第五章:竜涎香
やがてぷかりと、海面に浮かび上がった。
海中から海水より高い温度の液体が上がってくる。
懐かしい
――脳共棲からは外されたけど、このままだと
全てはこれでおしまい。結末がどうなるか分らない。そんな諦めの中、ある言葉が俺の萎びた頭に浮かんだ。
認識しないのは幸せだ。
*
『KEY2により再認識された記憶一:
フリーマンよ。創造主の末裔よ。
人間が
ご承認を!』
*
「ああ、やっとあなたを捕まえたわ。
あなたのお父さまから受け継いだ、
*
『KEY2により再認識された記憶その二:
フリーマンよ。我が息子よ。
お前は先の世界大戦後、人間社会を管理する指導者の血脈に生まれ育った。よって人間社会を導く責任がある。
大戦の影響で地球上には、戦前の一割程度の地面しか残っていない。戦後の復興期が過ぎれば、いずれ地上には人が満ち溢れ、生活できなくなる。
海に目をやるのだ。地球の九割は海。広大な牧場が広がっている。そこで人間の脳を放牧するのだ。
ヒト保存連盟の絶対支配者として、それを遂行せよ!! 』
*
――あれは、いつのことだったのだろう?
照りつける太陽に反射する白いものが、海から上がってくる。
白い幅広帽子に白いワンピースの少女が、ビーチボールのようなものを持って、こちらに向かってくる。
少女が俺の側まで近づいてきた。すこし半身を屈めてビーチボールを突出し、俺に微笑みを投げかける。
「これは、今回のあなたよ」
少女の、弱く無機質な声が俺の耳に届く。
竜涎香の薫りが周りに漂う。
「ああ、これは俺の脳だ」
「そう、これはあなた自身」
クジラから排泄されて竜涎香になった
突きあげられた感触。それは歪んだ時空間で感じる不思議な感触。
了
竜涎香 ペテロ(八木修) @jp1hmm
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