第四章:端島
ガツン。
脳を震わせる血液の振動と共に、自我が蘇る。
『マリアが、私の一番弱いところに噛み付いてきたわ』
突然、マルタが直接語りかけてきた。
「それは、どこ? 」
おもわず俺は問いかけてしまった。
『レディーに、恥ずかしい言葉を使わせるの? ダンディーではないわね』
「……」
『内臓の出口よ』
「レディーは、即物的な表現を好むのかね? 」
こんな事態なのに、軽口を叩ける俺は、立派なダンディーなのだろう。
気まずい沈黙を破るために、俺は話題を本題に戻した。
「なぜマリアが
『……あなたの脳だけに酸素を与えて集中力を取り戻してあげたのに、あなた、まだ自分の指命を全て再認識していないの? 呆れた。
……
エラーコードの後ろに何か書いてあったでしょう。それを念じてみて』
――認識できないのは可愛そうだ
言われたとおりにすると、認識野空間が広がった。まるでアドレスの最上位ビットに、初めてアクセスできたように。
『ヒト再生連合:指令
・脳共棲牧場で惰眠を貪っている
・フリーマンはマルタの内側から共棲している
・マリアはマルタの外側から攻撃することで、ヒトの身体を保存している端島へとマルタを追い立てる。
・端島にたどり着いたら、我々、ヒト再生連合の別働隊がマルタの中から
――これが
『再認識したかしら。
今回もあなた達、ヒト再生連合に勝利は訪れない。あなたの覚醒が遅れたことで、
――ぅん? 俺が悪いのか?!
『覚醒が遅れたのは、血液も、栄養素も、ホルモン物質も、私と共有したことにより、わたしとの同化が進んだから。もう、あなたは私であり、私はあなたでもある』
突然、クジラ全体に鈍い振動が伝わる。
マルタの意識はそちらに向かったようで、マルタの言葉が途絶えてしまう。話をもっと続けなければ……
「なぜ鍵まで掛けた情報を、俺に再認識させる? 」 ああ、カッコ悪い質問だ。
少しの沈黙のあと、マルタの意志が熱い血液となって俺に届いた。
『あなただけは、助けたいと思っているの』
マルタの思わぬ言葉に、
「マルタ、君はヒト保存連盟側なのに、ヒト再生連合側の俺を助けようとするのだ? 助けてくれることは嬉しいが、何故? 」 さらにカッコ悪さの上塗だ。
『あなたの指命を遂げさせてあげたい、という想いが私の中にある……
あなたがヒト保存連盟にいたとき、あなたと恋人だった世界の私が……
その世界でのあなたは、
だからこの世界のあなたも、ここで終わってはいけない……
脳共棲している
今からあなたの脳を、盲腸から腸に送り込んで体外に排出する。
もうすぐ端島よ。元気でね。さようなら』
俺は腸内に送り込まれたあと、
俺は、脳のまま海中に放出されてしまった。
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