第2話 ギルド入会とFランクスタート
アメルダ町の冒険者ギルド――その扉を押し開けた瞬間、
セレス・グレインは目を輝かせた。
冒険者たちが剣を振り、魔法を試す訓練の声が飛び交う。
だが、彼の目はまっすぐ受付周りに釘付けだ。
「まずはここを……ぴかぴかに!」
セレスは心の中でそう宣言し、足早にカウンターに近づく。
受付には、リンスとマールの二人が立っていた。
リンスは落ち着いた微笑みを浮かべ、マールは元気いっぱいに手を振る。
「いらっしゃいませ!」
「こんにちは!」
セレスは深く頭を下げる。
「えっと……僕、今日から冒険者として働きたいんです!」
「なるほど、ではまず登録からですね」
リンスが用紙を差し出す。
セレスは受け取りながら、内心でつぶやく。
「用紙も、きっと掃除ポイント……いや、これは手順か」
用紙に名前や出身、職業を書く――ただの作業に見えるが、
セレスには冒険の第一歩の儀式のように思えた。
記入を終えると、二人は彼を見つめて評価をする。
「セレス・グレインさんですね。職業は……農民……?」
「はい、でも掃除スキルには自信があります!」
マールが目を丸くする。
「……掃除スキル? このギルドでそれでやっていけると思ってるの?」
セレスは笑顔で答える。
「はい! 掃除で世界をきれいにします!」
受付嬢たちは目を見合わせ、顔をほころばせた。
彼の無邪気さは、少し滑稽で、しかし嫌味がなく、どこか応援したくなる。
### Fランク登録
ギルドマスターのヤコブの元に連れて行かれる。
「セレス・グレイン……農民で、掃除が得意、と」
ヤコブは厳しい顔でメモを取りながら言った。
「ふむ……まずはFランクからだな。小規模のクエストで腕を試してもらおう」
「はい! ありがとうございます!」
セレスは胸を張り、初めての冒険者としての登録を終えた。
Fランク――それは、初心者向けの低難度クエストから始めるランクだ。
多くの冒険者は戦闘能力や魔法の腕前でここからスタートするが、
セレスには掃除スキルしかない。
しかし、ギルド側は「やる気」と「無害さ」を評価して、彼を登録したのだった。
### 初めてのFランククエスト:馬小屋掃除
最初のクエストは、意外にも簡単だった。
依頼内容は「グレイン森近くの小屋掃除」。
報酬は少額だが、初心者には最適な仕事だ。
セレスは、心の中で作戦を練る。
「まずは落ち葉を集めて……床を磨いて……小屋の隅々まで完璧に!」
森に到着すると、小屋は予想以上に汚れていた。
ほこり、落ち葉、古いわら、時折現れる小さなモンスターの痕跡――。
セレスは持ち前の掃除スキルを駆使し、ほうきと雑巾を振るった。
「よし、完璧!」
しかし、彼の行動は少しやりすぎだった。
小屋の中の不要なものを整理するうちに、倉庫に保管されていた依頼主の道具まで
並べ替えてしまったのだ。
依頼主が小屋に戻ると、目を丸くして驚く。
「これは……! いや、掃除は完璧だが……なぜこんなに整理されている?」
セレスは無邪気に答える。
「ほこり一つ残さないようにしました! そして……ここも掃除しました!」
結果、依頼主は半ば呆れながらも、清潔になった小屋を見て満足そうに頷く。
報酬を渡され、セレスは得意げに受け取った。
「Fランククエスト、成功!」
### 森の小さな騒動
その日の帰り道、セレスは森で迷子の小動物、いや、モンスターに遭遇した。
ふわふわとした毛玉のような生き物だ。
通常の冒険者なら戦うか、無視するところだが、
セレスはすぐに「掃除の対象」と見なす。
「おっと、ここもきれいにしないとね」
彼は小さな毛玉の背中のほこりを払い、手持ちの布で優しく拭いた。
モンスターはじっとしているが、逃げる気配はない。
森の中で見かねた他の冒険者たちが近寄る。
「おい、それ、モンスターだぞ!」
「でも、汚れてるからきれいにしてあげてるんです!」
セレスは真顔で答える。
周囲は唖然とするが、モンスターはいつしか彼の手の中で大人しくなり、
後に町で小さなペットとして可愛がられることになる。
### 初めての町での評判
アメルダ町に戻ると、ギルドの受付嬢たちはセレスの報告を聞き、
顔を見合わせる。
「……この子、掃除だけでクエストを成功させちゃうなんて」
「しかもモンスターまで懐かせたの? ほんと、何考えてるのやら」
リンスはため息混じりに笑い、マールは目を輝かせた。
「面白すぎる! これは注目株ね!」
セレスは報酬を握りしめ、誇らしげに胸を張る。
彼の冒険者としての一歩は、掃除と無邪気さだけで順調に
踏み出せたのだった。
### 一日の終わり
夜、ギルドの宿舎でベッドに横たわるセレスは、今日の出来事を思い返す。
森での掃除、モンスターとの遭遇、そして初めての報酬――
どれも夢のようだった。
「掃除スキル、最高……」
無邪気に呟くその声は、次の冒険への予感に満ちていた。
Fランクとしての最初の一日――思いがけない騒動と成功で、
セレスの異世界での物語は、ここから少しずつ加速していく。
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