一月七日【ベンジャミン】
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花言葉は「信頼」「愛」「永遠の愛」
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窓辺に置かれたベンジャミンは、ほとんど成長しないように見えた。
葉の数も、枝の角度も、昨日と今日で違いはない。
それでも、確かに生きている。
彼女はその前に立ち、しばらく動かずにいた。
午後の光がレースのカーテンを透かし、部屋の輪郭を曖昧にする。
結婚して三年目の部屋は、まだ「暮らし」と呼ぶには静かすぎた。
夫は不在だった。
仕事だとだけ告げて、朝早くに出て行った。
彼女はそれを疑わない。
疑わないことに、慣れてしまった自分を、少しだけ恐れていた。
信頼とは何だろう。
確かめないことだろうか。
問いを持たないことだろうか。
ベンジャミンの鉢に触れる。
土は乾ききっていない。
けれど、十分に潤っているとも言えなかった。
彼女は水を注ぐ。
多すぎないよう、慎重に。
根が腐らぬように。
結婚も、これとよく似ている。
与えすぎても、与えなさすぎても、壊れてしまう。
適切な距離と、沈黙と、習慣。
夜になり、夫が帰ってくる。
短い会話。
食卓に並ぶ音。
互いの存在を確かめるための、最低限のやり取り。
愛しているか、と問われれば、彼女は頷くだろう。
だが、それは情熱ではなく、選択だった。
ベンジャミンは、何も語らない。
それでも、切られた枝の跡から、新しい葉を伸ばす。
傷つきながら、形を変えながら。
永遠とは、止まることではない。
変わり続けることを、受け入れることだ。
彼女は灯りを落とし、暗がりの中で鉢の影を見る。
明日も同じ朝が来る。
同じ光が差し、同じ葉が揺れる。
それでいい、と彼女は思う。
大きな幸福は要らない。
壊れずに、ここに在り続けること。
ベンジャミンは、何も約束しない。
だからこそ、信じるしかないのだった。
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