第三章 帰郷した画家と紅葉林の因縁
紅葉祭りの余韻がまだ冷めやらない頃、箱根の紅葉林には帰郷者が訪れた。
姉の浅羽楓が画材箱を提げて紅葉林の入り口に立っていた日、私は楓と老紅葉の木の下で紅葉の船を折っていた。風が紅葉を彼女の髪に舞い落とし、彼女はベージュのトレンチコートを着て、三年前の青さは褪せ、画家らしい柔らかな雰囲気になっていたけれど、一眼で私だと分かってくれた。
「蓮。」
声は旅の疲れが込み上げて少し嗄れていたけれど、それでも暖かかった。
私は慌てて立ち上がり、そばの紅葉のかごを倒しそうになった。「姉!」
姉は画材箱を置いて急いで私を抱き寄せ、顎を私の肩に付けた。「帰ってきたよ。」
楓は紅葉の木の下に座り、折りかけの紅葉の船を手に持ち、二人が抱き合う姿を見て、淡い笑顔を浮かべていた。姉が私を離れると、楓の方に目を向けて驚いたような表情になった。「この方は?」
「楓という子で、この紅葉林を守っている精霊さんです。」私は楓を引っ張って姉の前に立たせた。「姉を戻してくれたのも、楓さんなんです。」
姉はしゃがんで楓と目線を合わせ、指先で楓の耳元の紅葉の飾りをそっと撫でた。「紅葉精霊……幼い頃、祖父から聞いた話だわ。浅羽家の先祖が、傷ついた紅葉精霊を助けたことがあるって。本当に会えるなんて、夢みたい。」
楓の緑の瞳に驚きが閃いた。「その話、知ってるの?」
「うん。」姉は頷き、画材箱から色褪せたノートを取り出した。「これは曾祖父の日記よ。百年前、この紅葉林が山火事に遭って、紅葉林を守るために火傷を負った精霊さんを、浅羽家の先祖が家に連れて帰り、紅葉露で三年間養って、やっと力を取り戻してもらったのよ。」
「精霊さんは恩返しに、浅羽家の人一人につき、『再会』の願いを叶える約束をしたんだって。」
楓は指先で老紅葉の木の幹をそっと撫でた。幹には淡い焦げ跡が残っていて、それは百年前の山火事の痕跡だった。彼女の声は遠くなった。
「原来如此……私が待っていた人は、あなたたちだったのね。」
百年前、浅羽家の先祖に助けられて恩返しの約束をした後、楓は長い眠りについた。三年前、姉が箱根を離れて浅羽家に「再会」の願いが生まれた時、彼女は目覚めて人形になり、紅葉林に待ち続けていた——浅羽家の人の出現を。
「自分の気まぐれで、蓮の願いを叶えようと思っていたと思ってた。」楓は笑いながら言った。「最初から、あなたたちとの出会いは運命だったのね。」
姉は日記を開き、あるページを指さした。「日記には、紅葉精霊の力は浅羽家との絆に関係しているって書いてあるの。浅羽家の人が紅葉林を愛せば愛するほど、精霊さんの力は強くなる。逆に忘れてしまえば、力は衰えていってしまうのよ。」
私はこの時、楓の力が紅葉の季節の終わりと共に弱まり、眠りにつかなければならない理由に気づいた。近年、浅羽家の人は少なくなり、祖父は年を取り、姉はパリに遠く離れていて、私もたまにしか紅葉林に来なかった。紅葉林への愛が足りないため、彼女は人形の姿を維持する力がなくなるのだ。
「ごめんね。」姉の声に謝罪の気持ちが込められていた。「私たちが紅葉林を忘れてしまい、精霊さんのことも見過ごしてしまった。」
「大丈夫よ。」楓は頭を振った。「蓮に出会えて、あなたが戻ってきてくれて、もう十分幸せよ。」
その午後、三人は紅葉の木の下に座って話をした。姉がパリでの出来事、描いたプラタナスの話、失敗した展覧会の話をして;楓が百年前の紅葉林、浅羽家の先祖との出会いの話をして;私はその傍らで時々一言二語挿入した。木漏れ日が暖かく降り注ぎ、まるで穏やかな家族の集まりのようだった。
姉は私と楓が目を合わせて笑う姿を見て、そっと私の袖を引っ張り、耳元でささやいた。「蓮、楓さんのこと、好きだろ?」
私の顔は一瞬真っ赤になり、答えに詰まってしまった。姉は笑って私の肩を叩いた。「好きなら追いかけなさいよ。精霊だって何だ?浅羽家の人は、種族を超えた恋なんか、怖くないものよ。」
私は楓の背中を見て、心の中の恋心が紅葉のように勢いよく生長し、もう隠しきれなくなった。
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