第3話 迷子の子モンスター騒動

アメルダ町に戻ったセレス・グレインは、

ギルドで初めてのFランククエストを無事に終えた達成感に浸っていた。


掃除スキルだけで小屋を完璧に清め、さらに森で迷子の小さなモンスターまで

世話してしまった。


彼の頭の中では、「今日の僕はかなり有能」と自己評価が高まっていた。


しかし、その晩、ギルドでの簡単な雑用を終えて宿舎に戻る途中、

ふとした物音に気づく。


小道の陰で小さな毛玉のような生き物が震えていた。


「……あれ? 君は、さっき森で出会った子かな?」


セレスは慎重に近づく。


生き物は小さな体を丸め、細かく震えている。


どうやら道に迷ってしまったらしい。


「大丈夫、怖くないよ。僕がきれいにしてあげるから」


彼はそう言うと、持っていた布で軽く毛並みを整え、汚れを払い始める。


生き物は最初警戒していたが、次第に体を預けてくる。


セレスはその無防備さに少し微笑む。


### 騒動の始まり


ところが、その様子を遠くで見ていた別の冒険者たちが近寄ってきた。


「おい、それ、モンスターだぞ!」

「どうしてそんなに優しくしてるんだ?」


セレスは振り向き、にこやかに答える。

「だって、汚れていたから掃除してあげてるだけですよ」


冒険者たちは唖然とする。


普通なら、モンスターは戦うか追い払う対象だ。


だがセレスは、掃除対象としてしか見ていない。


「……いや、この子、やっぱりただの農民じゃない」

「変わり者だな……」


そうつぶやきながらも、彼らはセレスの無邪気さと、

モンスターが懐いている様子に困惑する。


だが、周囲で見守る村人や町の人々も次第に集まり、

騒動は小さな人だかりとなった。


### セレスの勘違い劇


セレスは無邪気にモンスターを抱き上げ、

頭を撫でながら話しかける。


「よし、明日には元の家に戻れるかな……

 でも、汚れてるからきれいにしてからじゃないとね」


その言葉に冒険者たちは耳を疑う。


「え、掃除してから戻すって……何を考えてるんだ?」

セレスは笑顔で答える。


「ええ、だって掃除は大事ですから」


そして、セレスはモンスターを町の広場まで連れて行き、

ついでに落ち葉やゴミを掃除しながら歩く。


道行く人々は驚き、また微笑む。


「……この子、面白いわね」

「見て、このモンスター、めちゃくちゃ嬉しそうじゃない?」


### 小さなヒーローの誕生


町の広場に到着すると、セレスはモンスターを木陰に座らせ、

少しだけ休ませる。


「今日はもう疲れたね。明日、森まで連れて行くから」


そこへギルドの受付嬢リンスが現れる。


「セレス、また何か騒ぎを起こしてるのね……」


しかし、モンスターが人々に危害を加えていないことを確認すると、

リンスは微笑む。


「でも、こんなに落ち着いてるなんて、すごいわね」


マールも現れ、手を叩いて笑った。


「セレス、あなた本当に変わってるわ! 掃除しながらモンスターを

 懐かせちゃうなんて!」


周囲の冒険者たちは唖然としつつも、セレスの行動に興味を持ち始める。


掃除スキルが単なる家事だけでなく、

モンスターを落ち着かせる手段になっていることに気づいたのだ。


### 騒動の結末


その日の夜、セレスはギルドの宿舎で一人布団にくるまった。


「掃除って、モンスターの心もきれいにできるんだ……」


彼は自分の能力を再認識し、これからの冒険に対する期待で胸を躍らせた。


Fランクでの小さな成功――掃除だけで小屋を整え、

迷子のモンスターを落ち着かせた。


周囲の人々からの評価も、少しずつ上がり始めていた。


翌日、森の依頼主にモンスターを返す際、セレスは笑顔で送り出す。


「さあ、元の家に帰ろうね。君もきれいになったでしょ?」


モンスターはぴょんと跳ね、森へと帰っていった。


セレスはその背中を見送り、心の中で小さくガッツポーズをする。


これが、セレスの冒険者としての最初の大きな騒動だった。


掃除スキルと無邪気さだけで、彼はFランクながらも町中の注目を

集める存在となったのだ。

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