一月七日【ベンジャミン】

13

 花言葉は「信頼」「愛」「永遠の愛」



14

 窓辺に置かれたベンジャミンは、ほとんど成長しないように見えた。

 葉の数も、枝の角度も、昨日と今日で違いはない。

 それでも、確かに生きている。



 彼女はその前に立ち、しばらく動かずにいた。

 午後の光がレースのカーテンを透かし、部屋の輪郭を曖昧にする。

 結婚して三年目の部屋は、まだ「暮らし」と呼ぶには静かすぎた。



 夫は不在だった。

 仕事だとだけ告げて、朝早くに出て行った。

 彼女はそれを疑わない。

 疑わないことに、慣れてしまった自分を、少しだけ恐れていた。



 信頼とは何だろう。

 確かめないことだろうか。

 問いを持たないことだろうか。



 ベンジャミンの鉢に触れる。

 土は乾ききっていない。

 けれど、十分に潤っているとも言えなかった。



 彼女は水を注ぐ。

 多すぎないよう、慎重に。

 根が腐らぬように。



 結婚も、これとよく似ている。

 与えすぎても、与えなさすぎても、壊れてしまう。

 適切な距離と、沈黙と、習慣。



 夜になり、夫が帰ってくる。

 短い会話。

 食卓に並ぶ音。

 互いの存在を確かめるための、最低限のやり取り。



 愛しているか、と問われれば、彼女は頷くだろう。

 だが、それは情熱ではなく、選択だった。



 ベンジャミンは、何も語らない。

 それでも、切られた枝の跡から、新しい葉を伸ばす。

 傷つきながら、形を変えながら。



 永遠とは、止まることではない。

 変わり続けることを、受け入れることだ。



 彼女は灯りを落とし、暗がりの中で鉢の影を見る。

 明日も同じ朝が来る。

 同じ光が差し、同じ葉が揺れる。



 それでいい、と彼女は思う。

 大きな幸福は要らない。

 壊れずに、ここに在り続けること。


 ベンジャミンは、何も約束しない。

 だからこそ、信じるしかないのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る