第二章 紅葉祭りの約束と楓の心配事

日々が流れていき、私は毎日紅葉林に行って楓と過ごした。二人で紅葉を拾い、絵を描き、紅葉の木の下で紅葉饅頭を食べて、まるで長年の友達のようだった。


楓はあまり喋らないけれど、私が落ち込んだ時には優しく励ましてくれる。彼女の心は細やかで、私が小豆餡の紅葉饅頭が好きなことを覚えていて、絵を描く時に行き詰まったら、さりげなくヒントをくれる。私はだんだん、姉を戻すためだけに彼女に付き添っているのではなく、楓自身と一緒にいることが、本心から嬉しくなっていることに気づいた。


紅葉祭りまであと一週間になった時、楓が突然話しかけてきた。

「紅葉祭りの日、紅葉林で『楓祭り』があるのよね?箱根一番ににぎやかな祭りだと聞くの。一緒に行ってくれる?」


「もちろん行くよ!」私は笑って答えた。


紅葉祭りは箱根の伝統行事で、毎年紅葉が一番美しい時に開かれる。祭りのパレード、紅葉の露店、それに一番華やかな「紅葉の篝火の夜」まである——紅葉林の空き地に大きな篝火を焚き、人々は輪になって歌ったり踊ったりして、夜明けまで楽しむのだ。


「約束ね。紅葉祭りの日、露店を全部回って、一緒に紅葉灯籠を流すわ。」楓の瞳は期待に輝き、子供のように無邪気だった。


私は頷いたけれど、心底には不安がよぎった。ここ数日、楓が老紅葉の木の前でぼんやりと立ち尽くしているのをよく見かけ、緑の瞳には淡い哀しみが宿っている。何があったのか問いかけても、彼女はいつも笑って振り払うだけだった。


紅葉祭りの日、箱根は例年以上ににぎやかだった。街中には紅葉形の提灯が飾り付けられ、露店には紅葉饅頭、紅葉餅、紅葉酒などが並び、どこからも笑い声が溢れていた。


私は楓と手を繋いで露店を巡った。彼女は薄いピンクの着物を着て、全身に紅葉の刺繍が施されていて、栗色のカールは丸髻にまとめられ、紅葉の木の簪が差されていた。緑の瞳が提灯の光に映り、妖艶でありながら可愛らしかった。通りすがりの人々は皆振り返り、絵から出てきた紅葉の神様だと嘆賞していた。


「ほら、あの紅葉の仮面、可愛いじゃない?」楓はある露店で紅葉形の仮面を手に取り、顔に付けて私を見た。「似合う?」


私は彼女の姿を見て、心臓がドキドキした。「……すごく似合う。」


彼女は笑って仮面を外し、もう一枚を私に渡した。「じゃあ二人で付けるわ。」


紅葉の仮面を付けて、二人は全ての露店を巡り、甘い紅葉饅頭を食べ、芳醇な紅葉酒を飲み、一対の紅葉形のペンダントを買った——一人一枚で、ずっと身に着けている。


夕暮れ時、二人は紅葉林の空き地に向かった。すでに大きな篝火が焚かれていて、人々は輪になって歌い踊り、賑やかな雰囲気だった。


「紅葉灯籠を流そう。」楓は私を引っ張って小川の辺りに行き、手には二つの紙製の紅葉灯籠を持っていた。


紅葉灯籠は紅葉祭りの名物で、願い事を灯籠に書いて川に流すと、紅葉神様が願いを聞いて叶えてくれると言われている。


私は筆を取り、灯籠に書き記した——姉の展覧会が順調であるように、祖父の体が健康であるように、楓が永遠に幸せであるように。


楓も自分の灯籠に何かを書いている。私が近づいて覗き込もうとすると、彼女が手で遮った。「見ちゃダメ。願い事は言ったら叶わないのよ。」


私は笑って視線を逸らし、彼女が灯籠を川に流すのを見守った。紅葉灯籠は川の流れに乗って紅葉林の奥へと漂い、小さな星のように輝いた。


篝火のパーティーが始まると、二人は輪に入って踊った。楓の踊りは紅葉のように軽やかで、回ると着物の裾が舞い上がり、燃え盛る紅葉の花のようだった。私は彼女の姿を見て、心底からこの瞬間が永遠に続けばいいのにと思った。


パーティーが終わる頃、空はすでに夜明け間近だった。私と楓は紅葉の木の下に座り、空の魚肚白を眺めて、誰も喋らなかった。


「蓮。」楓が突然声を出した。声は低く、悲しげだった。「精霊の命は長いけれど、人間の命はすごく短いのよね。」


私は心臓が締め付けられるような痛みを感じた。「何を言ってるの?」


「私がこの紅葉林を守って百年以上、別れは何度も見てきたわ。」楓の緑の瞳に哀しみが溢れていた。「人が来て、人が去り、私を覚えている人もいれば、忘れてしまう人もいる。もう慣れたつもりだったけど、あなたに出会ってから、怖いと感じるようになったの。」


彼女は私の方を振り返り、涙が瞳に溜まっていた。「あなたが他の人たちと同じように、紅葉林を離れて私を忘れてしまうのが怖い。あなたが年老いていくのを、永遠に同じ姿で見守らなければならないのが、辛いのよ。」


私は彼女を強く抱き寄せた。「そんなことはない。絶対に忘れないし、離れない。」


「でも……」楓の声は咽び泣き混じりだった。「紅葉の季節が終わると、私の力も紅葉と一緒に散っていくの。来年の紅葉の季節が来るまで、長い眠りにつかなければならないの。待ってくれる?」


私は力強く頷き、彼女の髪の毛に顎を付けた。「待つよ。君が目覚めるまで、来年の紅葉が紅くなるまで、一生待つ。」


楓は私の胸の中で長い間泣き続け、涙がシャツを濡らし、私の心の中まで染み込んだ。私はこの時、彼女への感情が「紅葉の相伴」という約束を超えて、もう抑えきれないほどの恋心になっていることを悟った。

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