第4話 伝説のゴブリン退治
朝日がアメルダ町の屋根を黄金色に染める頃、
セレス・グレインは今日のクエストに胸を躍らせていた。
今回の依頼は、Fランクを卒業し、次のEランク昇格を見据えた
「伝説のゴブリン退治」である。
伝説と聞くだけで多くの冒険者が尻込みする案件だが、
セレスは相変わらず無邪気に構えていた。
「ゴブリンか……掃除して、仲良くなれば大丈夫だよね!」
彼はそう呟き、背中のリュックを確認した。
中には雑巾、ほうき、そして小型の掃除用具がぎっしり詰まっている。
戦闘用の武器は一切ないが、セレスにとってはそれもまた、
冒険の武器となるはずだった。
ギルドマスターのヤコブは、今日のクエストに向かうセレスを見送る際、
眉をひそめた。
「掃除でゴブリンを……本当に何とかなると思っているのか?」
「大丈夫です! 僕の掃除スキルなら!」
無邪気に答えるセレスに、ヤコブはため息をついた。
### ゴブリンの巣へ
森を抜け、グレイン森の奥深くにあるゴブリンの巣に到着したセレス。
巣は想像以上に荒れており、ゴブリンたちが散らかしたゴミや落ち葉、
壊れた道具が散乱していた。
普通の冒険者なら戦闘準備を整え、警戒しながら進むところだ。
だがセレスにとって目に入るのは、「掃除ポイント」のみだった。
「ふむ……ここはほこりが多いな。
まずは床をきれいにして……」
ほうきを手に、巣の隅々を掃き始める。
ゴブリンたちは最初こそ警戒していたが、
セレスの無邪気な動きと掃除行為に次第に興味を持ち始めた。
「な、何してるんだ……?」
小型のゴブリンが首を傾げる。
セレスは振り返り、にこやかに手を振った。
「掃除ですよ! 汚れたままだと気持ちよくないでしょ?」
ゴブリンたちは次第に警戒心を解き、セレスの周りに集まる。
彼は驚かず、むしろ楽しそうにゴブリンの足元や手に付いた泥を拭き取る。
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### 勘違いの戦術
巣の奥に進むと、いよいよリーダー格の大型ゴブリンが現れた。その姿は威圧的で、普通の冒険者なら全力で戦うレベルだ。セレスは少しだけ立ち止まり、深呼吸する。
「……ここも、掃除すればきっと仲良くなれる!」
彼は大型ゴブリンの足元の落ち葉や泥を丁寧に掃除し始めた。ゴブリンは当初、セレスを襲おうとしたが、足元がきれいになる感覚に戸惑い、動きを止める。セレスは無邪気に話しかける。
「よしよし、気持ちいいでしょ? 掃除って楽しいよね!」
大型ゴブリンは、理解できないながらも徐々に落ち着き、セレスの行動に従順になっていく。周囲の小型ゴブリンも興味津々で掃除を手伝うように見える。まるで「掃除大会」に巻き込まれたかのような光景だった。
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### クエスト成功への道
巣全体を掃除し終えた頃、ゴブリンたちは完全に落ち着き、リーダー格の大型ゴブリンはセレスを見上げて無言で頷く。セレスはにっこり笑いながら、巣の中央に置かれた壊れた道具や散らかった家具を整頓する。
「これで全部きれいになったね!」
その瞬間、森の中に現れたギルドの調査隊が状況を確認する。彼らは目を見開き、口をぽかんと開けた。
「何だ……これは……掃除でゴブリンを……制圧……?」
「いや、もう戦闘なしで終わってる……」
セレスは無邪気に答える。
「はい! 掃除スキルでゴブリンと仲良くなりました!」
ギルド調査隊は報告書に「クエスト成功」と記入し、セレスの評価は大幅に上がった。EランクからDランクへの昇格もほぼ確実だという。
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### 村人への思い
帰路、セレスは森を抜けるとき、ふと思い出した。故郷のフェリウス村で、毎日ほこりと落ち葉と戦っていた自分の姿を思い返す。あの頃の掃除の経験が、まさかゴブリン退治に役立つとは、夢にも思わなかった。
「掃除って……すごいな。僕の小さな努力が、誰かの役に立つんだ」
彼は胸の中で静かに感動する。そして、次なるクエストに向けて心を躍らせた。
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### ギルドでの反響
町に戻ると、セレスの伝説的な「掃除ゴブリン退治」の話は瞬く間に広がった。受付嬢リンスは微笑みながら報告書を受け取り、マールは目を輝かせて話しかけた。
「セレス、あなた、ほんとにすごいわ!」
「掃除だけでクエストをクリアするなんて……!」
ギルドマスターのヤコブも、半ばあきれつつ、しかし評価を隠せない。
「……農民のくせに、恐るべき掃除力だな」
セレスは照れくさそうに頭をかきながらも、胸の中で小さな誇りを感じる。FランクからEランクへのステップが、着実に見えてきた瞬間だった。
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