男しか冒険者になれない世界で、俺だけが女子にジョブを与えられる件

鏡銀鉢

第1話 男しか冒険者になれない世界で、俺だけが女の子を冒険者にできる



「お願ぁい♪ あたしを冒険者してくださぁい♪」

「ジョブカード出たんでしょ? 私にちょうだい。君のために頑張るからぁ♪」

「アラ、それならワタシのほうがアナタの役に立つわよ。どーお?」


 ダンジョンから帰還するなり、眩いばかりの美少女たちが甘い声と共に殺到してくる。


 あの子もこの子もみんな瞳を輝かせて、思い思いの仕草でおねだり。

 みんな、今日もアイドルやグラドル仕込みの技が光っている。

 黄色い声に苦笑いを浮かべ、俺はたじたじと下がる。


 肩越しに振り返ると、仲間の女性陣がジト目を送ってきたり、呆れていたり、不機嫌だったり。


 ――やれやれ、またこのパターンかよ……。


 左右の眉根を寄せて、溜息が吐いて出る。

 状況だけ見れば男子垂涎の究極ハーレムライフ。


 だけど実際はうんざりだ。


 けれど群がる女の子たちの気持ちもわかる。


 だってこの世界で――俺だけが女の子を冒険者にできるのだから。

 すっかり弱り果てながら、自分の力が世間にバレた日のことを思い出す。


   ◆


 鳴神蓮斗(なるかみ・れんと)16歳。

 本業――高校一年生。

 副業――冒険者。


 日本中に掃いて捨てるほどいる、つまらない高校生だ。

 休日の過ごし方はと言えば、ダンジョンに潜ってモンスター退治。


 換金した素材で帰りはファミレスでちょっといいものを食べてあとは家でゲームと動画。


 八年前の父さんが聞けば、顔をしかめるようなライフサイクルだ。

 けれど、今どき小言を言う人は少数派だ。


「あらよっと」


 石造りの神殿の中で、猛禽類とライオンが融合したモンスター、グリフォンにトドメを刺す。


 俺の凶弾に撃ち落されたグリフォンは甲高い悲鳴を上げながら墜落。

 女神の石像に激突して粉砕。


 大きく減速して敷石の上を転がりながら二度痙攣。

 大きく血を吐いたかと思うと、全身を光の粒子に変えた。

 光の粒は二枚のカードの形に収束して、その場に落ちる。


「はい、いっちょあがり」


 指先で拾い上げる。

 手札のように左右に広げると、一枚にはグリフォンのイラストと名前が、もう一枚にはドロップアイテムである装備品のイラストと名前が刻印されている。


 まるでゲーム。

 だけど現実だ。


 ここは七年前、世界中に出現した謎の巨大構造物、ダンジョンの中だ。

 外観以上に内部は広く、神話に出てくるようなモンスターたちが闊歩している。

 内部はゲームのような法則がまかり通っていて、原理はいまだ不明。

 そんなフィッシング詐欺の謳い文句が如く怪しい場所をブラついている俺はほどほどにバカである。


「もうちょっとだけ……いや、そろそろ帰るか」


 カードを異空間へ収納すると、下り階段へと踵を返した。

 こんなことを、もう三年も続けている。

 しかし文句は日本政府に言ってくれ。


 何せ各国が警戒していたのは最初だけ。


 内部のモンスターが何故か外に出てこないこと。

 モンスターの素材とドロップアイテムが現代科学の限界を軽く超えること。

 モンスターを倒すとアメコミヒーロー顔負けの超人化を果たすこと。

これら三つの事実が判明するや否や、どの国も国民にダンジョン探索を推奨した。


「好きな時に引き時を決められるのは、ソロ冒険者の特権だよな」


 帰りに何を食べるか考えながら、俺は帰路に着いた。

 最初こそ一部のコメンテーターやコラムニストが原理不明の危険性を声高に主張していた。


 でも、全身麻酔を含め、医療や科学の分野でも、原理不明のまま使用している技術は意外と多い。


 結局、人間は目先の利益と利便性、それから他国に後れを取りたくないというプライドには勝てないのだ。


 やだやだ、これだからは拝金主義は、なんて笑ってもいられない。

 俺だって、危険を承知で小遣い稼ぎに精を出しているのだから。


 一時間客に怒鳴られて頭を下げて1000円もらうより、リアルVRゲームで遊んで金がもらえるならこんないいことはない。


 今や、小学生のなりたい職業ランキングはユーチューバーではなくプロ冒険者だ。

 かくいう俺も、進路希望調査書には高校卒業後の欄に冒険者と書いた。

 他の男子もみんなそうだ。


 もっとも、俺はトップ冒険者になってスターやインフルエンサーを目指しているわけでも、女子アナと結婚したいわけでもない。

 それが、社会の要求というだけだ。


「うわぁ、今日も並んでるなぁ。いい加減窓口増やしてくれよ……」


 出口から外に出ると、併設されている素材の買い取り査定所の自動ドアをくぐる。

 銀行の待合室よろしく、長椅子はどこもいっぱい。

 カウンターには次に呼ばれる人の番号が10人先まで表示されていて、せっかちな冒険者たちが10人以上も並んでいる。


 指定席なのに開場前から集まり長蛇の列を作るスポーツファンしかり、何故人は無意味に並びたがるのか。


 偉い人に教えて欲しいものだ。


 ベンチに腰を下ろし、スマホでウェブ漫画を読みながら時間を潰していると、どうしても周囲の声を拾ってしまう。


「よっしゃ、FランクからやっとEランクだ! Aランクまで駆け上がるぞ!」

「橘アナ、俺がAランクになるまで未婚でいてくれるかなぁ」

「不謹慎だな。僕は新庄プロの事務所に就職して、国の為にレア素材集めに励むよ」

「俺はうちの親父が工場やってっから、俺が取って来れば材料費タダだろ?」


 みんな、自分の夢の為に頑張っている。

 君たちは偉い、俺の分まで頑張ってくれたまえ。

 俺はと言えば、誇れる夢も希望も明日も無い。


 なんなら、冒険者だってやりたくてやっているわけではない。

 だけど男は冒険者になってダンジョンで素材とドロップアイテムを手に入れて社会に貢献する。

 それが今の日本の普通。


 せっかく男なのにもったいないと言われたくない。

 時代遅れのダサい奴と思われたくない。

 だから、学校に行きながらバイト感覚で放課後と休日はダンジョンに潜っている。


 まぁ、世間から後ろ指を刺されずお小遣いも稼げるなら一石二鳥だ。

 同調圧力に弱い日本人の鏡である。

 少年少女よ、俺を見習っていいぞ。これが処世術というものだ。


 デジタルカウンターに俺の番号が表示されてから五分後、ベンチから腰を上げた。

 長打の列に若い番号を見せて、堂々と横入り。

 前から二番目でスマホ片手に待っていると、


「あぁん? おい姉ちゃん、金額が間違っているんじゃねぇのか?」


 前の客が、受付のお姉さんに横柄な態度で絡み始めた。


「女のくせに舐めてんじゃねぇぞ! あのなぁ! こっちは日本のためにお前ら女に代わって危険なダンジョンで命を張って戦ってやってんの! そういう融通効かない態度取っていいと思ってんのか?」


 見ていて胸糞が悪くなるような光景だ。

 しかし、こんなことは日常茶飯事、街のどこでも見られる。

 同じ男として、びしっと言ってやりたい。心の中で。


 ――やめましょうよぉ。


 恫喝に近い物言いに、お姉さんはすっかり萎縮してしまっている。

 しばらくして、奥から上席らしき男性が顔を出して、奥の部屋へ招いた。


「では、次の方」


 怖い思いをしたはずのお姉さんは、努めて明るく、0円スマイルを見せてくれた。

 お姉さんの崇高なプロ意識には涙を禁じ得ない。

 俺はグリフォンを含む、今日の収穫物であるカードをずらりとカウンターに並べて、


「大変でしたね。同じ男として代わりに謝らせてください。そしてあんな奴ばかりじゃないって思ってくれたら嬉しいです」


 俺は会釈する程度に頭を下げた。

 するとお姉さんはふんわりと頬を緩めてくれた。


「いえ、いいんです。慣れていますから」


 慣れちゃだめだろう。あんなこと。

 主張がDV夫に苦しむ奥さんそのものだ。

 目の前の女性は、奥さんと言うには若すぎるけど。


「それにほら、私たちが冒険者になれないのは事実ですし……」


 はかなげな笑みに、俺は自分を恥じた。

 七年前のダンジョン出現で世界は変わった。

 文明は50年進んだと言われ、人類はかつてない繁栄を欲しいがままにしている。


 その半面、世界的な男尊女卑に傾き続けていた。

 何故なら――モンスターを倒せるのは、男だけだから。


   ◆


 帰りの駅前で、見知った顔に会った。


「詩織?」

「あ、蓮斗だ。ダンジョン帰り?」


 ワンサイドアップヘアを柔らかく揺らしながら駆けてくるのは、幼馴染の敷島詩織(しきしま・しおり)だ。


 小柄で愛らしい顔立ちと、黄色いリボンで一房だけしばった栗色の髪が魅力的な女の子だ。


 子供の頃はわんぱくだったのに、今ではすっかり恥ずかしがり屋になってしまった。今も体型の隠れるゆったりしたガーリーファッションだ。

 俺以外の男子と話しているところなんて見たことがない。


「おう。さっきな」

「じゃあ一緒に帰ろっか?」


 おしとやかに優しく微笑む詩織。

 俺にだけ見せてくれる表情が嬉しくもあり、寂しくもあった。


「ならどっか寄ろうぜ。詩織の家、晩飯の用意まだだったら奢るよ」

「え、そんな悪いよ」


 大和なでしこを体現するように奥ゆかしく遠慮する詩織。

 そんないじらしい態度を取られると、ますます食べさせたくなってしまう。


「いいか詩織、金は天下の回り物。稼いだ金は使ってこそ価値がある。金は金よりも大切なものを守るために存在すると知れ」


「お、お金より大切なものって?」


 ミルク色の頬が、ほんのりと赤くなった。


「そりゃあおじさんとおばさんの夫婦の時間とか」

「ママの為なの!?」


 詩織は、ほげー、という擬音語が見えそうな顔で固まった。


「そうだぞ。高校生にもなれば夫婦円満の為に子供は定期的に遅く帰って夫婦水入らずの時間を作るんだ。その結果、非行の兆候と言われる勇気を持て。これも親孝行だ」


「そんな歪んだ親孝行あるのかな?」


「ある! だけど詩織は女の子だから夜遅く出歩いていたら危険だから俺と一緒に飯を食うのだ! あ、すいませんおばさん、俺です蓮斗です」


「もう電話している!? ていうかお母さんのスマホの番号知っているの!?」

「はいはい、今一緒にいまして……娘さんは三時間くらい俺が足止めしておきますので」


「足止めって何!?」

「帰る30分前にはLINEで連絡しますね」

「LINEまで!?」

「ではでは~……よし詩織。来年の今頃にはお前に妹か弟が生まれているぞ」

「親指を立てないでよ!」


「怒っていると回転寿司がファミレスにランクダウンしちまうぞ~」

「これで黙ったらシキシマが食いしん坊みたいじゃない」

「シキシマ?」

「ぁぅ……」


 詩織はつつましく頬を染めて、恥ずかしそうにうつむいた。可愛い。

 男子がママ呼びから母さん呼びに変えるように、女子の人生にも転換期がある。

 それは一人称を自分の名前からあたしやわたしに変えることだ。

 ただし、詩織は今でもその癖が時々出てしまうことがある。


「ふふふ、油断したなシキシマンよ。お寿司に魅力に釣られるとはそちもまだまだよのぉ」


「シキシマンはやめてよ! そっちは完全に卒業したんだから! それに蓮斗がママと仲良くするからでしょ?」


「幼馴染の母親は実質幼馴染だと思うんだ」

「どういう理屈!?」

「それで結局回転寿司と焼肉と食べ放題とどれががいいんだ?」

「ガッツリ系にしないでよ!」

「いま駅中の食べ放題店がスイーツフェスをやっているんだが?」

「……」


 三点リーダのあとに、詩織は子猫が鳴くような声で唇を尖らせた。


「た、たべほうだい……」

「じゃあ行こうぜ」


 小柄な詩織の顔を覗き込み、歯を見せて笑ってやる。

 それから大股に歩きだす。

 詩織がちょこちょことついてくるのを確認してから、彼女と歩幅を合わせる。


 そうして俺らは並んで歩いた。


 背丈は頭一つ分以上も変わっちまったけど、こうしていると小学生時代を思い出しす。横柄なバカ冒険者のことなんて忘れて、足取りは軽く胸がスカッとした気分になれた。


   ◆


 たっぷりと食事と恥じらう詩織を楽しんだ後、俺れは近所のT字路で別れた。


「じゃあね蓮斗。今日はありがとう。明日また学校でね」

「おうっ」


 大きく手を振りながら遠ざかる詩織を、俺は軽く手を挙げて見送った。

 彼女の姿が見えなくなると、振り返って自宅を目指した。

 詩織は可愛い。それは万有引力の法則も明らかなことだ。


 だけど、昔はカッコよかった。


 それこそ、満月をバックにしてキメポーズができるくらい。

 人気のない暗い夜道でふと立ち止まり、星空を見上げた。

 生憎と今日は新月で、月明かりは見えなかった。

 主役不在の空は、なんだか物足りない。


「昔はあんなんじゃなかったんだけどな……」


 うつむき、舗装された灰色の地面を見下ろす。足が重くて、詩織もいないのに歩幅が狭くなる。


 幼い頃、詩織は俺のヒーローだった。

 正義の味方シキシマン。

 スポーツ万能、強気で勝気で曲がったことが大嫌いな勇気りんりん正義の味方。


 俺のトレーディングカードを奪ったガキ大将の乳歯を、天空回転蹴りでへし折った時の雄姿は、今でも脳裏に焼き付いている。



『蓮斗をイジメる奴は正義のヒーロー! シキシマンが許さないぞ!』



 画面の中のヒーローよりも、俺の推しはずっとシキシマンだった。


 だけど、シキシマンを倒したのはガキ大将でも悪の怪人でもなければ、まして思春期でもなかった。


 ダンジョンが全てを壊した。


 あらゆる業界のパワーバランスを崩壊させるダンジョンでモンスターを倒すと、人はジョブと呼ばれる異能を得て超人化する。


 だけど、何故かジョブを得られるのは男性だけだった。

 世界中で数百万人の女性が試したが、いくら弱い低階層のモンスターをいくら倒してもジョブは得られなかった。


 そして中層以上のモンスターはあまりに強かった。

 米軍の女性兵士がマシンガンやバズーカ砲で完全武装して挑むも、まったく歯が立たなかったらしい。


 保護者の引率があれば10歳からダンジョンに入れるため、小四でクラスの男子たちは次々超人化。


 クラスの女子をいじめる男子たちに詩織は立ち向かったけど、あいつが傷つくだけだった。


「俺じゃなくて……詩織が冒険者になれたらいいのに……」


 俺にこんな力があっても宝の持ち腐れだ。

 自嘲気味に笑いながら、ステータス画面を開いた。


 そこで、ふとまだ今日のガチャを引いていないことを思い出した。

 グリフォンなどを倒した報酬でもらったガチャ券を使用して、ガチャを回す。

 ウィンドウが輝き、一枚のカードが表示された。


【★5 ジョブカード:魔法戦士】


「え……?」


 ぽかんと口を開けた。

実体化したカードが手に収まる。


 そこには確かに、魔法戦士っぽい人のイラストと、魔法戦士の名前が刻印されている。


「…………え?」


 グリフォンのカードを解放すれば、グリフォンの死体が現れる。

 アイテムのカードを解放すれば、アイテムが現れる。

 なら、ジョブカードを解放したら?


 ――えぇええええええええええええええええええええ!?


 もう、わけがわからない。


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