神崎蓮の誤解

「…まぁいいや、きっとお前も小鳥遊先輩の死で混乱しているんだよ。とりあえず、今は大学に行こう。」

「あぁ…そうだな…。」

どこか含みを持つような瞬に促されるまま大学へと向かう。

「では、今から皆さんにお一人ずつお話をお聞きしたいと思います。昨日の行動をなるべく詳細にお話しいただくようお願いします。」 あの後、混乱した思考を落ち着かせながら大学へと向かい、警察から事情聴取を受けることになった。

「それでは、神崎蓮さん、あなたと被害者との関係性を教えてください。」

「僕と先輩が出会ったのは高校生の時です。二人とも文芸部に入っていて、ミステリー好きという共通点があったのですぐに仲良くなりました。そこから二人で小説について話したり、お互いが書いた小説を見せ合ったりしました。」

「同じ大学に入ったのもそれが理由ですか。」「はい、先輩がミステリーサークルに入っていることを知ったので、自分も入りたいと思い進学しました。」

「なるほど、お二人はお互いにとって特別な関係だったと。では、昨晩の行動について教えてください。昨晩は何をしていましたか。」

 素直にわからないと言うべきか迷った。一昨日に食べた夕飯のことは思い出せるのに、昨日のことは何も思い出せないでいた。しかし

昨日のことを思い出そうとすると必ずあの先輩の顔と原稿用紙、そして血に染まった自分の手が浮かんでくる。

「…実は、昨日のことがわからないんです。」

「わからない?」

警察の顔が変わった。容疑者を見るような顔に体がこわばった。

「昨日のことを思い出そうとすると、頭が酷く痛むんです…自分が昨日何をしたのかが何もわからないんです。」

「なるほど、ではほかに何か思い出せることはありますか?些細なことでも構いません。」

「ほんとに何も思い出せないんです。ただ、先輩のことを思い出そうとすると必ず悲しそうな顔が頭に浮かんでくるんです…」

「…なるほど、ご協力ありがとうございます

また何か思い出したらご連絡ください。」

事情聴取が終わる。どっと疲れが押し寄せてし

昨日のことを思い出そうとすると必ずあの先輩の顔と原稿用紙、そして血に染まった自分の手が浮かんでくる。

「…実は、昨日のことがわからないんです。」

「わからない?」

警察の顔が変わった。容疑者を見るような顔に体がこわばった。

「昨日のことを思い出そうとすると、頭が酷く痛むんです…自分が昨日何をしたのかが何もわからないんです。」

「なるほど、ではほかに何か思い出せることはありますか?些細なことでも構いません。」

「ほんとに何も思い出せないんです。ただ、先輩のことを思い出そうとすると必ず悲しそうな顔が頭に浮かんでくるんです…」

「…なるほど、ご協力ありがとうございます

また何か思い出したらご連絡ください。」

事情聴取が終わる。どっと疲れが押し寄せてきて、足取りがおぼつかなくなった。

「おい、大丈夫か?顔が真っ青だぞ。」

大学の入り口で瞬が待っていた。

「あぁ…大丈夫だ。ただ混乱しててどうすればいいかわかんなくてさ。」

「お前は特にそうだよな…俺だってこの先どうすればいいか何てわかんないよ。」

瞬が一瞬、責めるような、どこか同情しているような顔を見せる。

「なあ蓮お前さ、自分が書いた小説覚えているか?」

「小説?何のことだ?」

「覚えてないのか?ちょうど一週間前、お前が書いてたやつだよ」

途端に強烈な違和感に襲われた。大切な何かが欠けている。自分の中にある核とも言うべきピースをなくしてしまったような…

「君は、自分の事しか考えられないんだね。」

瞬間、周囲の時が止まった。自分の心臓の鼓動と、瞬の迫るような視線だけが世界の中心にある。

ナンノコトダ?ソンナコナイダロウ。あの先輩の悲しそうな表情が水面に映る像のように浮かんでは歪んで消えていく。

でもそこで記憶が途絶えた。

「…なぁ蓮、お前は覚えてないのかもしれないけどさ、もう一回小説を見てみようぜ。何かわかるかもしれないしな」

「瞬、こんな事あまり言いたくないんだけどさ、お前は何を知っているんだ?僕に、何か隠していないか?」

違和感はあった。最初から瞬は僕に何かを伝えようとしていた。

そう考えると胸の奥に溜まった濁った水を一気に押し流していき、瞬の一つ一つの言動が急速に、そして不自然に一つの線で繋がっていく。


ーー君が先輩を殺した。




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