして俺の顔に焦点を合わせた、その瞬間――
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