第6話 Aランク到達への最終戦
アメルダ町に夏の陽が高く昇る頃、
セレス・グレインはいつものように掃除道具を背負い、
ギルドの広間で最終クエストの説明を受けていた。
今回の依頼は、Aランク昇格を賭けた特別クエスト――
「湖畔の大型モンスター討伐」である。
「……大型モンスター?」
セレスは少し驚きながらも、ほうきを背に立ち上がる。
「ええ、掃除スキルで何とかなるはずです!」
ギルドマスターのヤコブは苦笑した。
「君の掃除スキルで大型モンスターを討伐……まあ、何とかなるといいな」
受付嬢リンスとマールも心配そうに見守る。
「セレス、今回は戦闘スキルも必要よ」
「ええ、でも掃除で……」
セレスの言葉に、マールは目を丸くする。
「またその自信か……どうなることやら」
### 湖畔への道
セレスは小道を進み、湖畔の森へ向かう。
周囲は静まり返り、鳥の声だけが響く。
湖のほとりには、巨大なモンスターの足跡が点々と残っていた。
セレスは足元の落ち葉や枝を払いながら、慎重に進む。
「まずは、巣をきれいにして……掃除すれば仲良くなれるはず」
無邪気な呟きが森に溶け込む。
小動物や鳥たちも、彼の通る道を避けるように静かに見守る。
そして、湖の中央にそびえる岩場で、ついに大型モンスターが姿を現した。
体長は二メートルを超え、鋭い牙と爪を持つ。
普通の冒険者なら恐怖で立ちすくむ場面だが、
セレスの目には「汚れた巣をきれいにしなきゃ!」という使命感しかなかった。
### 勘違い戦術、再び
モンスターは唸り声を上げ、襲いかかろうとする。
しかしセレスは構わず、落ち葉や泥を掃き集め、巣の周囲を整頓する。
モンスターは最初戸惑い、牙をむき出しにするが、次第に落ち着いてくる。
「よし、少し掃除しただけで落ち着いたね」
セレスはにこやかにほうきを振り、岩場の苔や汚れを丁寧に取り除く。
モンスターは立ち止まり、体を小さく震わせながらも、攻撃の手を止めた。
その姿に周囲の冒険者たちは驚愕する。
「掃除……で……制御してる……?」
「まさか、またあの農民か……!」
セレスは無邪気に笑い、モンスターに話しかける。
「掃除って楽しいね! 一緒にきれいにしよう!」
モンスターは唸る代わりに、セレスの動きをじっと見つめる。
その瞬間、湖畔全体が不思議な静けさに包まれた。
### 巣の浄化と勝利
セレスは巣の中心に進み、壊れた木の枝や泥を整理し、苔を掃除して整える。
すると、モンスターはぴたりと動きを止め、巣の中央に座り込んだ。
セレスはにっこりと笑う。
「これで全部きれいになったね!」
巨大モンスターはセレスを一瞥し、咆哮もせず静かに湖畔を見つめる。
「掃除で……倒すんじゃなくて、仲良くさせた……?」
遠くから見守っていたギルドの調査隊も驚きを隠せない。
湖畔の清掃が完了した瞬間、セレスのクエストは成功と認定された。
大型モンスターも湖に戻り、暴れずに静かに去っていく。
セレスは肩を叩かれ、周囲の冒険者や受付嬢たちに祝福される。
### ギルドでの報告
アメルダ町に戻ったセレスは、
ギルドの広間でマールとリンスに迎えられる。
「セレス、今回もやっぱり掃除だけで……!」
マールは目を輝かせ、拍手を送る。
リンスも微笑みながら、報告書を手渡す。
「あなたの活躍、Aランク昇格に値するわ」
ギルドマスターのヤコブは半ば呆れながらも、評価を認めた。
「掃除で大型モンスターを制した……まさかここまで成長するとはな」
セレスは誇らしげに胸を張り、静かに呟く。
「掃除スキル、やっぱり最高……!」
### Aランク冒険者、誕生
その日の夜、セレスはギルドの宿舎で静かに横たわった。
Fランクから始まった冒険者生活、モンスター騒動、ゴブリン退治、
掃除大会……すべての経験が積み重なり、
彼はついにAランク冒険者となったのだ。
「これからも、掃除で世界を助けていくんだ……!」
無邪気な決意に、宿舎の窓から差し込む月光が優しく照らす。
セレスの物語は、ここで一区切りを迎える。
しかし、新たな冒険や困難は、必ず次の一歩の先に待っている。
掃除スキルだけで成し遂げたAランク――誰もが予想しなかった、
異世界に生きる農民の奇跡だった。
掃除スキルで世界を救う!? 農民セレスの冒険者日誌 塩塚 和人 @shiotsuka_kazuto123
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