第五章 紅葉の守りと言い残された告白

楓が紅葉に散った瞬間、山一面の紅葉が激しく揺れ始め、千年の老紅葉の木の幹からは眩い金色の光が爆発した。散った紅葉は空中で再び集まり、楓の姿を再構築した。彼女の姿は更に透明になったけれど、緑の瞳には断固とした決意が宿っていた。


「桃の木の剣で私を倒せると思っているの?甘い考えね。」楓の声は全紅葉林に響き渡った。「この紅葉林は私の家、浅羽家の人は私の恩人。絶対に、あなたに傷つけさせないわ!」


彼女は手を上げると、無数の紅葉が木から舞い落ち、鋭い刃のように除霊師に向かって射ち出された。除霊師は桃の木の剣を振り回して大半の紅葉を防いだけれど、数枚の紅葉が腕を傷つけ、傷口からは黒い煙が立ち上がり、まるで火で焼かれたようだった。


「なぜ……紅葉精霊の力がこんなに強いんだ?」除霊師は不可解そうに叫んだ。


「浅羽家の人たちの紅葉への愛が、私に力を与えてくれるのよ。」楓は指先で私と姉を指した。「彼らとの絆こそ、私の最強の盾なの。」


私は楓の姿を見て、姉の言うことが本当だと確信した。紅葉精霊の力は浅羽家との絆に繋がっていて、私の楓への恋心、姉の紅葉林への思い、祖父の紅葉林を守る気持ち——これら全てが、楓を支える力になっていたのだ。


「絶対に許さない!」除霊師は怒鳴りながら懐からお札を取り出した。札には不気味な模様が描かれていた。「これは精霊封じの札!今日は君を完全に消してしまう!」


彼はお札を空中に投げると、札は黒い鎖に変わって楓に巻きついていった。楓は避けようとしたけれど、力の消耗が激しくて動きが遅くなり、鎖に縛られてしまった。金色の光が彼女の身上から少しずつ散逸し、姿はますます透明になった。


「楓!」私は地面の石を拾って除霊師に投げつけた。


除霊師は横によけて桃の木の剣を私に向けて突き刺さってきた。その瞬間、祖父が突然紅葉林の入り口から走ってきた。手には紅葉の木の杖を持っていて、杖には浅羽家の家紋が刻まれていた。


「畜生!浅羽家の地で悪さをするな!」

祖父の声は年老いていても、威厳に満ちていた。


彼は紅葉の木の杖を地面に強く叩くと、杖の家紋から赤い光が爆発し、紅葉林の紅葉と一体化して固い盾を形成し、桃の木の剣の攻撃を防いだ。


「浅羽家の老いぼれ!」除霊師は睨み付けた。「百年前、浅羽家の先祖が私の計画を邪魔した。今日は、君たちも一緒に始末する!」


「お前に足元にも及ばない!」祖父は冷笑して杖を地面に再び叩いた。十二本の紅葉の木の簪が同時に赤い光を放ち、守りの結界が完全に発動した。紅葉林には豊かな霊気が湧き上がり、除霊師の悪気を完全に抑え込んだ。手下たちは大势已去と悟って、慌てて紅葉林を逃げ出し、誰も後には残らなかった。


結界が安定した後、楓の身上の黒い鎖は消えたけれど、彼女の姿はもうほとんど透明になり、薄い煙のように儚かった。


「楓!」私は急いで彼女に駆け寄って抱き寄せた。「頑張って。紅葉露がそばにあるから、すぐに力を取り戻せるよ。」


楓は頭を振って、指先で私の頬をそっと触れた。「もう遅いの。私の力は全部尽きてしまったわ。」


「紅葉の季節が終わるの。私は眠らなければならないの。」声はだんだん小さくなった。「蓮、一言、伝えたいことがあるの。」


私は耳を寄せて涙が頬を伝った。「話して。聞いてるよ。」


「好きよ、蓮のことが。」楓の緑の瞳に私の姿が映り込んでいた。「初めて会った時から、ずっと好きだったの。」


「私も好きだ!楓が好きだ!」私は彼女を強く抱きしめて咽び泣きながら叫んだ。「消えないで、お願いだ!」


楓は笑って、姿は無数の紅葉に散っていき、私の手の中には一枚の濃い紅葉だけが残った。


紅葉の季節の最後の一枚の葉が落ちた時、楓は完全に紅葉林に帰っていった。


姉と祖父は私の後ろに立って、そっと私の肩を叩いていた。私は手の中の紅葉を握りしめて心の中で誓った——この紅葉林を守り続けて、彼女が目覚めるのを待つ。来年の紅葉の季節が来るまで、一生でも待つ。

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