第3話

春の体育館って、なんか空気が違うんだよね。

春の大会が終わって、全国大会の余韻に浸ってる暇もなく、新しい風が吹き込んでくる。

そう――新入生。

部活の精神的な面で言うとこういう時期が一番疲れるんだよなぁって身に染みて思った。

だって、入部希望者の対応って、地味に神経使うんだよ。

笑顔で「ようこそ!」って言いながら、内心では「やる気ある?続けられる?」って査定してるんだから。

あとは、足や腕の筋肉のつき具合や、身長、体型、顔から汲み取れる性格などなど。

実はいろんなことを見てこの子はこうなのかなとか勝手に考えてる。

……まあ、そんなこと、本人には絶対言わないけど。


「今年は多いなぁ」

体育館の隅で、真希音さんが名簿を見ながらぼやく。

「去年の倍くらいじゃないですか?」

「全国大会効果だね」

そう言いながら、私は新入生の列を眺める。

制服の袖をまくって、緊張した顔で並んでる子たち。

あーあの子絶対スカート折ってんなってスカート丈のギャル女子も複数名。苦手なタイプだ。三年生と絡まれると後々面倒くさいな。

その中に――一人、やけに堂々とした子がいた。

めっちゃ姿勢が良くて、笑顔で、視線がまっすぐで、なんか刺さる感じ。

そしてなんとしても、顔を見ても性格がわからない。

うっすらと恐怖心を覚えたが、初対面の人に恐怖心は流石に可哀想だと思ったし、なんとしてもこれから私の後輩になるわけだからと思ってその気持ちを押し殺した。

名前?まだ知らない。

でも、後で知ることになる。

その子の名前は――流羽。


「副部長、自己紹介お願いします」

真希音さんに促されて、私は前に出る。

「えーっと、副部長の阿玖陽です。いろんな人から変人ってよく言われますけど、気にしないでください!」

笑いが起きる。とりあいず安堵安堵安堵。

こういう時は、笑わせた方が勝ち。

最初の印象がプラスだと幸先良いもんね。

「バスケは楽しいよ。楽しくなかったら、私が楽しくしてあげる!よろしくお願いします!」

そう言って、私は笑った。

大量の拍手が起こる。あらあら、いい感じじゃないのー!

その瞬間、視線を感じた。

さっきの子――流羽。

笑ってる。でも、なんか普通じゃない笑顔。

……気のせいかな。

そう思って、私は視線を外した。


「一年生、パス練やってみようか!」

真希音さんの声で、体育館がさらに賑やかになる。

「はい!」って元気な声が響く。

その横で、三年生の先輩たちは「懐かしいなぁ」って笑ってる。

ちょっとくらい手伝いできないの!?とは思うが年功序列を侮ってはいけない。

ボッコボコのめったぎりで千切りにされてしまうからねワハハハハ。

「阿玖陽、あの子たち、フォーム見てあげて」

「了解です」

私は一年生の列に歩いていく。

最初の指導は基礎を固める重要なもの!

用心して取り掛からなければならないと心に誓い気合を入れる。

「ボールはこう持つ。指先で回転を感じて」

実際に何回か飛ばしてみる。

すると、ある一人の一年生から、

「え、回転って感じるんですか?」

と聞かれた。これはいつもの名台詞ですね!

「感じるんだよ。物理だよ、物理!」

笑いが起きる。

こういう瞬間は、ちょっと好きだ。

でも、視線を感じる。

また、流羽。

パス練しながら、こっちを見てる。

……いや、気のせいだよね。

まだ一年生で新しい中学校っていう環境に慣れてないだけかもね。

そう思って、私は指導に集中した。


練習体験が終わって、体育館を片付けてる時。

「阿玖陽先輩」

背後から声をかけられた。

振り返ると、流羽が立っていた。

「今日の練習、すごく楽しかったです」

「そう?よかった」

「……先輩って、誰と一番仲良いんですか?」

一瞬、意味がわからなかった。

「え?」

シンプルに、何故?

「部活の中で。誰が一番、先輩のことわかってるんだろうなって」

笑顔で言うその言葉が、妙に重かった。

でも、私は笑って返した。

「さあ、どうだろうね。私変な人だからみんなと仲良くできるからなぁ。優劣付け難い感じかも」

流羽は「ふふ、そうですよね」と笑った。

その笑顔が、やけに印象に残った。

好印象でも悪印象でもない、プラスマイナスゼロな印象。

ただの後輩の笑顔。そう思ってた。

でも、あの時の笑顔は、たぶんもう普通じゃなかったんだ。


この話、笑えると思う?

私は笑えないよ。

だって、この後――マンツーマン・ディフェンスが始まるんだから。

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