一月八日【モクレン】

15

 花言葉は「自然への愛」「持続する愛」



16

「こら、カエルム! こんな遠くまで来ちゃダメってお父様に言われてるでしょ!」

「全く……お前は鍛錬もせずに、遊んでばかり……」



 なんだこれ。


 姉貴と兄貴?


 それに……あれは。



「だって、めずらしいいろのうさぎがはしっていったから……」



 俺……か?


 てことは、これは夢?



「カエルム、お姉ちゃんと約束してたでしょ? 今日は一緒にお勉強するって」



 いや、これは俺の記憶か?



 そういえば、昔、まだ俺が王宮で暮らしてた頃、こうしてよく怒られてたな。

 あの頃は、王族の勤めってのがよくわかんねえまま、ただ面倒って嫌がってたっけ。


 勉強も鍛錬も。

 

 俺には才能がなかった。


 物覚えは悪いし、要領も良くねえ。


 怒鳴られるだけの時間を好きになる方が無理って話だ。



「ふん、見つかったならこいつのことは、ロマに任せるよ。俺は先に戻る」

「うん、お兄様も鍛錬頑張ってね」



 兄貴は、いつもこうだったな。

 できない癖に逃げてばかりの俺のことが、気に入らなかったんだろう。


 兄貴は王宮に帰って、姉貴だけが俺の隣に立っていた。



「ねえ、カエルム。お勉強や鍛錬は楽しくない?」

「だってさ、みんなおこってくるんだよ? おれだってがんばってるのにさ」



 姉貴は優しく笑ってる。


 こんな顔して、俺のそばにいてくれてたのか。



「うんうん、カエルムが頑張ってるの、お姉ちゃんは見てるよ」



 そうやって、俺の頭を撫でてくれることもあったんだな。


 なんで、俺は忘れてたんだろうな……。



 姉貴は昔から頭が良くて、手先も器用だった。

 言われたことはすぐにできるようになるし、それでいてよく笑う。


 嫌われ者の俺とは正反対だ。


 でも、そうだ。


 俺は、姉貴が俺に向けてくれていた優しさが好きだった。



「ほら、これあげる」



 ははっ、姉貴らしい。

 あの頃の俺が、欲しいもんをちゃんと分かってたんだな。



「これはね、お花でできた王冠よ。お城の皆がカエルムのことを認めてくれるように、お姉ちゃんも頑張るから、ね? 一緒に頑張りましょ?」

「……これ、いいにおい」



 あの花は、確かモクレンだったかな。

 姉貴が好きな花だった。



「カエルムもこの花が好きなの? お姉ちゃんとお揃いだね。この花はモクレンって言ってね、素敵な花言葉があるの……自然への愛と持続する愛……素敵でしょ?」

「しぜんへのあい? あと……じぞくするあい?」




 頭に乗っかった花冠を撫でながら、幼い俺は首をかしげる。

 そりゃ、あんなガキに言っても伝わらねえよな。



 それでも、姉貴は俺のそばでいつもいろんな話を聞かせてくれてたんだな。


 

「ふふっ、カエルムにはまだ難しかったかな? でもね、いつかわかるよ」

「そうなの?」



 姉貴の手が、また優しく俺の頭を撫でる。



「そうよ。だってカエルムはお姉ちゃんの誇りだもん」

「……」



 姉貴の……誇り。


 俺が……姉貴にとって……。




 ああ、なんで逃げちまったんだろうな。

 王宮を出たあの日、俺は姉貴たちになんて言ったっけな。


 いや、姉貴たちはなんて言ってたっけ。



––––そうだ、忘れるわけがねえ。



「生きて、カエルム。何があっても、何を失っても。私たちのことを忘れる日が来ても……カエルムはいつまでも私の大切で可愛い弟」



 姉貴たちはいつからか、俺に近づかなかくなった。

 

 それをただ被害者面して、好き勝手憎んで……。


 守られてることに気づかねえまま、俺は逃げた。



 馬鹿……だったんだな。


 なあ、姉貴。

 

 ごめん……。



 


 眩しい日差しが、瞼を照らしてる。


 どうやら夢に浸る時間は終わったみたいだな。


 俺の故郷は、俺の家族は……。



「おーい! カエルムー! あ、いたいた。こんなとこで昼寝してたのかよ」

「もうレヴィ! いきなり走らないで!」



 今の俺は一人じゃねえ。


 帰る場所は失ったかもしれねえけど、今の俺には仲間がいる。


 それに、姉貴や兄貴に託してもらったもんがある。



 だから、俺が姉貴たちの想いも願いも、誇りも全部……。


 まとめて背負って、未来に連れてってやるから。


 

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