第十二章 紅葉舞い時、君に逢う

幾星霜が流れ、箱根の山は少し姿を変えたが、紅葉林だけは永遠に変わらず、燃えるような紅を湛えている。


ある年の十月、山道を上ってきた少年がいた。浅い茶色の髪に日差しがかかり、手には祖父から受け継いだ紅葉饅頭を握り締めていて、少し緊張しながら紅葉林の奥に進んでいった。少年の名前は浅羽蓮——前世の私と同じ名前で、浅羽家の末裔であり、小さい時から祖父が話す紅葉林と精霊の伝説を聞き、心の中にずっと憧れを抱いていた。


林の奥の紅葉の山で、少年は少女に出会った。ワインレッドの杢編みセーター、薄いグレーの格子スカート、栗色のカールが紅葉に映え、翡翠のような緑の瞳が少年を見つめて、柔らかく笑っていた。眉間には淡い紅い印があり、風が吹いて紅葉が舞い落ち、彼女の髪に添えられた。


少年は慌てて立ち止まり、手の紅葉饅頭を握り潰しそうになり、顔を真っ赤にして口をついた。「あ、あなたは……誰ですか?」


少女は歩み寄って、一枚の紅葉を拾って少年の手に渡した。紅葉には暖かな霊気が漂い、少年の心が一瞬にして落ち着いた。「私は楓よ。この紅葉林を守っている精霊だ」


「楓さん……」少年は名前をつぶやき、思い出した祖父の話。昔、浅羽家の先祖が紅葉精霊と約束を交わし、幾世紀か後、浅羽家の少年が精霊と愛し合い、余生を共にしたという伝説。手の紅葉が暖かくて、目の前の少女の笑顔が心に刺さって、一瞬で前世の記憶の欠片が蘇った——紅葉の篝火、川に流した灯籠、満山の花火、そして永遠の約束。


「あなたは、浅羽家の子ね?」楓は笑って問う、瞳には幾千年分の柔らかさが宿っていた。「紅葉饅頭、おいしそうだね。一緒に食べない?」


少年は頷き、緊張が解けて笑顔になった。二人は紅葉の山に座り、紅葉饅頭を分け合って食べ、楓が紅葉林の話を、少年が山下の話を、それぞれ語り合った。風が紅葉を舞わせ、林にささやき声が響き、まるで幾百年前のあの秋の日々が、繰り返されているようだ。


それから少年は毎日紅葉林に来る。楓と紅葉を拾い、絵を描き、紅葉露の泉の傍でお茶を飲み、老紅葉の木の下で昔話を聞く。山下の人々は「浅羽家の少年が紅葉精霊様と仲良くしている」と話し、驚かずに祝福する——これは箱根の紅葉林が、幾星霜を経ても変わらない、最も温かな宿命だ。


春が来れば、林の縁の桜が咲き、紅葉と桜が相映えて絶景を作る。夏が来れば、紅葉の日陰が涼しく、蝉時雨が響き、二人は泉の傍で昼寝をする。秋が来れば、満山の紅葉が更に濃く燃え、紅葉祭りが開かれ、二人は紅葉の仮面を着けて露店を巡り、川に灯籠を流す。冬が来れば、雪が紅葉に積もり、紅白が鮮やかに映え、二人は小木造りの家で篝火を焚き、お茶を煮て話し込む。


前世の遺憾はなく、宿命の束縛もない。紅葉は四季を超えて常紅で、愛しさは幾星霜を経ても消えない。浅羽蓮と楓の物語は、一回り、再び始まった——これは終わりではなく、永遠の循環の中で、二人が何度でも出会い、寄り添い、余生を共にするための、新たな始まりだ。


箱根の紅葉林は、今も昔も、紅葉が舞い落ちるたびに、真心を込めた出会いを見守っている。

風が紅葉を運び、岁岁の安瀾を届け、

君が来る道に、紅葉が満ちている——

それは、永遠に変わらない、愛の証だ。


(完結)

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紅葉舞い時、君に逢う 夏目よる (夜) @kiriYuki_01

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