第5話 町の掃除大会とAランクへの伏線

アメルダ町に春の風が吹き抜けるある日、町は不思議な熱気に包まれていた。


掲示板には大きく「町民参加! アメルダ掃除大会」と張り出され、


冒険者ギルドも例外ではなかった。


受付嬢マールが手を叩きながらセレスを呼ぶ。


「セレス! 今回の掃除大会、あなたも参加するのよ!」


「え、掃除大会……ですか?」


セレスは少し驚いた様子だったが、すぐに目を輝かせる。


「もちろんです! 僕の掃除スキルを存分に発揮するチャンスですね!」


リンスもにっこり微笑む。


「セレス、今回の大会はただの町民参加イベントじゃないわ。


優勝すれば、特別クエストへの推薦状も出るのよ」

「特別クエスト……!」


セレスの胸は自然と高鳴った。


FランクからEランクを経て、次はB、Aランクへの道のりが見え始めている。


### 大会の開幕


大会当日、広場には町民や冒険者が集まり、各ブースに分かれて掃除道具を

手に競い合っていた。


セレスは自慢のほうきと雑巾を手に、広場中央のステージに立つ。


観客の視線が集まり、期待と好奇心が入り混じる。


「よーし、まずはほこり取りから……!」


セレスは小さな声で呟くと、手際よくステージ周りを掃き始める。


しかし、彼のやり方は普通ではない。


落ち葉を分類し、ゴミを種類別に並べ、砂や泥も丁寧に取り除く。


隣の冒険者たちは目を丸くする。


「ちょっと、あの農民……すごすぎないか?」

「まさか掃除だけでここまで……!」


セレスは気づかず、楽しそうに手を動かす。


無邪気さと丁寧さが、人々の注目を一気に引き寄せていた。


### 予期せぬモンスターの登場


大会の最中、広場の片隅で小さな騒ぎが起きる。


森から迷い込んだ小型モンスターが観客席に入り込み、混乱が広がったのだ。


セレスは瞬時に察知する。


「大丈夫、僕に任せてください!」


彼はモンスターを追いかけ、落ち着かせながら掃除道具で

小さな足跡やほこりを拭き取る。


モンスターは戸惑いながらも、セレスの優しい手つきに従う。


観客たちは息を呑み、次第に微笑みに変わった。


リンスが驚きの声を上げる。


「セレス……掃除だけでモンスターを落ち着かせてるわ……!」


マールは手を叩き、目を輝かせる。


「すごい! まさか掃除で制御できるなんて!」


セレスは汗をかきながらも笑顔だ。


「掃除は心もきれいにするんです!」


その無邪気な言葉に、周囲の人々は思わず拍手を送る。


### 審査と評価


大会終了後、町長とギルドの審査員たちがステージに上がり、

結果発表を行った。


ほこりやゴミの量、作業スピードも重要だが、

モンスター対応や観客の安全まで考慮される。


セレスのステージは完璧だった。


落ち葉やゴミは分類され、モンスターも無事に森に返された。


観客は口々に賞賛の声を上げる。


「優勝……セレス・グレイン!」


呼ばれた瞬間、セレスは驚きのあまり手に持っていたほうきを落とす。


「え……僕が?」


審査員たちは笑顔で頷く。


ギルドマスターのヤコブも少し照れながら評価を示した。


「予想外だが、君の掃除スキルと無邪気さは見事だった」


優勝賞品として、次の特別クエストへの推薦状が授与される。


これにより、セレスの冒険者ランクは確実にBランクへの昇格が視野に入った。


### Aランクへの伏線


その夜、ギルドの宿舎でセレスは一人、今日の出来事を振り返る。


掃除大会での活躍、モンスターの対応、観客の反応……。


Fランクで始まった冒険者生活が、少しずつ確かな手応えへと変わっていた。


「掃除って、本当にすごい……」


彼は静かに呟く。単なる家事だったはずの技術が、町の人々を助け、

モンスターを落ち着かせ、ギルドでも評価される。


リンスがそっと話しかける。


「セレス、あなた、このまま順調にいけばAランクも夢じゃないわね」


セレスは笑顔で答える。


「ええ、掃除スキルで世界をもっときれいにします!」


マールも元気よく肩を叩く。


「その勢いなら、どんなクエストでも大丈夫ね!」


その言葉通り、セレスの冒険はFランクからEランク、

そしてBランクへと着実に進んでいる。


だが、町の奥深くには、まだ見ぬ強敵と困難が待ち受けていた。


掃除スキルだけで立ち向かえるのか、それは誰にもわからない。


しかし、セレス自身は恐れず、前へ進むことを決めていた。

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